BBTインサイト 2019年9月12日

パーソナリティはどうやって創られるのか? 大人になったあとも役に立つ心理学的アプローチ



講師:川上真史(ビジネス・ブレークスルー大学 経営学部 グローバル経営学科 専任教授 同 大学院 経営学研究科 教授)



パーソナリティはどうやって創られるのか? その代表的な研究者にエリク・エリクソンという人物がいます。彼は、人の発達段階を「乳児期」「幼児期」「児童期」「青年期」「成人期」「老年期」という6つに分け、それぞれの課題を克服することで個人は出来上がると考えました。これを目安と考えれば、より自分のパーソナリティを見つめやすくなり、自分の弱み・強みの基準として考えることができるでしょう。では早速それぞれの段階ごとに見ていきたいと思います。

1.生まれてすぐに社会との信頼関係は始まる

実は子どもは、生まれてからすぐにベーシック・トラスト=基本的信頼感を獲得します。これは何かというと、よく不満や文句ばかり言ったり、誰かに対してすぐ警戒したり攻撃的になったりする人がいますが、それは基本的信頼感を獲得できていない、周りの世界を信頼できないことを示しています。この基本的信頼感が出来上がってくると、世界も人間も面白いことに気づき、たとえ1回失敗してもすぐに立ち上がる力がつきます。

乳児期の子どもと2〜3歳の子どもの大きな違いは、話せるかどうか、自分で歩けるかどうかです。歩いて話せるということは自分の意思を言語化して伝えることができるということです。反対に、乳児の子どもは自分の意思を伝えることができないので、放置したら生きていけません。ただ、そんな乳児の子どもでも、大きく2つの感情を持っています。それが、快感感情と不快感情。快感のときは笑っているし、反対に不快なときは泣く。これが幼児期のコミュニケーションになります。親や周りにいる人は、乳児が泣いているときは不快感情を取り除くアプローチをして、笑っているときは一緒に笑ってあげる。つまり、笑う泣くという乳児期のコミュニケーションに対して周囲からポジティブな反応が得られるかどうか、それが基本的信頼感を形成する大きなカギとなります。



これが幼児前期(2〜3歳)になり歩けるようになると、いろんなものに触れたり、食べたりできるようになり、それとともに社会的なルールとの葛藤が生まれます。朝起きたら歯を磨くとか、人を打ってはいけないとか。あるいは今までやってもらっていたことを「自分でやれ」と言われたり。だからこの年頃が第一次反抗期と言われるわけです。ここでやるべきこと、やってはいけないことを条件づけ的に身につけるわけですが、そのときに大切になってくるのが乳児期に身につけた基本的信頼感です。これが身についていないと、親から怒られたときに、親は自分のことを受け入れていないと考える傾向があります。

この条件づけは子どもの頃だけでなく、実は大人になった後もずっと続きます。「仕事なんだからやれ」とか、「ダメな理由なんかない。仕事はそういうもんなんだ」とか。あれも一種の条件付けです。そして、その条件付けには罰と褒美が伴います。やってはいけないことをやったら上司に叱られ、あることをやったら上司に褒められた。そうやって徐々に条件付けされるわけです。

2.5歳までに社会で人として生きていくための基礎は身に付く

幼児後期(4〜5歳)になり、1人遊びから集団で遊ぶようになると社会性が発達し、また男女の性別も認識できるようになり、恋愛感情が芽生えることもあります。子ども同士で遊ぶ場合、おもちゃで遊んでいたら急にそのおもちゃを横取りされたり、急に後ろから蹴られたりと、いろいろと面倒なことが起こってきますよね。そうした葛藤を処理する基本的な方法を身につけることが、この時期では大切になってきます。急におもちゃを取ってその子が泣いてしまったら、「ごめんね」と言って謝る。取られた方も謝られたら泣くのをやめてもう1回仲良くなる。友達とのそういう付き合い方を身につけることが大事でしょう。


乳児期から幼児期の間で、基本的信頼感がしっかり形成され、基本的なルールが身に付いている子どもは、いろんな友達と遊びやすくなるし、周りからも一緒に遊ぼうと言われやすい。つまり、4〜5歳までに社会で人間として生きていく基本的なところはすでに出来上がっているといえるでしょう。これが身についていると第1次安定期がきます。そして、気持ちが安定すると、今度は多くのことを知りたい、体験したいという好奇心が溢れ出てきます。よく小学生になると「なんで?」とか「これ何?」と聞いてくる子どもが多いですが、それは好奇心が溢れ出ている証拠です。だから勉強も面白い。これが児童期になります。


小学生の時代が楽しかったと思える人は、こういう流れをしっかり辿ってきているからでしょう。私が小学生のときは本ばっかり読んでいましたが、自分の子どもにはいろいろな場所に連れていったり、夜一緒にお風呂に入ってディスカッションしたり、湯気で曇ったところに何か書いて教えたり、いろいろな体験をさせました。そうやって安定期を迎えると将来的にパーソナリティも安定しそうですよね。けれど、実は次に、人生最大の危機を迎えることになります。

3.「自分探し」で人生最大の危機を乗り越える

青年期になるとモラトリアムの時期に入ります。どういうことかというと、小学生までは親や先生が言うことを絶対的なルールとして受け入れますが、中学や高校に入ると、それらに対して疑問を抱くようになります。「なんで何時に寝ないといけないのか」「なんでずっとテレビを見たらいけないのか」。そうした疑問は抱くけれど、自分の中に基準やルールがないからどうしたらいいかわからない。だから反発ばかり始める。これを心理学ではモラトリアムと呼んでいます。反発しながら何をしているかというと、自分としての基準や位置付けを探そうとしています。いわゆる自分探しです。その結果、自分はどんな人間なのか、どういう生き方をしたいのかを認知するようになる。それがアイデンティティが統一された状態です。そうして自我が生まれ、自分なりの判断基準ができ、自分で意思決定をしながら生きていく。そんなアイデンティティが統一された状態が、いわゆる大人というわけです。


