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大前研一メソッド 2019/08/19

トランプ大統領が編み出した、戦争をせずに米国の軍需産業を潤わす新しい方法



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学名誉教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

2017年に米国の大統領に就任して以来、各方面に因縁をつけたり、ケンカをふっかけてきたトランプ米大統領なのですが、実際の戦争に持ち込んだことは一度もありません。実際の戦争に持ち込まない米国の大統領というのは、実は大変珍しい存在なのだとBBT大学院・大前研一学長は言います。トランプ大統領が戦争に持ち込まないのは、実際の戦争を行わなくても米国の軍需産業を潤わすことができる、新しい“ビジネスモデル”を編み出したからだと大前学長は指摘します。

同盟国を脅して国防費支出の増額を迫り、米国の兵器輸出拡大につなげる

あれだけ罵り合っていた北朝鮮の金正恩委員長とは歴史的な首脳会談を実現したし、“開戦前夜”という雰囲気の対イラン戦争も「回避したい」というのがトランプ大統領の本音だろう。

米国の新聞American Herald Tribune紙によると、建国243年の歴史の中で、米国は220年以上も戦争をしてきた。

【資料】The U.S. Has Been at War for Over 220 in 241 Years(最終アクセス:2019年8月19日)
https://ahtribune.com/human-rights/american-human-rights/1769-us-war.html

およそ「戦争で成り立ってきた国家」と言ってもいい。時の米大統領は「自由や民主主義」、あるいは「正義や人権を守るために戦う」と戦争の正当性を訴えてきたが、それはほとんどが建前だ。米国が戦争する本当の理由は、誰もが知っているように米国の軍需産業が潤うためである。

トランプ大統領も軍需産業からそっぽを向かれたら自らの政権が長続きしないことをよくわかっている。しかし、歴代の指導者と違って、実は臆病だから、米国人の血が流れるような戦争をトランプ大統領は行いたくない。米国軍人に犠牲者が出れば、次の大統領選挙にもマイナス要因になるからである。

軍需産業を潤わせたい。かといって、米国軍人に犠牲者が出る実際の戦争はしたくない――。トランプ大統領がはたと気が付いたのは、商売相手からディールを引き出し、女性を口説いてきた自分の口先が、外交交渉にも使える、ということだ。

たとえば、対欧州。トランプ大統領は大統領選挙中から「NATO(北大西洋条約機構)不要論」を訴えて、「我が国の拠出金負担が大きすぎる」と不満を呈していた。大統領就任後は「米国に居残って欲しければ、NATO加盟国は防衛費支出の対GDP比を引き上げろ」と言い募ってきた。NATOは2025年までに加盟国の防衛費を対GDP比2%以上に引き上げる目標を掲げているが、ドイツやフランスなどの大国をはじめ、対GDP比2%以上に達していない国が多い。

トランプ大統領の「口撃」を受けて、2018年7月のNATO首脳国会議では、防衛費支出の拡大目標達成に向けて加盟国が強くコミットする旨の共同声明が出された。それでも物足りないトランプ大統領は「2025年までではない。直ちに防衛費支出を対GDP比2%以上に引き上げる必要がある」「目標値を4%に拡大せよ」と迫ったという。

米国の軍事力に頼ってきたNATOにケチをつけ、「NATO離脱」をちらつかせて軍事負担の均衡を求めた結果、加盟国の防衛費支出拡大という「果実」を得た。当然、兵器は世界一の武器輸出国である米国からも大量に買い込むことになるわけである。

一方で、北朝鮮を挑発して緊張感を高めれば、日本はイージス・アショアとF35戦闘機100機、韓国なら高高度防衛ミサイル「THAAD」などの高額兵器を購入してくれるし、中東を引っかき回せば、お得意様であるサウジアラビアやエジプト、UAEなどが大量に武器を買ってくれる。

「国に戦争をしてもらって補充品の兵器で儲ける」とうのが、これまでの軍事ロビーの基本的な考え方だった。しかし、今は国が戦争をしなくても、つまり米国人が血を流さなくても、大統領の口先一つで兵器が売れる。軍需産業が潤う。これはトランプ大統領という異色のキャラクターが編み出した画期的な手法なのだ。

米国の軍事負担の「不公平さ」を恫喝交じりにアピールして、相手国に国防費支出の増額を迫り、自国の兵器輸出拡大につなげる――。NATO加盟国や韓国、サウジアラビアなどの同盟国を狙い撃ちにしたトランプ大統領お得意のディールだが、当然のことながら日本も標的の一つである。

ホルムズ海峡のシーレーン防衛:「応分の金を出すなり、兵器を買ってくれるなら守ってやるよ」が米国の本音か

G20大阪サミットが開催された2019年6月、トランプ大統領は日本の国防を揺るがす発言を繰り出してきた。

「(ホルムズ)海峡から(中略)日本は原油の62%輸入している。(中略)なぜ我が国が何の見返りもなしに他国のシーレーンを守らなければならないのか」「(ホルムズ海峡の原油に依存する)こうした国々がいつも危険な旅を強いられている自国の船舶を自分たちで守るべきだ」

トランプ政権はホルムズ海峡を航行する民間船舶を護衛するための軍事的な有志連合結成を呼び掛けている。有志連合に自衛隊を直接参加させるのか、それとも金だけ出すのか。日本政府としてはまずは決断を迫られる。

ホルムズ海峡を通る日本の船舶の護衛は日米安保条約の対象ではないから、本来なら海上自衛隊がシーレーン防衛を担うべきだが、憲法上の制約から海上自衛隊の艦艇は派遣するのが難しい。特措法制定や憲法改正などの法整備は避けて通れない。

海上自衛隊が現実にホルムズ海峡で日本タンカーを防衛するイメージは当面浮かんでこない。なぜなら、「応分の金を出すなり、兵器を買ってくれるなら米国が守ってやるよ」というのがトランプ大統領の本音だからだ。

※この記事は、『プレジデント』誌2019年8月30日号pp.74-75を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。