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BBTインサイト 2019/04/05

大前研一流 問題解決手法とは?(5)PSAを理解する「問題解決3つのステップ」



大前研一(BBT大学大学院 学長)
編集・構成:mbaSwitch事務局 / BBT大学オープンカレッジ

PSA の3ステップ「ステップ1 本質的問題の発見」

物事の実態や本質を正しく理解するためには、言い換えると、ロジカル・シンキングの考え方が欠かせません。ロジカル・シンキングとは、様々な事象の複雑な関係を収集した情報を論理的に正しく理解し、自らの思考を論理的に整理・構成するための技術です。

その基本は、2つあります。一つは、アリストテレスの論理学で言うところの「A=B,B=Cであれば、A=Cである」という論理構築です。これを積み重ねていくことで誰も考えつかなかった「A=Z」という答えを導き出すことができるのです。

もう1つは、「足して 100 になる議論をする」ということです。AとBを足せば全体像になり、それ以外に漏れもなければ重複もない、という論理構造の構築です。例えば「やる気をなくしているのは男性社員か女性社員か?」という設問は足して 100 になります。

だから、男性社員だという解答が出たら、男性社員がやる気をなくしている原因を見つければよいことになります。「出身は東の地域か西の地域か?」「事務系出身者か工学系出身者か?」という設問でも良いと思います。しかし「営業成績が悪いのは女子社員か若い社員か?」という設問だと、漏れと重複があるため答えを言われても原因は別のところにあって対策を間違える可能性が大きくなってしまいます。

「足して 100 になるAとBのどちらだろうか?」という設問を山のように繰りかえして、そのプロセスの中で「これではない」「これは違う」と取捨選択をしてゆきながら問題の原因のレンジを狭めてゆく…このロジカル・シンキングによって本質的な原因を明らかにして、誰も答えを持っていない問題の解決策を導き出す技術、それが問題解決法なの
です。

問題解決法を使用して正しい答えにたどり着くためには、まず、「何が問題なのか?」ということが分かっていなければなりません。それが分かってしまえば答えの半分は分かったも同然です。逆に分かっていなければ、正しい答えは永久に出てこないでしょう。

つまり、問題解決法の第1歩は問題を定義することなのです。問題を定義するためにはデータを集めなければなりません。ただし、むやみやたらに集めても意味がありません。ここでは仮説を立てることが重要になります。「もし問題が○○だとすれば、原因は××ではないのか?」という仮説です。その上でデータを収集し、事実に基づいて証明をしていくのです。

仮説の立て方は、アリストテレスの論理学で言うところの「二律背反」(相互に矛盾する2つの命題が同等の妥当性を持って主張されること)を使います。つまり「問題はAかB、2つのうちどちらかに違いない」というやり方です。まずAを証明するデータを集め、それを検証した結果Aではないとなれば、この仮説は違っていたことになり、もう1つの仮説、Bが答えということになるのです。

ステップ2 問題解決のための施策

ステップ1で問題が定義できたとしたら、次は「その問題をどうやって解決するか?」という段階に入ります。実を言うと、ここから先はロジカル・シンキングだけでは対応できません。

これはロジカル・シンキングについて書かれた多くの本に欠落している観点なのですが、ロジカル・シンキングが役に立つのは答えの範囲を取捨選択して狭めていくときであって、答えを見つけ出すときにはあまり役に立たないのです。誰もが気づいていない答えを見つけ出すには、ロジカルの対義語にあたるようなインテュイティブ(intuitive=直感)やイマジネーション(imagination=想像力)を使用する必要があるということです。

その理由は、こうです。人間の脳は左脳と右脳に分けられます。左脳は主に論理的思考を司り、右脳はいわゆるひらめきや勘、情緒を司っています。それぞれが機能的には分化されていて、双方を脳梁と呼ばれる意識の伝達器官が結んでいます。

一般的に仕事ができる人とは、この左脳と右脳の橋渡しをする脳梁を通る情報量が非常に多いと言われます。左脳から右脳に情報が流れたときには、直感的にあらゆる物事の可能性を詮索している。逆に、右脳から左脳に向かって情報が流れている際には、その直感を論理思考で検証し、アイディアを絞り込んでいる。

この作業を交互に繰り返すことで、論理的でありながら、独創的な解答が導き出されるのです。つまり、誰もが気づかない“正しい答え”を導き出すときには、左脳的思考(ロジカル・シンキング)を使って答えを絞り込み、次に右脳的思考(想像力)で解を決定する、と言う流れが良いのです。

具体的に問題解決の施策を考えるにあたって、「戦略的自由度」(SDF=Strategic Degrees of Freedom)という考え方が重要になってきます。これは著書『企業参謀』(プレジデント社刊)で初めて提示した考え方で、「戦略を立案すべき方向の数のこと」です。

例えば、ある自動車メーカーで「車の安全性を向上させることが、売り上げシェアを伸ばすのに極めて重要である」ということが判明したとします。この場合、「戦略を立案すべき方向の数」は2つあることがわかります。すなわち、視界や表示などの人間工学にかかわることと、ブレーキや車体の剛性やエアバックなど、機械的なものです。つまり自由度は2で、それは「人間工学的見地に立った改善」と「機械的見地に立った改善」の2つである、ということになるのです。

