MBAダイジェスト 2019年5月5日

アカウンティング(5)なぜ財務会計で終わらせてはならないのか?

『MBAダイジェス』シリーズでは、国内初・最大級のオンラインMBAである「BBT大学院」、ならびに2つの国際認証を持つ「BOND-BBT MBAプログラム」の修了生が、両校で学ぶMBA科目のエッセンスをまとめ、わかりやすく紹介していきます。将来的にMBAの取得を検討している方や、MBAの基礎知識をインプットしたい方はご活用ください。


 
執筆:佐藤祐樹(BBT大学院MBA本科修了、三丸化学株式会社 取締役)
対象科目:アカウンティング(櫻庭周平 教授)

accounting

これまでのおさらい

経営はおカネじゃないけど世の中おカネだよという話を、数字抜きで語る試みの5回目です。

経営は夢やロマンです。

それを事業計画に変え、事業計画をおカネに変えて初めて事業が始められます。

そのおカネを資産に変えて、資産を収益に変え、収益から利益を生み、その利益を資本に変え、その資本でさらに資産を増やします。

そうやって事業の規模を大きくし、夢やロマンを叶えるのが経営です。

経営者は情熱だけドライブしていては会社をつぶしてしまいます。

アカウンティングの技術を駆使して経営状態を見守る必要があります。

優れた経営者は、BS(貸借対照表)を構成する3つのハコが、精緻な機械のように小気味良い振動音を奏でて効率よく活動するように心配りします。

その活動の潤滑油が事業活動であり、PL(損益計算書)です。

本業がうまくいかなければ、BSの3つのハコはガタガタになってしまいます。

企業は財務諸表の記録を義務付けられています。

BS、PLはどこの会社でも存在する(はず)の「財務会計」書類です。

財務会計=アカウンティングではない

さて、事業目的の達成には、これらの財務会計の数字で充分なのでしょうか?

不充分です。

財務諸表は企業に義務付けられた最低限度の記録です。

経営者の夢やロマンを達成するためには、もっと別の視点で数字を駆使する必要があります。

これを管理会計や戦略会計、マネジメント会計などと呼びます。

簡単な例を挙げます。

損益分岐点という言葉があります。

「最低いくらの売上があれば黒字だ」という、経営者にとっては非常に基本的な指標です。

これだけ当たり前の指標ですら、BSやPLのような財務会計数字のどこにも計算されていません。

財務会計数字を分類し直して、計算し直さなければなりません。

労働生産性という、社員一人あたりどれだけ儲かっているかという指標があります。これを算出するためには社員数が必要ですが、それすら、BS・PLには記載されていません。

アカウンティングの知識を駆使して力強く経営するためには、財務会計だけでは不充分です。

財務会計数字はもちろん、その他の必要な数字が何かを突き止め、記録を取り、そこから何が言えるのかを常に把握しなければなりません。

ほら、結局、難しい数式を覚えることになるんでしょ?と思わないでください。むしろ、数式をそのまま覚えないほうがいいと思います。

数式ではなく考え方を理解しよう

損益分岐点を例にしましょう。

『損益分岐点=固定費÷(1-変動費/売上高 )』 という式をまともに覚えている人はいますか?

わたしは覚えていませんし、面倒なのでこれからも覚えません。

でも、日常的に損益分岐点の計算は行っています。

計算式だけ頭でっかちに覚えていると、計算の間違いなどの落とし穴に陥ります。逆に、考え方がしっかりしていれば、小学校で習った算数だけで、納得いく情報を得られます。

例えば、例のS君が経営するカフェの例。

コーヒー1杯の材料費や光熱費などの原価(変動費)は、経験的に25%とわかってきました。1万円売れれば、7,500円の貢献利益(「限界利益」というよりこっちの言葉の方がしっくりきます)です。

S君の安い役員報酬や店舗の賃貸料など、毎月の固定的にかかる費用は30万円。

この30万円の固定費を、1万円の売上に対して7,500円の貢献利益で減らしていってゼロになるところが損益分岐点です。

30万円÷0.75=40万円が損益分岐点。

さて、それじゃ、41万円の売上が上がった月は、会社はいくらの利益?

当然、7,500円です。

損益分岐点は簡単な例でしたが、このように、実際の商品やサービスを思い浮かべながら考えると、間違いにくく、また、今後の戦略に対していろんな発見があります。

無味乾燥に数式にあてはめるだけではこうはいきません。

会計の勉強をすると、ROAとかEBITDAとかいろんな指標と数式が出てきます。

そんなとき、「数式そのものなんて覚えないで理解しよう!」と試みてください。

佐藤祐樹

BBT大学院MBA本科 修了 三丸化学株式会社 取締役事業部長
1974年生、宮城県仙台市出身。
大学でデザイン(専門はシルクスクリーン)を学んだ後、写真業界、出版社勤務を経て現企業に転職。営業・マーケティング部門で活躍中、2011年3月に出張先で被災。
その後2年間、企業勤めの傍らボランティアセンターの運営に携わる。
2013年にBBT大学院に入学、2015年MBA取得、同年取締役事業部長に就任。事業活動の責任者としてマーケティングから人事まで幅広く担当している。
また、2015年10月に友人とコーヒーの焙煎販売を行う株式会社リュミヌー珈琲を設立。
その他、コピーライターや事業計画作成支援、大学の補助教員などのフリーランス業務も行う。
「世の中の幸福の総量を力強く増やす仕事人」を目指す愛犬家。愛犬を連れてよく遊びにも行く。
趣味は手作りスモークチーズなどの燻製を作ること。

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