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大前研一メソッド 2019/03/08

米ロ関係の悪化が日本にもたらす影響



大前研一(BBT大学大学院 学長 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

米国のドナルド・トランプ大統領の一般教書演説や中国の習近平国家主席の演説に比べて、ロシアのウラジミール・プーチン大統領の演説に対する日本での注目度は低いのですが、日本にとっても影響が大きい演説を行っています。

特に、米ロ関係は2018年11月のウクライナ艦拿捕などで冷え込んでおり、関係悪化が日本にどのように波及するかが危惧されます。日本にどのような影響をもたらす可能性があるのかを、プーチン大統領の最近の演説から大前研一学長に解説してもらいます。

中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄は、日本にネガティブ

プーチン大統領は2月20日、施政方針を盛り込んだ年次教書演説を行った。私が毎朝見ている「ロシア1」のニュース番組「ヴェスチ」でも、けっこう長い時間、この演説を放映していたが、2月5日に米国連邦議会の上下両院合同会議で行われたトランプ大統領の一般教書演説に比べて、はるかに内容に富み、かつ自信に満ちたものだった。閣僚、連邦議会議員、軍の幹部、主な市長らを前に、1つずつ非常にわかりやすく語っていた。

今回、プーチン大統領は、約1時間半に及んだ演説の大半を少子化対策の拡充や貧困問題の解決など内政問題に割いていた。年金改革に対する反発で支持率低下が続く中、社会福祉の向上などを鮮明にして好印象を与えようとしたわけだ。

ただ、私にとって興味深かったのは、米国を強く牽制(けんせい)した外交面だ。

中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄で、欧州だけでなく日本も標的に

2月2日、ロシアの中距離核戦力(INF)条約違反を理由に条約からの離脱を米国はロシアに通告した。

米国がINF全廃条約からの離脱を決めたことについて、「米国はトマホーク・ミサイルの発射システムをルーマニアとポーランドに設置して、自分たちが条約違反を犯したのに、ロシアが違反したと非難している。米国が欧州に新たな中距離ミサイルを配備すれば、配備場所だけでなく、意思決定した米国も射程に収める最新兵器を使って対抗処置を取らざるを得ない」と表明した。

「やるんだったら、やってやろうじゃないか」というわけだ。ただ、そこでやめておけばいいのに、さらに新型兵器の名前を1つずつ挙げて、その開発強化に言及していた。例えば、マッハ9(音速の9倍)で1000km超の長距離を巡航し、米国のミサイル防衛網を地上すれすれの超低空飛行で突破できる核搭載の極超音速ミサイル「ツィルコン」により、「米国を一瞬にして消滅できる」などと語っていた。

米国とロシアの間では、旧ソ連の時代からのSALT、STARTなどの戦略兵器制限交渉や条約が失効した後も、「新START」を締結して、核軍縮のタガをはめている。これについては、米国も破るとは言っていない。

「INF全廃条約」は一見すると核軍縮の条約のように見えるが、対象はもっと広い。核弾頭を積んでいる積んでいないに関わらず、射程500km~5500kmの地上発射型ミサイルをすべて廃棄し、持つことも禁止してきた。

2018年5月の大統領4期目の始動直後にはプーチン氏の支持率は約80%あったが、現在は60%台に下落が続く中、米国との対決姿勢を強調し、求心力低下に歯止めを掛ける狙いもあるのだろう。

なお、同教書演説の中で、日本との関係については、北方領土問題には触れず、平和条約締結のためにいろいろな道を探り、お互いに合意できる条件を模索するとプーチン大統領は述べた。あまり敵対的な言葉は使っていなかった。

米ロが睨み合う欧州だけでなく、グアムや日本の米軍基地に睨みをきかせるため、ロシアがアジア極東に中距離ミサイルを再配備する可能性がある。旧ソ連はかつて、100発以上を極東に配置していたと言われる。

アジア極東への中距離ミサイルの配備をしないように、日本はロシアに強く働きかけなければならない。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。