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大前研一メソッド 2019/08/05

米フェイスブックのデジタル通貨「Libra」発行計画にG7が横やり



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学名誉教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

米フェイスブック社は、独自のデジタル通貨「Libra」の発行計画を2019年6月に公表しました。下記の公式サイトによれば、電子メールのようにネット上で簡単にLibraのやりとりができるようになるのが特徴で、料金の支払いなどに手軽に使えるようにするのはもちろん、スマートフォンのアプリを使えば国境を越える送金も簡単にできるようになります。フェイスブックの当初の計画では2020年前半にもLibraのサービスを開始する予定でしたが、主要7か国(G7)から横やりが入り、誕生そのものに暗雲が漂っています。BBT大学院・大前研一学長に聞きました。

【資料】Libra公式サイト(日本語ページ)(最終アクセス:2019年8月5日)
https://libra.org/ja-JP/

米国をはじめとするG7が、Libraの発行計画に「待った」

デジタル通貨「Libra」について、米議会は「開発を一時停止すべきだ」と阻止する動きを強めている。

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長も、米議会で「Libraはプライバシーや資金洗浄、消費者保護の面で深刻な懸念がある。事業の審査を慎重に見極める必要がある」と主張した。また、トランプ大統領もツイッターに「Libraは信用できない。フェイスブックは銀行免許を取得すべきだ」と書き込んでいる。

【資料】
トランプ大統領、「Facebookの仮想通貨Libraは信頼できない」とツイート(最終アクセス:2019年8月5日)
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1907/12/news078.html

Libraが警戒される背景にはFBの個人情報流出の問題や、2016年の大統領選でフェイクニュースをバラまいたことによるフェイスブックに対する不信感がある。

2019年7月にフランスで開かれたG7財務相・中央銀行総裁会議でもLibra対策が大きな議題となった。いつもなら集まって何も合意ができないG7なのに、ことLibra対策については合意した。それほど、「Libra」の影響は大きくなると思われ警戒されているわけだ。FBもこんなに反響があるとは思わなかったことだろう。

大きな反応があるのは、Libraが従来の仮想通貨とは異なり、ドルや円などの通貨に裏打ちされているからだ。ポイントは、FBのメッセンジャー機能(リアルタイムでメッセージのやり取りができるアプリ)を使って、カネを貯めたり、融通したり、送金したりできること。

SWIFT(国際銀行間通信協会=銀行経由で国際送金する際に顧客の個人情報を共有するネットワークシステム)や日本の全銀システム(全国銀行データ通信システム=国内の金融機関相互の内国為替取引をコンピューターと通信回線を用いてオンライン処理できる手形交換制度)などを経由せずとも、取引ができるわけ。

「Libra」の誕生が阻まれれば、中国の「アリペイ」「ウィーチャットペイ」が世界を席けんか?

すでに中国のネット通販大手のアリババ・グループでは、QR・バーコード決済サービス「アリペイ」でオンライン決済の業務をしている。子会社の「アント フィナンシャル」では外貨建MMF(マネー・マーケット・ファンド=米ドルなどの外貨で運用する外貨建の投資信託)の運用も手掛けている。

アリペイのユーザーは約10億人。中国にはほかに「ウィーチャットペイ」などSNSアプリで利用できる決済サービスもある。だから、FBとしても、せめて中国並みの自由度がほしいところだろう

しかし、中国がここまで進んでいる実態をG7の人たちが分かっているとは思えない。今回の議論を聞いている限り、「怖い」「やめてくれ」「ドルはどうなるのか」とおびえきった話ばかりだ。

欧州連合(EU)では、参加国通貨の加重平均をバスケット通貨(ECU=エキュー)として数年使用したのち、ユーロが導入された。しかし、ユーロの仲間に入るにはマーストリヒト条約に準拠しなくてはいけない。インフレ率が低い参加国の平均の2%以内に落ち着いているとか、単年度の財政赤字がGDPの3%以下とか、債務残高の合計がGDPの60%以下など厳しい条件が課されている。米国も日本も、こうした条件は満たしていないので、仮にユーロに加盟したくても盟できないぐらいだ。

G7のLibra対策の研究グループは、Libraに規制を加えるのではなく、むしろ政府が発行している通貨が大甘に放置されている現状に規制を加える方向に行かざるを得ないのではないか。

※この記事は、『夕刊フジ 大前研一のニュース時評 2019年7月27日』を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。