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BBTインサイト 2019/07/04

あなたのビジネスに “心理学” を活かす方法〈 第2回 〉データに基づき、人の心を科学的に捉える5つの基本



講師: 川上 真史
ビジネス・ブレークスルー大学 経営学部 グローバル経営学科 専任教授 同 大学院 経営学研究科 教授


心理学は、読心術やカウンセリングだと思われがちですが、実際は、世の中の俗説に振り回されず、データに基づいて人の心を科学的に見ていく、統計学に等しい学問です。ともすれば先入観や偏向した経験値によって起こる、決めつけや思い込みによる選択的な抽象化、感情と理論の混同。これらを回避し、事の真偽に迫るために必須となる統計の基本的な5つの考え方も含めて今回はご紹介していきたいと思います。

分析から得られる観点を会社組織やご自身の業務に活用することで、人を見る目が客観的になり、真価を引き出す上司と部下の相性や、学歴偏重の人事採用、報酬と動機付けのバランスなどの認識があらためられるようにもなるでしょう。心理学は企業にとってもあなたにとっても大きな利用価値を持つはずです。

1.ゆとり教育世代は、本当に指示待ちでコミュニケーション能力が低い?

まずは、「ゆとり教育世代と呼ばれる若手社員は、指示待ちでコミュニケーション能力が劣る」と言われていることを取り上げてみましょう。

実験計画法という、誘導する質問を一切つくらないように設計されたパーソナリティテスト的なものを、実際に今の若い人たち10万人くらいに取ると何が起こるでしょう。

柔軟な意思よりも堅固な意思を持っている人のほうが多く、情報よりも主観を重視します。そして、他律的な判断よりも、自律的な判断を重視し、外的報酬と内的報酬は同程度重視しているという結果が出てきました。

みなさんは、一般的にゆとり教育と聞くと、左側のような「柔軟」「情報重視」「他律的」「外的報酬」の数値が高くなるイメージがありませんか? 柔軟で意思があまり固くなく、あっちにいったりこっちにいったりと優柔不断。様々な情報に振り回され、指示してくれないと動けず他律的。また、給与や昇進昇格などの外的報酬を重視し、仕事は仕事と割り切っているなどのイメージです。

しかし、実際は右側が多く、しっかりと自分の意思を固く持っていて、1回決めるとそれを守ろうとする。情報というよりは主観を重視し、自分かこっちがいいと思えば、人に聞く前に自分で意思決定する。そしてやりがいといった内的報酬も重視しているという結果が出ているのです。統計を取ると、全く見え方が変わってきます。結局は、一般的にゆとり教育世代と言われているイメージは間違っていて、それらの傾向を持つ人のほうが少ないのです。

また、左側のゆとり教育のイメージの人が45パーセント、右側が55パーセントで右側のほうが少し多いという比率です。こういう実態が掴めると、採用の課題が見えてきます。「でもうちの会社じゃやっぱりゆとり教育っぽい雰囲気の若手ばっかりですよ」となってくると、採用が失敗しているのではないかということが分かってくるわけです。45パーセントのほうばかりが自分の会社に興味を持って、その中からしか採用できていないということになるのです。色々な判断が今までと違ってきませんか? こういうことを追っていくのが心理学の基本です。面白そうでしょう?

2.誰もが陥りがちな認知のゆがみの5パーン

人間はどうしても色々な認知のゆがみを起こしてしまうので、予めそのパターンを理解しておくと、より正確に人のことを捉えていくことができるかと思います。

●過度の一般化
一般化というのは心理学でも行いますが、「過度の」というところがポイントです。例えば100人に1人、1,000人に1人、たまたま自分の部下にそういう人がいただけで、今の若い人はこうだ、と一般化してしまうようなことです。過度の一般化を起こしやすいのは、自分がこう思うのだから皆もそう思うはずであるはずだ、自分はこうやって成功したのだから皆もそうするべきだ、という自分の思いを適用してしまう場合です。