この考え方は、現在世界中のビジネススクールで使用されていますが、実際に使用してみようとすると、なかなか上手く使えない方が多いようです。これは、先ほど申し上げた「直感力」や「想像力」が欠如しているからだと思われます。戦略的自由度という考え方を上手く使用して正しい答えを見つけるためには、「直感」や「想像力」をフルに働かせて(右脳と左脳をフルに使って)、競争相手が選び得ないような戦略的な改善の方向軸を抽出しなければならないのです。

再び事例を出してみましょう。ある家電メーカーがコーヒーメーカーを製造するに当たって「おいしいコーヒーを入れられるものに」という目標を立てたとします。従来であれば「良いパーコレーターを作りましょう。パーコレーターはサイホン式の GE タイプかドリップ式のフィリップスタイプだから、どちらかを改善して軽薄短小にしましょう」という話になります。

しかし、です。これでは「より良いモノを、より安く」と従来の日本企業が選択してきた戦略的な改善の方向軸と何ら変わりません。そこで、「直感」や「想像力」を働かせてみます。すると、違う選択肢が見えてきます。私はまず、おいしいコーヒーを入れられるという目的に影響を与える因子、すなわちコーヒーの味を左右する変数は何か?と考えました。情報を収集して、自分なりに調査をしてみると意外なことに変数は「水」だと分かりました。ところが、どのメーカーもパーコレーターも水の質に関しては、まったくコントロールしていなかったのです。

2番目の変数としては、「どのコーヒー豆を使うか」ではなく、「どのような煎り方をしたコーヒー豆を、どのような粒度(粗さ)に挽くか」ということが分かりました。焙煎が弱すぎても強すぎても、粒度が小さすぎても大きすぎても、おいしいコーヒーは抽出できないのです。

加えて、挽いてから長期間経った豆は風味が落ちることも分かりました。豆を挽いたらすぐに抽出することも、おいしいコーヒーを入れる秘訣だったのです。で、再び実際のパーコレーターはというと、ミルが付いたものはなく、別売りになっているミルも挽きの粒度は調節できなかったのです。

結局、おいしいコーヒーを入れるために重要なことは、水の質と豆の挽きの粒度であり、パーコレーター自体の性能とは全く関係ないということが明らかになったわけです。

「おいしいコーヒーを入れる」という目的に対しては、「水の質」と「豆の挽き方」が戦略的自由度になったということです。そこで私は、費用対効果などを考慮した現実的な改善策として、パーコレーターに水の塩素を飛ばす機能を付け、それを通した水でドリップする方法を開発してもらうように提案しました。この製品は、日本のあるメーカーが開発したのですが、同製品が出た後は同じスタイルのものが世界の主流になりました。

ここまで見てきたらお分かりでしょう。前例のない問題を解決していくためにはロジカル・シンキングだけではなく、問題解決法の全プロセスを身につけなければならないのです。ロジカル・シンキングだけを学んだところで、実際の仕事の現場では「理屈をこねるより、結果を出せ!」と言われてしまうのがオチなのです。

そう言われないようにするために、事実に基づいて「それはなぜなんだ?」と質問を繰り返し、問題点を見つけ出します。次に、左脳を使ったロジカル・シンキングを用いて、問題点を絞り込みます。さらには「戦略的自由度」の考え方を用いて、その問題点を右脳に解放、「直感」や「想像力」を使って幅広く答え(改善の方向性)の可能性を見つけていくのです。

そしてそこから出てきたモノを、再び事実に基づいて検証・評価し、利害得失はどうなのか、実行は可能なのか、適任者はいるのか、などを検討して答えの幅を狭めてゆき、最終的に1つの案にまとめます。このようなプロセスを経て、はじめて解決策が立案できるのです。

ステップ3 施策の実行

ステップ2で得られた解決策に対して行動計画を立て、人員を配置し、予算を計上して実行段階に入ります。このプロセスにおいては、ソフトなスキル、つまり人の使い方が重
要になってきます。人をどう説得し、どう動かすか。ここでまた、右脳型思考(EQ=Emotional Quotient)の出番になります。

加えて今後は、インターネット上で世界中の人を説得するためのサイバー・リーダーシップやサイバー・チームワークを身につけておく必要があるかもしれません。ここまでやって初めて問題解決法の全プロセスが完結し、前例のない問題(Problem)も解決(Solve)されるのです。

難しく感じられる方もいらっしゃるでしょうが、決して特別なことではありません。これらは、必ず身に付くメソッドなのです。以上の「PSA の3原則」「PSA の3ステップ」が問題発見・解決を行うための全体像です。今ひとつピンときていない人もいると思いますので、最後に、ここまでなぞってきた PSA の手法を用いて、実践編として問題解決をしてみましょう。

この記事は2013年6月1日に発行された小冊子「大前流問題解決法 第10版」(BBT大学オープンカレッジ 問題解決力トレーニングプログラム)の内容を、当サイト用に転載したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。