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大前研一メソッド 2019/06/17

日本の地方が創生できない「根深い」問題



大前研一(BBT大学大学院 学長 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

政府は、2020~24年度に取り組む地方創生の施策の方向性を示す「まち・ひと・しごと創生基本方針」案を公表しました。

【資料】
まち・ひと・しごと創生基本方針2019」案(※最終アクセス:2019年6月17日)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/souseikaigi/r01-06-11.html

14年末に策定した地方創生の第1期(15~19年度)総合戦略に引き続き、東京一極集中の是正を最重要課題と位置付け、対策を拡充します。第1期では当初掲げていた成果は上げることができませんでした。第2期の基本方針案で、新たな目玉施策とされるのが「関係人口」の拡大ですが、根本問題とはほど遠い施策で、第2期も「かけ声」だけで終わりそうです。なお、「関係人口」とは、総務省によると、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のことを指します。

【資料】
『関係人口』ポータルサイト―総務省(※最終アクセス:2019年6月17日)
http://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/

政府が行おうとしているのは表層的な施策の典型例ですが、地方がどうあがいても創生できない根深い問題をBBT大学院・大前研一学長は以下のようにえぐります。

日本の地方はどうやっても創生できない宿命にある

地方創生は第2次安倍政権から掲げられてきた政策、というより“念仏”のようなものだ。一心不乱に唱え続けるだけで、一つも効果は挙がっていない。初代の地方創生大臣を務めた石破茂氏にしても結局、何の仕事もできなかった。これは石破氏の能力の問題ではない。日本の地方はどうやっても創生できない宿命にある。

なぜなら、主体である「地方」が「自治権」を持たないからだ。立法、行政、司法のいわゆる三権が以下のように与えられていない。

(1)立法権:中央が決めた法律に違反しない範囲内で独自の条例を作って良いことになっている。

(2)行政権:都道府県や市町村は国の下部機関として「地方における行政サービス」を中央から委託された範囲内で行うだけ。

(3)司法権:地方の司法権はまったくのゼロ。各地にある裁判所はすべて国家機関である。

日本の地方議会が機能しないのも当然で、それは立法権がないからだ。法律の範囲内で条例を制定するか、行政のトップである市長や町長が出してくる予算案を承認あるいは、拒否することしかできない。予算決定権がないから「我が町を活性するためにこういう施策を打ちたい。ついては予算をつけよう」という提案ができないのだ。

地方自治を行えないように憲法第8章の条文は策定されている

自分たちで何かを構想したり、物事を決めたり、特色ある政策を実行できないのだから、これではおよそ「自治体」とは言えない。実際、日本国憲法には「地方自治」という章立てがあるにもかかわらず、「地方自治体」という言葉は出てこない。

地方自治を規定するのは憲法第8章である。しかし条文を読んでみるとあまりに短く、内容は薄く、地方自治の主体であるべき地方自治体について何ら定義していない。条文に登場するのは「地方公共団体」という言葉だけ。つまり、都道府県や市町村は地方公共団体(地方において行政サービスを行うことを国から認められた団体)であって、本当の意味での地方自治体(自治の権限を持つ団体)ではないのだ。

「地方自治」を憲法第8章の表題にした駐留米軍の草案執筆担当者は、日本にも米国のような地方自治が存在するものと考えていたに違いない。江戸時代の265年間プラス第二次世界大戦までの70年くらいの間に、日本の隅々まで根付いた中央集権がどれだけ堅牢か、日本の地方がいかに何もできないように仕組まれているか、ということまでは、洞察が及ばなかったのだろう。

天皇制と国民主権を整合させることを優先して、天皇を象徴として中央集権的な規定を憲法の前段に持ってきたために、地方自治の議論は後回しにされた。結局、憲法第8章の92条から95条までの条文策定については、日本の中央官僚が深く関与されたと言われている。「地方自治体」ではなく「地方公共団体」という言葉がわざわざ用いられた理由もその辺りにあると思われる。

世界中からヒト、モノ、カネを集めることができなければ、地方は創生しない

既に少子高齢化で人口オーナス期に入った日本では、中央政府が集めた税金を再配分して地方を活性化する余力はない。地方が自ら富を生み出ださなければ「創生」はなしえない。では、富を生み出す源泉は何か。一言で言えば、世界中から富を呼び込む施策を自ら決めることができる自由である。自分たちで産業振興のアイデアを構想し、予算をつけて施策を実行に移し、「我が町に来てくれたら、こんなことができますよ」とアピールして世界中からヒト、モノ、カネを集めるしかないのだ。

ところが日本の地方にはそのような権限が全く与えられていない。自立的に発展していくプランもなければ、富を生み出す能力もない。能力を発揮するための法的根拠すらない。憲法第8章を書き換えない限り、日本の地方に自治は根付かず、衰退する運命から逃れることはできない。

※この記事は、『プレジデント』誌2019年7月5日号pp72-73を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。