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MBAダイジェスト 2019/04/07

日本の国家戦略と税制(7)人類最高の発明の一つ!? 複式簿記について

『MBAダイジェス』シリーズでは、国内初・最大級のオンラインMBAである「BBT大学院」、ならびに2つの国際認証を持つ「BOND-BBT MBAプログラム」の修了生が、両校で学ぶMBA科目のエッセンスをまとめ、わかりやすく紹介していきます。将来的にMBAの取得を検討している方や、MBAの基礎知識をインプットしたい方はご活用ください。



執筆:植田秀史(BBT大学院MBA本科修了、税理士)
対象科目:日本の国家戦略と税制(大武健一郎 教授)

「日本の国家戦略と税制」では、簿記の歴史と効用についての講義があります。

第7回は、その内容を中心に、複式簿記についてお話します。

複式簿記の特徴

あらゆる経済取引を借方(左)と貸方(右)に分解して漏らさず記帳し、それを科目ごとに集計して会社の財務諸表を作成する複式簿記は、財務会計を仕事にされている方や会計士、税理士等の専門家以外の方には、あまり親しみがないと思います。

しかし、この複式簿記を人類最高の発明の一つと賞賛したのは、18世紀の文豪、ゲーテでした。彼はその作中で、複式簿記について、「整理されていればいつでも全体が見渡され、商売をやっていくのに広い視野を与えてくれる。複式簿記が商品に与えてくれる利益は計り知れない」と語らせています。

複式簿記の最大のメリットは、まさにこの点にあると言えます。複式簿記の主要な財務諸表には、会社の財政状態をみる「貸借対照表」と、経営成績をみる「損益計算書」があります。そして取引さえキチンと整理されていれば、この2つの財務諸表によって、その会社の規模にかかわらず、会社の財政状況と経営成績をひと目で知ることができます。

小さなビジネスであれば、複式簿記を使わなくても経営者は自分のビジネスの隅々に目を光らせ、自分自身で把握していることができますが、規模がある程度大きくなってくると自分の目が届かない部分が増えてきてしまいます。

しかし、複式簿記によって帳簿をつけていれば、会社の財産や活動について、たった2種類の財務諸表を見るだけで、その全体像が把握できてしまう。そして、その会社の規模にかかわらず、つまり、家族で経営している小さな商店でも、トヨタ自動車のような超巨大企業でも、それが可能なのです。

このような、会社の地図でありカルテでもある複式簿記は、企業経営のツールとして、欠かすことは全く考えられないほど、偉大な発明だといえるでしょう。

複式簿記の歴史と文明への恩恵

複式簿記の起源は諸説ありますが、そのひとつは14世紀頃イタリアのベニスの商人が発祥といわれています。その後ヨーロッパの商人の間で広まり、1494年、イタリアの数学者であるルカ・パチョーリが著した「スムマ」という書籍で、歴史上初めて複式簿記が紹介されました。

17世紀のフランスの法律「サヴァリ法典」には会社が倒産して複式簿記の帳簿を裁判所に提出できない経営者は、死刑に処すという厳しい法律がありました。このサヴァリ法典は、複式簿記による財産目録の作成と定期的な更新を義務付けており、これは法律による定期決算を要求した最初のものといわれています。サヴァリ法典はその後、ヨーロッパ各国の商法に大きな影響を与え、その結果、欧州では複式簿記が広く普及しました。

我が国では、1万円札で有名な福沢諭吉が、1873年に「帳合之法」という書物で複式簿記を日本に紹介しました。「帳合之法」はアメリカの簿記の教科書を翻訳したものでした。その2年後、諭吉らは商法講習所を開き、複式簿記を教えました。この商法講習所が、現在の一橋大学です。このため、日本は比較的早い段階で複式簿記が普及したと言われています。

大武教授は、この複式簿記こそが、先進国と発展途上国を分けたのではないか、という仮説をお持ちです。すなわち、複式簿記が発明されたヨーロッパやそれが早く伝わったアメリカは、複式簿記があったからこそ強力な経済力を早く身に付け、列強として世界を支配する立場に立つことができた。日本も、アジアの他の国と比べて早く複式簿記が普及したからこそ、明治維新以後驚くような発展を遂げ、当時の列強の一角を成すようになった、というわけです。

大武教授は、複式簿記の普及こそが発展途上国を先進国へ導く鍵である、と考え、現在ベトナム人に日本語で簿記を教える学校を主宰するNPO(ベトナム簿記普及推進協議会)を運営していらっしゃいます。

多くの人にとって馴染みの薄い、むしろ地味な複式簿記が導いた文明の発展。興味深いと思いませんか。

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植田秀史

BBT大学院MBA本科 修了生
植田ひでちか税理士事務所 所長
国税局を経て、独立。BBT大学院大学院修了後、本科目のTA(Teaching Assistant)を務める。


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大武 健一郎(BBT大学大学院 教授、元国税庁官)

1946年生まれ、東京都出身。東京大学卒。70年旧大蔵省入省。大阪国税局長や財務省主税局長を歴任、2005年国税庁長官で退官。商工中金副理事長を経て、 2008年4月より「ベトナム簿記普及推進協議会」を立ち上げ、理事長としてベトナムで日本語と複式簿記の普及に努める。2008年7月より2012年7月まで大塚ホールディングス株式会社代表取締役副会長も務めた。
35年間勤務のうち20年間を税に携わる。税制の企画立案と税務行政の両方を担当したという点で、他には例をみない税の専門家。
日米租税条約を32年ぶりに全面改正したアメリカとのタフなネゴはあまりにも有名。これにより配当や利子、特許の使用料が原則として相互に免税となり、知的財産の開発に拍車がかかるだけでなく、研究開発に対して恒久減税を実施したこととあわせ、欧米の対日投資がふえる効果があった 。また、この条約が、その後の先進国との租税条約のモデル条約となった。なお、税理士法についても21年ぶりの改正を担当した。


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