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BBTインサイト 2019/04/04

大前研一流 問題解決手法とは?(4)PSAを理解する「問題解決3つの原則」



大前研一(BBT大学大学院 学長)
編集・構成:mbaSwitch事務局 / BBT大学オープンカレッジ

今、日本人に最も欠けているのは、前例のない問題に直面したときに、それを解決していく力です。具体的に言えば、ロジカル・シンキングとそれを土台にした問題解決法(PSA=プロブレム・ソルビング・アプローチ)のスキルです。

この PSA とは、課題を論理的に分解することによって、本質的な問題点を発見し、これに対して仮説作成とファクト(事実)に基づく検証を繰り返しながら、的を射た解決策を立案・実行するための手法です。

それでは、これから PSA を実際に実行する際の考え方のプロセスについて説明していきましょう。まずは具体的な実行ステップの前に、PSAの3原則についてご紹介します。

3原則-1:すべての問題は解決できるという強い信念を持とう

PSA は「すべての問題は解決できる」ということが前提になっています。英語に「セルフ・フルフィリング・プロフェシー(Self Fulfilling Prophecy)という言葉があります。日本語に訳すと、よく言えば「言った通りになる」、悪く言えば「自ら墓穴を掘る」という、一種、自己暗示のような意味合いの言葉です。

日本人は一般的に、何か問題にぶつかると、すぐに「しようがない」と言ってしまいます。しかし、「しようがない」と言った瞬間に、問題を解決できないと認めてしまうことになります。「しようがない」と思った時点で思考は停止してしまい、解決できる問題も解決できなくなってしまいます。PSA を身につけたいと思うのならば、絶対に「しようが
ない」という言葉を使用してはいけません。

すべての問題には解決策がある、という強い信念を持ち、必ず今よりも良くなると信じて考え、行動をする。それがプロブレム・ソルバー(問題解決者)に求められる最も大切な態度なのです。

問題解決は、その人が持っている意欲と目線の高さに比例して可能になるという不思議な一面を持っています。優秀なプロブレム・ソルバーは、強い棒高跳びの選手がバーの高さを 5m80cm からいきなり 6m に上げて挑戦するように、自ら高い目標を設定して、それをクリアしていくのです。

もっとも問題解決者になることが難しいのは、ルーザー(負け犬)と呼ばれる人たちです。ルーザーはいつも「しようがない」「できない」と言います。3回そのセリフを言っている間に、やる気がなくなり、4回言っていると実際にやっている人が馬鹿に見えてきて、その人たちの足を引っぱりはじめてしまう。厳しい言い方をすれば、今の日本はまさに国全体が「ルーザー」状態だと言えます。バイオリズムが非常に低下して、個人も会社も地方自治体も、みんな目線が下がってしまっています。悪い意味の自己暗示にかかって挑戦さえしなくなっているのです。

しかし、です。挑戦しなければ問題は絶対に解決しません。NIKE のフィル・ナイト会長の名言にも「チャレンジしなかったら、成功するかどうかさえ分からない」というものがあります。ゴルフで、ボールをホールインしようと思ったら、ホールより遠くを狙って打たない限り入る可能性はないのです。にもかかわらず今の日本は、1m先のホールまで、スリーパットを刻んでいる状態と言えます。

経営危機に陥ったダイエーにしても、政府に頼る前に、自分たちでできることがいくらでもあったはずです。2兆 4000 億円の負債を減らすためにローソンはこうしますとか、福岡ダイエーホークスと福岡ドームとシーホークホテル&リゾートの3点セットはこうします、と自分から主体的に答えを出すべきだったのに何も出さなかった。結果的に、売れるものは全部売って借入金を1兆円くらいに減らし、年間利益を 540億円にして健全な体質に戻すと言ってはいますが、現実問題、実現するのは難しいでしょう。540 億円の利益で1兆円の債務を返すには、単純計算で 20 年以上かかってしまうことになります。それほど長い期間マーケットが待ってくれるはずはないのです。

日本は万事がこの調子です。流通もゼネコンも銀行も、自らは何もせず、最後には身ぐるみ剥いでいって下さいと、ただ横たわっているのです。“ゾンビカンパニー”と『ニューズウィーク』誌に表現されましたが、まさにその通りなのです。問題を解決していこうという意欲に乏しく「しようがない」「打つ手がない」と思いこんで何もしません。だから、事態はどんどん悪くなって、そのままズルズルと倒れていってしまう。これが日本の現状なのです。

3原則-2:常に「What if…?」と考えよう

PSA は「もし答えがあるとすれば、どのような範囲にあるのか。それはどのような感じであるのか」と考えることから始まります。すなわち「What if…?」という問いかけを常時行っていくということです。「もし状況がこのようになったら、どのように考え(あるいは行動、反応し)たらよいか」と考える、つまりは「What if…?」と考える癖を身につけることが、PSA の基本ということになります。

