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大前研一メソッド 2019/07/08

“原発推進論者”の大前研一が「原発不要」を提言



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学名誉教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

経団連(日本経済団体連合会)は2019年4月に『日本を支える電力システムを再構築する』と題したエネルギー政策の新たな提言を発表しました。発表会見の席上、会長の中西宏明氏(日立製作所会長)は「日本の電力は危機に直面している」としたうえで、かねて経団連が主張してきた原発の再稼働や新増設を改めて求めました。

【資料】
日本を支える電力システムを再構築する(最終アクセス:2019年7月8日)
https://www.keidanren.or.jp/policy/2019/031.html

これに対し、「東日本大震災と福島第一原発事故以来の国民感情をまったく理解していない」とBBT大学院・大前研一学長は斬り捨てます。「原発メーカー(日立)の会長が、政府に対して堂々とロビー活動しているとか思えない」と大前学長は言います。大前学長の「原発不要論」を聞きました。

原発事故が起きた場合の指令塔となる組織が政府、首相官邸に不在

私は基本的には原発推進論者である。福島の反省を踏まえて、「こうすれば安全は確保できる」というレポートを書いているし、再稼働のための『原発再稼働「最後の条件」』(小学館)も出版している。原発を推進したければ推進する方法はあると思っているが、運用責任者であるはずの日本政府に信頼が置けない。

再び原発を推進する大前提となるのは、福島の原発事故を徹底的に究明して、事故の検証から導き出した安全対策を実行し、再稼働の条件を明確化することだ。地元や国民に対する情報開示や当然のことだが、政府は福島の原発事故の説明責任をいまだに果たしていない。

物理的な安全対策だけでなく、それでも事故が起きた場合に備えて、組織的な危機管理体制も整えておかなければならない。具体的には重大事故状態に陥ったときに誰がどういう手順で避難指示を出すのか、自衛隊の出動命令を出すのか等々、事故に迅速に対応する指揮命令系統を確立する必要があるのだ。現実には首相官邸が指令投になるべきで、私は何度も自民党に説明に行って相応の機関を官邸に進言したが、まともに取り合ってもらえなかった。

「規制委員会があるではないか」と思うかもしれないが、規制委員会は事故が起きないようにする組織だから、事故が起きたときには、それとは独立した専門家集団が官邸で判断、指揮などを首相に進言しなくてはならない。

福島第一のときには、保安院の院長が機能不全に陥り、私が「メルトスルー(溶融貫通)している」と官邸に説明に行っても、「そんなはずはない」と叫んでいた。

また、「万が一のときはこうしましょう」という話を詰めなければいけないのに、担当したある国会議員(原発が多い自治体選出)は「万が一なんて選挙区で言ったら、私は(選挙)に受かりません。嫌です」と議論を拒否した。万が一の事故が起きたときに、こんな無能な政府、首相官邸が指令塔の役割を果たせるわけがないし、住民や国民の不安を拭えるはずもない。

原発にも再生可能エネルギーにも頼らず、日本全体の電力使用量そのものを半分に抑える

再生可能エネルギーはコストや安定供給などの課題があって、活用に限界がある。他方、原発は国民から「NO」をつきつけられている。そうした認識に立って「日本の電力は危機に直面している」(中西会長)というのなら、経団連会長として政府と国民世論に問うべき提言は「節電」だと私は思う。日本のような人口減少社会は放っておいても少しずつ電力使用量が減っているのだが、国全体が必死で節電することによって「電力使用量は半分で済むようになる」と私は思っている。

たとえば、電力使用量が非常に大きい工業用、商業用のモーターやコンプレッサーは、省エネ研究が実用化の段階に入って、少なくとも30%ぐらいの省電力化の見通しが立っている。

各家庭においてもすべての電球をLED化したり、住居の断熱化を義務化すれば、大幅な節電ができる。また、日本の電力網は新潟県の糸井川と静岡県の富士川を境に電源周波数が東は50ヘルツ、西は60ヘルツに分かれている。この糸魚川をまたいで電力を融通しあえる全国的なネットワークを築けば、日本全体の発電量は15%程度抑えることができることがわかっている(現在、周波数変換能力は日本全体で120万kWと、原子力発電所の発電機1基が発電する容量相当であり、その規模は小さい)。

【資料】
でんきのあした 中部電力(最終アクセス:2019年7月8日)
http://dna.chuden.jp/sp/sum26/

私が経団連会長だったら、以下のように提言する。「産業界の50%節電は、私が責任と覚悟を持って仲間に呼びかけ、車などの移動体を含めて取り組みます。ついては国民の皆さんも同じく50%の大胆な目標をもって節電に取り組んでいただきたい。そして政府には家庭のLED化や断熱を助成していただきたい」

※この記事は、『プレジデント』2019年7月19日号pp.78-79を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。