●選択的な抽象化
例えば、「今の若い人は自分で考えず、指示してくれないと動かない」というイメージを持っているとします。そうすると、それに合致する若い人が1年に1回、1人出てきただけでも、「ほらやっぱり、自分が思った通りだ」と強く印象に残して記憶に留めるのです。そうではない多くの人が出てきても無視してしまい、記憶に留めません。自分の思い込みに該当することだけを選んで記憶に留めることで認知はゆがんできます。

●フレーミング効果
物事のポジティブな部分のみ、もしくはネガティブな部分のみを取り出して説明をしたり認知したりすると、人は相当な割合で強調したほうの側面を認知します。これがフレーミング効果です。「私の意見に対して1人のメンバーが強く賛成してくれた」というのと、「1人だけは強く賛成してくれたが、あとのメンバーは誰も強く賛成してくれなかった」というのでは印象が全く異なります。ポジティブとネガティブがどれくらいの比率で存在しているかを正確に見ていかないと、認知がゆがんでいくわけです。

●Sunk Cost
Sunkは「沈んでしまった」という意味です。たとえば池にコインを落としてしまったとしたら、大騒ぎになりませんか? 下手をすると飛び込んででも取ろうとします。100円あげると言われても、この年になると格別うれしくもありませんが、損失の場合は100円玉を落としただけでもすごく悔しいと感じます。要は、失った損失は極度に大きく捉える傾向があるということです。

●感情と論理の混乱
感情は論理に影響を与えます。「好きなものは良いものである、正しいものである」、さらに、「嫌いなものは悪いものである、間違っているものである」となりがちです。例えば、「最近の若い奴らはスマホばかりやっていて、あれではろくな人間にならない。自分の頭で考えず、自主的に動くことがなくなり、どうのこうの…」などという発言は、スマホを見ている人が嫌いという感情があり、そこからそれが悪いものであるという論理展開をしてしまっているわけです。逆に自分でスマホを使いだすと、「これは意外にいい、便利だ。スマホを使いこなせない奴はだめだ」といった論理をつけ始めたりします。このように、論理ではなく感情からスタートしていくというケースは結構多く見られます。

3.心理学を支える統計の基本的な5つの考え方

認知のゆがみに惑わされず、科学的にデータを取り、統計的に解析し、その解析された結果から自分で次の仮説を打ち立てていくのが心理学です。心理学をやる上で、統計は必須です。統計処理のスキルまでを持つ必要はありませんが、解析された結果のデータを読んだり、どのようなデータの解析をした結論なのかという点に注目できたりするよう、基本的な知識は持ち合わせたいものです。

●データ数
データ数が3人のときと1,000人のときでは話が全然違ってきます。できるだけデータ数を多く集めること、また、この結果がどれくらいのデータ数で言われていることなのかを確認することは当然必要になります。

●何を分母とするか
分母に何を置くかで、判断は大きく変わります。しかし、この確認が意外と抜け落ちがちです。例えば、平昌オリンピックで日本は過去最高の13個のメダルを取りました。それまでの過去最高は、長野オリンピックの10個。しかし、本当に増えたのかどうかは、分母に何を入れるかで変わります。分母が「今までで最高の長野オリンピックのメダル数」で、分子が「今回取ったメダル数」ならば増えていると言えます。ところが、長野オリンピックに対して平昌オリンピックでは、実は種目数が30パーセント以上増えています。よって、「種目数」分の「取ったメダル数」で両者を比較した場合は、「減っている」と言わなければなりません。

●代表値
代表値で多くの人が使うのは「平均」です。一方、真ん中の数字は「中央値」です。例えば、テストの点で、100点の人と10点、20点、30点、40点の人、全部で5人いたとします。この平均値を出すと、50点になります。平均点が他の4人よりも高くなるわけです。しかし中央値という真ん中の値を出すと、今度は30点になります。同じ代表値でも判断が違ってきます。ですから、代表値に何を使っているのかを見ておく必要があります。