「中国に工場を売却するとしたなら、私ならどうする?」
「私が社長から『大前君、もっと売り上げが伸びるように販売戦略を考えてくれ』といわれたら、どのような対策を練ろうか…」
「私が、今の上司の立場だったら、どのような仕事の計画をするか」

私はこのように、電車の中でも帰宅をしてからでも、常に「自分なら、どうする」ということを考えていました。問題点を分析して解決策を提案するような訓練を日常から行っていたのです。

この訓練のお陰で、問題解決手法や論理的思考が自分の染色体に染みこむようになったのだと思います。

3原則-3:原因と現象を混同するべからず

会社の問題点の5割以上のウェートを占めるような原因は、一つ、多くても二つだけ存在することが殆どです。それは、私の経験からしても明らかです。たくさん問題がありそうに思えても、一つの原因が引き起こす“現象”が、さぞかし問題のように出てくるだけなのでしょう。

原因と現象の区別が付けられない人に限って「我が社は問題点が多すぎるから、解決のしようがない」という言い方をします。でも、現象に1つひとつ対処してもしようがありません。原因をつぶさない限り、問題は解決しないのです。

日本で QC(品質管理)、TQC(総合品質管理)、ZD(無欠陥)運動、VA(価値分析)、VE(価値工学)が盛んであった頃は、欠陥品が出る原因を上流まで逆上って調べ、それをつぶすことで欠陥品を見事になくしていました。

たとえば、どんなに検査を厳しくしても常時5%の欠陥品を出してしまうという工場がありました。徹底的に原因を調べていったところ、生産ラインの上に空気の吹き出し口があり、そこから落ちてきた埃が原因になって欠陥品を産み出ていることが分かりました。この場合、空気の吹き出し口を違う場所に移すことで、欠陥品が出るという問題点を解決することができたのです。このように、原因はたいてい1つに集約されるものなのですが、現象自体はいろいろなところに表れてきます。PSA を使っていないと、現象と原因をはき違えて的はずれな対策を講じてしまうことになりかねません。

また、セールスパーソンに元気がなくて商品が売れない、という問題があったとします。この場合の典型的な現象に対する対症療法は、社長が各支店・営業所を回ってセールスパーソンを激励するという方法です。車座になって酒を飲んだら、みんな言いたいことを言って明るくなる。「よしよし、元気になったぞ」と社長は喜びます。が、すべての支店・営業所を回り終えても、売り上げは依然落ち続けてしまいます。

そうこうするうちに「セールスパーソンに元気がないのは固定給のせいで、いくら働いても報奨金が出ないことが問題なんです」と言う声が出始めます。すると社長は「分かった。売り上げの多いセールスパーソンはボーナスを2倍にしてやろう」として、社員の動機付けになるインセンティヴ制度を作る。それでも売り上げは落ち続けてしまう。

すると今度は「インセンティヴ制度だと勝者と敗者に差が付きすぎてしまうので、敗者がやる気をなくしてしまうのです」と誰かが言い始めます。「これはまずい」ということになり、全セールスマンの分の給料を、2割増の固定給に戻します。しかし、やはり売り上げは落ち続ける。

そこで再びインセンティヴの議論に戻りますが、いくら働いても差が付かないと言うことで、できるセールスマンほど辞めていってしまう…。

この場合も現象を原因だと思いこみ、現象に対して対症療法を施し始めてしまうという典型的なパターンです。本来の原因は直っていないわけですから、どんなに対症療法を施してもまた別の形で問題は出てきます。それに対してまた対症療法を施してしまう…このようにして際限なく見当違いの対症療法を繰り返してしまい、コストばかりが嵩んでいくというわけです。

ここでも「売り上げが落ちている」という問題の原因は1つ、もしくは2つしかありません。PSA を使って原因を探っていくと、問題はまったく違うところにあるということが殆どなのです。この会社の場合は、製造部門は一生懸命に製品開発をしているのですが、この2年で4回も製品がモデルチェンジしました。しかし、セールスパーソンはこのモデルチェンジのペースについてゆけず、圧倒的に商品知識が不足していました。そればかりか、潜在的なお客を見つけ出すスキルもなければ、お客を説得してゆくスキルもない。つまりはセールパーソンとしての基本的なトレーニングができていないことが原因であったのです。

以上が PSA の3原則です。いかなる課題においても、常にこの3原則を念頭において進めてください。それでは、いよいよ、具体的に PSAを実行するための3ステップを紹介していきましょう。

この記事は2013年6月1日に発行された小冊子「大前流問題解決法 第10版」(BBT大学オープンカレッジ 問題解決力トレーニングプログラム)の内容を、当サイト用に転載したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。