MBAダイジェスト 2019年8月22日

サプライチェーン経営論(6)企業がCSR調達を重要視する理由とは?

『MBAダイジェス』シリーズでは、国内初・最大級のオンラインMBAである「BBT大学院」、ならびに2つの国際認証を持つ「BOND-BBT MBAプログラム」の修了生が、両校で学ぶMBA科目のエッセンスをまとめ、わかりやすく紹介していきます。将来的にMBAの取得を検討している方や、MBAの基礎知識をインプットしたい方はご活用ください。



執筆:村上昌也(BBT大学院MBA本科修了)
対象科目:サプライチェーン経営論(上原 修 ビジネス・ブレークスルー大学大学院 客員教授、米サプライマネジメント協会(ISM)日本代表理事)

サプライチェーンは企業倫理が重大

前回は、グローバルをテーマに調達のポイントをお伝えしました。今回は、もう一つの重要なテーマである企業の社会的責任(CSR)の側面から調達の理解を深めていきましょう。

CSRという言葉は社会に浸透していますが、その範囲は常に拡大しています。特にサプライチェーンに関しては企業倫理が重大で、サプライチェーンをCSRの観点で求める動きは、現在、社会的潮流となりつつあります。その背景には、企業活動が地球規模で行われるようになった事や、サプライチェーンの最上流の原材料調達の現場等で社会課題の多くが発生している事が挙げられます。

また、国際標準化機構は、あらゆる組織が調達を行う際、社会的責任の視点から素材・原材料の段階まで遡って持続可能性に配慮するように努めることが望ましいと考え、ISO20400「持続可能な調達に関する手引」を策定しました。

ISO20400は、持続可能な調達に関する世界初の国際規格で、ISO26000「社会的責任に関する手引」を補完し、企業や団体が調達を通じて持続可能な開発に寄与するための指針を示すものとして位置づけられています。

CSR調達をしない場合に起こるリスクとは?

CSRを考える上で無視できないのがステークホルダー(利害関係者)です。ステークホルダーは、企業の利害と行動に直接・間接的な利害関係を有します。具体的には、消費者(顧客)、従業員、株主、債権者、仕入先、得意先、地域社会、NGO、行政機関などです。

CSR調達をしない場合、それぞれのステークホルダーで色々なリスクが想定されます。

《NGO、消費者》
不買運動やネガティブキャンペーンにより、ブランドが毀損するブランドリスク。

《株主、投資家》
株価の下落や株主行動に影響を与えるIRリスク。

《サプライヤー》
サプライヤーの操業停止や調達品の供給停止につながる調達リスク。

《行政、消費者、顧客企業》
商品のコンプライアンス違反、商品の回収やビジネス顧客への納入停止、ビジネス顧客からの返品などの販売リスク。

これらのリスクを回避するためにも、対象の多種多様なサプライヤーに協力を仰ぎ、適切に管理・指導・援助しCSR調達を推進する柔軟なマネジメント体制が求められています。

調達担当者には倫理観が求められる

CSR調達の中心的存在になる調達担当者においては、倫理観が強く求められています。求められる倫理観はいくつかありますが、その中でも重要な倫理観は、疑いをかけられるような行為は慎むという姿勢です。

以前、日本で海運大手10社に公正取引委員会の立ち入り調査があり、アメリカ、EUでも調査が行われているというニュースがありました。また、ベアリングメーカーの価格カルテルについての報道が過去に日米両国でありました。近年、日系企業の独禁法事件が目立っています。

独禁法違反の罰金は米国政府の大きな財源とも言われており、景気停滞の続くアメリカにとって、昨今台頭のめざましいアジア諸国は、願ってもない取り締まりのターゲットとなっています。

独禁法違反は、当然、アメリカでも刑事事件となり、日系企業から逮捕者が出ています。違法行為のスキャンダルも含め、独禁法違反は莫大な損失を企業に及ぼします。

在米の日本企業は、コンベンションや業界の会合、新年会やゴルフトーナメントなど、必ずしもビジネスの場でない場所で、同業者が顔を合わせます。日本ではよくある光景ですが、その光景をアメリカ人が見ると、何かコソコソとやっているのではないか?と疑いをかけられてしまいます。

海外と日本との違いを理解して、疑いをかけられるような行為は慎むという姿勢を持つ事が大切です。

CSR調達は企業の中長期的な競争優位を構築する

これまで見てきたように、CSR調達は企業にとって重要なテーマとなっています。

企業が社会的責任を果たしていく過程において、相互に受け入れ可能な成果を達成するために、対話などを通じてステークホルダーと積極的に関わっていく事が大切です。

対象となる多種多様なサプライヤーに協力を仰ぎ、適切に管理・指導・援助するサプライチェーンマネジメントを推進することで、企業は、自社のサプライチェーンにおける社会・環境リスクを低減できます。

また、リスクが少ない高品質な原材料を安定調達する事が可能となるので、企業の中長期的な競争優位の構築を図ることができます。

村上 昌也

BBT大学院本科 修了生。
1975年生、和歌山県東牟婁郡出身。
高校卒業後、IT業界でキャリアをスタート。
コンサルティング会社勤務時代、開発プロジェクトのテクニカルリーダーを務め、顧客企業の業績向上に寄与。
その後、複数の企業に勤務し、企業向けシステムの企画・開発・導入支援、自社のIT企画等、様々な立場から企業の課題解決に関わる。
2013年にBBT大学院に入学、2015年MBA取得。
MBA取得後に転職し、事業部長として事業活動推進のみならず、中堅・若手の育成にも情熱を持って取り組んでいる。
趣味はキーボード・ピアノ演奏。ロックバンドコンテストでの受賞歴を持つ。最近はジャズピアノに傾倒し、休日は仲間とセッションを楽しむ。


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