大前研一メソッド 2019年6月24日

アマゾンジャパンの「生鮮食品」宅配事業は成功するのか?



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学名誉教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

インターネット通販大手のアマゾンジャパンは、食品スーパー大手ライフコーポレーションと提携して生鮮食品を配送する事業を開始します。売れ筋商品を最短2時間で届けるアマゾンの有料サービス「プライムナウ」にライフコーポレーションが出店する形をとります。

【資料】
食品スーパーとして国内初! Amazon「Prime Now」にライフが出店 ~今年中に販売開始予定~(最終アクセス:2019年6月24日)
http://www.lifecorp.jp/vc-files/pdf/newsrelease/others/20190530Amazon.pdf

自身が生鮮食品を扱うネットスーパーを経営した経験を持つBBT大学院・大前研一学長に、アマゾンジャパンとライフコーポレーションの試みが果たして成功するのか、占ってもらいます。

ライフコーポレーションのネットスーパー事業のボトルネックは配送

ライフコーポレーションは、単独の食品スーパーとして売上高1位。2019年5月30日現在、大都市圏を中心に273店舗を運営している。

同社はネットスーパーサービス「ライフネットスーパー」に取り組んでいるが、配送人員や配送トラックなどの整備や確保が不十分で伸び悩んでいた。店舗側で用意している人員や配送トラックで配送できるキャパシティを超える注文数となる場合には受付を止めざるを得ず、大きな販売機会を失っていた。アマゾンの配送網を活用することで配送まわりの弱点を補うべく、自らが配送に絡まない形でネット販売の売り上げを伸ばすのが狙いである。

同社によるとネットスーパー事業は毎年、2ケタ成長を維持するなど順調に伸びているものの、上記のような理由で前期(2019年2月期)の同事業の売上高は24億円で「総売上高(6777億円)に占めるシェアは0.3%と小さい。2年後の2021年2月期には4倍の100億円まで拡大したい」(同社)考えである。

利用者はスマホなどの専用アプリで生鮮食品を注文。ライフコーポレーションの店員が店頭から該当する商品を集めて梱包し、アマゾンの配達員に手渡す。「アマゾンプライム」におけるライフーポレーションの商品販売は、東京都内の一部地域において2019年中に開始する予定である。

ライフコーポレーションの今後の課題は、商品ピッキング

実は私も、かつて「エブリデイ・ドット・コム」というネットスーパー事業を15年にわたって経営し、各地のスーパーと提携して生鮮食料品の宅配を展開していた。その経験から言うと、スーパーとネットが単純に組んでもうまく展開させるのは難しいと思う。

私たちが当初行ったのは、カートにピッキングする方式である。一般客が来店する前、具体的にはスーパーの開店の約2時間前からカートを押して、注文された食品を棚から取るという方式。注文が5人や10人なら何とかなるのだが、50人、100人となると、大勢がカートを右に左に動かすので店内は大混戦となる。といって、10人分をいっぺんにこなそうと思っても、どれがどの顧客の注文なのだか、混乱してわからなくなる。

そこで、注文された品物が自動的にカゴに落ちてくるベルトコンベヤーのシステムを作ったが、装置にものすごくカネがかかった。ライフはこのようなやり方をしないでカートによるピッキングだけでできるのだろうか。

アマゾンジャパン側の今後の課題は、衛生や温度管理

生鮮食品の場合は衛生上や温度管理などの問題も出てくる。宅配ボックスの配送の問題など、ライフコーポレーションが梱包した商品を受け取った後、アマゾンジャパン側にとってもいろいろな問題が出てくるだろう。

先行例として、米国では小売り最大手のウォルマートがネットで注文した生鮮食品を自宅の冷蔵庫にまで届けるサービスを始める。客が自宅にいなくても、冷蔵が必要な生鮮食品を配達できるようにする。2019年秋にカンザスシティー、ピッツバーグ、ベロビーチの3都市で始める。

まず、顧客がウェブサイトかスマホのアプリで生鮮食品を注文して、受け取りたい日を選ぶ。その日、従業員がスマホでドアを解錠できる「スマートロック」を使って家の中に入り、商品を冷蔵庫に入れる。

他人がカギを開け家に入るなんてことを、特に猜疑心の強い米国の人たちが許すのだろうか。冷蔵庫に入れる際、その辺に置いてあったおいしそうな物をつまみ食いする恐れだってある。それを避けるため、配達員が家に入ってから出るまでの動きをスマホで監視できるシステムも導入することになっているという。

アマゾンジャパンもウォルマートも、新サービスは生鮮食品という点がポイントである。“乾き物”だったら、アマゾンジャパンだってアスクルだって苦労はしない。生鮮食品というのはけっこう難しい。私も生鮮食品の宅配だけのために、自動化装置を導入するなどけっこう苦労したが最終的には115億円くらいの売上高で当時としては日本で唯一収益を出す事業体となった。そんな人間から見ると、ライフコーポレーションもアマゾンジャパンもそして、ウォルマートも「大変だぞ」と言いたくなる。

※この記事は、『夕刊フジ 大前研一のニュース時評 2019年6月1日』を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。