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大前研一メソッド 2019/01/25

日本にとって「文在寅リスク」が急激に顕在化



大前研一(BBT大学大学院 学長 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

韓国海軍駆逐艦による海上自衛隊哨戒機への火器管制レーダー照射、慰安婦財団の解散、そして日本企業に賠償を求める元徴用工判決という一連の流れを整理して考えると、日本にとっての「文在寅リスク」というものが急激に顕在化してきていると考えられます。

韓国に文在寅政権が誕生した当初、親北政権であって、日本に対しては厳しい姿勢で臨んでくるであろうことはわかっていました。しかし、「『こちらの認識が甘かった』と思わざるをえないほどのトンデモぶりをここにきて露呈している」と大前研一学長は憂慮します。

北朝鮮寄りの立場をとる韓国の文在寅大統領

日本のマスコミは通り一遍の報道であまり騒ぎ立てなかったが、私が驚かされたのは18年9月下旬の国連総会における文大統領の演説である。北朝鮮の金正恩委員長が非核化に向けて積極的に取り組んでいると評価したうえで、「今度は国際社会が北朝鮮の新たな決断と努力に前向きに応える番だ」と北朝鮮への後押しを世界に強く訴えたのだ。

これまで米国を先頭とした国際社会が北朝鮮に求めてきた非核化は「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」だった。CVIDが果たされるまで北朝鮮への制裁を続けるということは、少なくとも日米韓の首脳間で申し合わせてきたし、文大統領もこの主張を反復していた時期もある。

ところが先の国連演説では非核化が達成されるまで制裁を解除せずという従来の主張を完全に引っ込めてしまった。

「北朝鮮の決断と努力に対して国際社会が前向きに応える番」「これから関連国の間で非核化に向けた果敢な措置が取られ、終戦宣言につながることを期待する」というスピーチは、つまり制裁を棚上げして(自分も努力している)南北融和に協力せよ、と言外に示したわけだ。

国連総会に出席していた北朝鮮の外交官は文大統領に大きな拍手を送っていたが、あたかも北朝鮮のスポークスマンか金委員長の代弁者という体だった。17年まで核実験や弾道ミサイル実験をさんざん強行してきた金委員長を、南北首脳会談で年に3回会っただけで、「誠実で、経済発展のために核兵器を放棄すると私は信じている」と無防備に信じられるものだろうか。

中国やロシアばかりか、米国も南北融和に協力ムード

件の国連総会では、文大統領ばかりではなく、中国やロシアも北朝鮮への制裁緩和を呼びかけた。中国とロシアは国連安保理の制裁決議に反して、洋上で北朝鮮の船に積み荷を移し替えて石油精製品などを密輸する「瀬取り」を行い、米国から名指しで非難されてきた。しかし、両国は「朝鮮半島の非核化は段階的、同時的に進めて相互の行動が伴うべき」として北朝鮮への制裁緩和を求めた。

中国やロシアは、在韓米軍が撤退する「朝鮮半島の非核化」は大歓迎だし、平和条約は北朝鮮の(廉価な)人的資源を活用できるチャンスと見ている。

北朝鮮制裁の完全履行を求める米国にしても、米朝首脳会談の共同声明にはCVIDが盛り込まれず、「朝鮮半島の完全な非核化」という表現にとどまった。トランプ大統領は支持者集会で「金委員長と恋に落ちた」とジョークを飛ばす始末。

トランプ大統領は予測不能の性格に加えてディール主義者だから、条件次第でCVIDなき北朝鮮の非核化を認めるかもしれないし、核を残したままの南北平和条約締結もありうる。

六カ国協議のメンバー国の中で日本だけが浮いた存在

となると、やはりCVIDによる非核化にこだわり、拉致問題を抱える日本だけが浮いてしまっている存在。国連総会でCVIDをしつこく主張したのは日本の河野太郎外相だけで、六カ国協議のメンバーでいつのまにか日本だけが孤立する構図になってしまった。六カ国協議から「一抜けた」「二抜けた」と皆抜けていって、日本だけが残ったようなものだ。

もちろんまだまだ紆余曲折はあろうが、最終的なゴールは南北朝鮮の統一である。憲法改正が安倍首相のライフワークであるように、文大統領は心の底から祖国統一を願い、自分の政権でそれを成し遂げたいと思っているようだ。このまま南北融和が進んでいけば、朝鮮戦争の終結が宣言され、南北の平和条約締結へと進んでいく。

「統一コリア」の人口は7000万~8000万人で日本に匹敵する規模となる。しかも北朝鮮の核が温存されれば、核保有国である。日本と同等のレベルまで国防費を増強し、実戦で鍛え上げられた韓国軍と、世界有数のサイバー部隊を抱える北朝鮮軍も統一される。

「統一コリア」が中国やロシアを敵視する理由は見当たらない。当然、大国米国にも刃向かわない。

消去法で考えると、「統一コリア」の仮想敵国、それは日本しかないのだ。その「建国の父」に、文大統領が就任する可能性も排除できない。戦後ながらく唱えてきた日韓親善、日米韓結束、などの呪文がかき消されつつあるという現実に日本も向き合う必要がある。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。