旬の数字 2018年7月18日

企業の82%が賃上げを実施!賃上げに関するアンケート結果



執筆:谷口賢吾(BBT大学大学院 専任講師)

皆さんの今年給料は上がりましたか?
賃金収入の増減は個人消費の増減につながり、それが物価やGDPに影響を与える重要な指標です。

東京商工リサーチが5月に行った2018年の賃上げに関するアンケート(回答7408社)によると、回答した企業の82%が賃上げを実施しているようです。

企業の規模で比較しますと、大企業(注1)では84.6%が、中小企業では81.8%が賃上げを実施しています。大企業と中小企業の差は2.8ポイントありますが、企業規模に関わらず賃上げが実施されたことがわかります。

(注1)資本金1億円以上の大企業、1040社
(注2)資本金1億円未満の中小企業及び個人企業等、6,368社

しかし、賃上げを実施した理由でみると、大企業と中小企業の人材に対する考え方に差が出てきています。

賃上げの理由で「雇用中の従業員の引止めのため」と回答したのは、大企業が42.2%であるのに対し中小企業は52.1%と半数を超えています。一方、「従業員の新規採用のため」と回答したのは、大企業が26.0%に対し、中小企業は22.7%と大企業の方が3.3ポイント高くなっています。

さらに、初任給の賃上げの対応でも差が出ています。「新卒者の初任給の増額」を実施した企業は、大企業では25.8%となっているのに対して、中小企業15.2%に留まっており、その差は10.6ポイントとなりました。

大企業の方が資金に余裕があるため、人材確保のために初任給を上げて応募者を増やす施策がとれています。一方、中小企業は、初任給でも大企業との差が広がり、新卒の学生採用という面では一層不利になっています。

ちなみに、リクルート発表の調査によると、2019年新卒求人で、中小企業(従業員300人未満)の求人倍率が9.91倍(過去最高)なのに対し、大企業(従業員5千人以上)の求人倍率は0.37倍と学生にとって狭き門となっています。今後もこの格差が広がることが懸念されます。

中小企業にとっては、現状人材不足でも新規採用が難しいため、せめて在職者の雇用を維持しなければならないという、対応に迫られていることが見て取れます。

アベノミクスでは、経済界に賃上げを要求していましたが、賃上げの中身を見てみると、景気が良くなった、生産性が向上したからというわけではなく、人手不足で賃上げせざるを得ない状況だということが分かります。

日本では全体の90%以上が中小企業ともいわれていますが、賃上げに耐えられず、人を採用できない中小企業が今後どうなるのか、マクロ的には不安要素といえそうです。その一方で、賃上げに耐えられない生産性の低い企業は市場から退出せざるを得ない、という市場メカニズムが働くので好ましいとの見方も考えられます。

一時的な痛みに絶えて、構造改革に向かうのか、痛みを避けて改革を避けるのか。英国サッチャー改革、米国レーガン改革、ドイツのシュレーダー改革などは、一時的に痛みを味わったものの、その後の構造改革で経済が復活しました。
さて、日本はどうあるべきか。賃上げ記事からでも、いろいろ考えられますね。

出所:
株式会社東京商工リサーチ ※最終アクセス 2018年7月18日
http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20180705_01.html


執筆:谷口賢吾(たにぐち けんご)

ビジネス・ブレークスルー大学、同大学院 専任講師
地域開発シンクタンクにて国の産業立地政策および地方都市の産業振興政策策定に携わる。
1998年より(株)大前・アンド・アソシエーツに参画。
2002年より(株)ビジネス・ブレークスルー、執行役員。
BBT総合研究所の責任者兼チーフ・アナリスト、「向研会」事務局長を兼ねる。
2006年よりビジネス・ブレークスルー大学院大学講師を兼任。
同秋に独立、新規事業立ち上げ支援コンサルティング、リサーチ業務に従事。

<著書>
「企業における『成功する新規事業開発』育成マニュアル」共著(日本能率協会総合研究所)
「図解「21世紀型ビジネス」のすべてがわかる本」(PHP研究所)