●有意差
2つの標本のもととなるデータ数とその散らばり、そして平均値を鑑みて、明らかにその2つの数値の差に統計学上の意味があるということを証明する必要があります。95パーセント以上の確率で明らかに違いがあるということであれば、心理学上では意味のある差になり、それを「有意差」といいます。このような検証を行うことが必要です。例えば、子どもに英語を習わせるなら〇歳以下で始めなければいけないと言うのなら、その歳以下で始めた子と、それ以上の歳で始めた子のデータをそれぞれ1,000人ずつ集めて、英語力を正確に測るテストの平均点を取り、それを統計的に解析したときに、本当に意味のある差が出ているかどうかを見なければいけません。

●相関
一方の数値が高まると、もう一方も高まるということが本当に起こっているのか、その相関も確認していきます。例えば、上司のマネジメント傾向とその職場のメンバーのストレスを相関で見るようなケースを考えましょう。「組織課題の正確な把握をしていることと、ストレスが低くなることに特に関係はない」、「部下と密接なコミュニケーションを取るという傾向を上司が持っているほど、ストレスは低くなる」となった場合、この職場においてメンバーのストレスを下げるためにこの上司が考えるべきことは、仕事の中身自体よりも、きちんとコミュニケーションを取ることとなるわけです。

4.心理学の活用で企業活動をより高みへ

ここまで心理学をビジネスに活かすうえでの基礎的な話をしてきました。そして、企業において心理学が扱うテーマは様々あります。例えば組織人事においては、

・どのような上司は、どんな部下とチームにするとうまくいくのか
・いつどこからどのような人材を採用すると、成果をあげるのか
・今現在、役員として成功するタイプとは
・誰にどのような報酬を与えると動機づくのか
・社員の評価項目として重要なのはどのような視点か

などです。これらを意見のみで議論するのではなくて、まずはデータを取ってみる。どのようなデータをどれくらい取り、どういう解析してみようか、ということを考えていく。そこまでやらないとしても、ネット上で共有されている調査研究を活用する。皆さんも、すぐにでも始められます。

また、ありがたいことに、AIによる解析がかなり進化してきています。ディープラーニングの高度化や計算速度は桁違いです。AIを使うと、新たな基軸の発見や、仮説の提案などもしてくれるようになってきています。そのため、心理学の研究はものすごく発展してきていますし、活用しない手はないでしょう。

ただし、意思決定はやはり人間です。心理学で出てきた結果そのもので意思決定までしてしまうのではなく、意思決定の1つの材料として使っていくという姿勢を忘れずにいていただければと思います。

※この記事は、ビジネス・ブレークスルーのコンテンツライブラリ「AirSearch」において、2018年6月25日に配信された『『企業と心理学 01』』を編集したものです。

講師: 川上 真史(かわかみ しんじ)
ビジネス・ブレークスルー大学 経営学部 グローバル経営学科 専任教授、同 大学院 経営学研究科 教授、Bond大学大学院 非常勤准教授、株式会社タイムズコア代表、明治大学大学院兼任講師、株式会社ヒュ-マネージ 顧問。
京都大学教育学部教育心理学科卒業。産業能率大学総合研究所、ヘイ・コンサルティンググループ、タワーズワトソン ディレクター、株式会社ヒューマネージ 顧問など経て、現職。
数多くの大手企業の人材マネジメント戦略、人事制度改革のコンサルティングに従事。

  • <著書>
  • 『コンピテンシー面接マニュアル』
  • 『できる人、採れてますか?―いまの面接で、「できる人」は見抜けない』(共著・弘文堂)
  • 『仕事中だけ「うつ」になる人たち―ストレス社会で生き残る働き方とは』(共著・日本経済新聞社)
  • 『会社を変える社員はどこにいるか―ビジネスを生み出す人材を育てる方法』(ダイヤモンド社)
  • 『自分を変える鍵はどこにあるか』(ダイヤモンド社)
  • 『のめり込む力』(ダイヤモンド社)
  • 『最強のキャリア戦略』(共著・ゴマブックス)など