このとき、自我形成ができるためには4つの条件が揃うことが必要であると、心理学者のユングは分析しました。


1つ目は「主体性」です。例えば、上司があれやれと指示してきたとします。それに対し、「つまんないことやれと言ってきたけど、しょうがないからやるか」、これは私はどこにもいなく、主語は上司です。反対に、「意味はないと思っているけれど、まずは上司が言ってきた通りにやることが最も現実的なアプローチであると判断した」となると、これは主語が私なんです。上司に言われたことをやるという行動は同じですが、アプローチの仕方で主語は変わります。

2つ目が「単一性」です。自分の中の好きなところには目を向けているけれど、嫌なところからは目をそらしている。これは単一な自分になっていません。自分という存在はたった一人であり、いいところもあるし、悪いところもある。それらをひっくるめて自分であると考えるのが単一性です。

3つ目は「連続性」。これは、過去の自分と今の自分を比べると考えや行動が変わっていて、その変化に対して理由があるということを指します。今まではこういうやり方をしていたけれど、こう思い直して別のやり方に変えた。けれど、実際にやって見たら前のやり方の方が成果に繋がるので前の方法に戻した。これが同一の自分のまま連続している状態というわけです。

そして、最後が「自他の区別」。自分がこう思っていたらみんなもそう思っているはずだ、これは自他の区別がついていない状態です。反対に、「自分はこう思っているけれど、あの人は違ってこう思っている」「あの人はこれができるけれど、自分はできない」と、自分と他者を分けて考えることが、自他の区別がついている状態を指します。

大人になって人と接すると、「この人は基本的信頼感が欠落している」「この人はモラトリアムで止まっているから反発しているだけ」というのが見えてきます。反対に、自我形成までできている人は、自分の意思で生きていることがはっきりとわかり、パーソナリティが安定している印象を抱きます。

4.コンプレックス=劣等感ではない

パーソナリティに関して、不安定にさせる基本としてコンプレックスが挙げられます。日本ではコンプレックスを「劣等感」と誤解して捉えられがちですが、コンプレックス(=complex)という英単語には「複雑」「複合」という意味があり、劣等感はありません。コンプレックスの中の一番典型的なものが劣等コンプレックスなので、劣等感=コンプレックスと考えられてしまったわけです。ただ、劣等感と劣等コンプレックスは全く別のものです。


劣等感とは、「他人と比べてこれができない」「これが劣っている」と意識しすぎて、自分はダメな人間だと思い不安定に陥ること。これは劣等感のある人です。対して、劣等コンプレックスがある人は、自慢ばかりする人です。「自分はこんなことができる」「自分はこんなにえらい人間だ」と延々と自慢ばかりする。思い当たる人はいますか? 

劣等感も劣等コンプレックスも「自分はこれができない」「人と比べてこれが劣っている」と考えるのは同じなのですが、劣等コンプレックスの場合はそこから自分のできない部分を無意識の中に抑え込み、「自分ほどできる人間はいにあ」「自分ほどえらい人はいない」と言い聞かせ続けます。それだけだとまだできない部分を見てしまいそうになるので、周りに向かって延々と自慢するわけです。こうした深く抑え込むことによる不安定な反応が、大きく3つあります。


まず1つ目が「同一視」。「自分自身もやればできる」「やっていないだけだ」と思い込む人、よくいますよね。「あの人と同じくらいできるはずの人間だ」と、そうやって自分を納得させようとしているわけですね。2つめが「反動形成」。ある話題やテーマになった途端に極端に否定したり、拒絶する人に会ったことありませんか? 例えば、お金持ちの話になると「金持ってるやつはロクな人間にならない」とやたらと否定する人。おそらくこの人は本当はお金が欲しいのでしょう。自分ができないことに対して、「そんなことやっても意味がない」「価値がない」と思い込むのが反動形成で、自分の能力がないことに対して意味がないと考えることをいいます。最後3つ目が「投影」。これは簡単で、自分ができないのはあの人のせいだ、と人のせいにすること。

これら3つの反応をしっかりと覚えておき、いざ自分がやってしまったときは、「やってしまった」ということを理解し、気づくという癖をつけておくこと。いきなり無意識まで入って根本を変えるのは難しいので、反応が出てしまったときにそうやって徐々にコントロールしていき、気づき始めれば、だんだんと反応が止まっていき、心も安定してくるでしょう。

※この記事は、ビジネス・ブレークスルーのコンテンツライブラリ「AirSearch」において、2019年1月28日に配信された『企業と心理学08』を編集したものです。

講師: 川上 真史(かわかみ しんじ)
ビジネス・ブレークスルー大学 経営学部 グローバル経営学科 専任教授、同 大学院 経営学研究科 教授、Bond大学大学院 非常勤准教授、株式会社タイムズコア代表、明治大学大学院兼任講師、株式会社ヒュ-マネージ 顧問。
京都大学教育学部教育心理学科卒業。産業能率大学総合研究所、ヘイ・コンサルティンググループ、タワーズワトソン ディレクター、株式会社ヒューマネージ 顧問など経て、現職。
数多くの大手企業の人材マネジメント戦略、人事制度改革のコンサルティングに従事。

  • <著書>
  • 『コンピテンシー面接マニュアル』
  • 『できる人、採れてますか?―いまの面接で、「できる人」は見抜けない』(共著・弘文堂)
  • 『仕事中だけ「うつ」になる人たち―ストレス社会で生き残る働き方とは』(共著・日本経済新聞社)
  • 『会社を変える社員はどこにいるか―ビジネスを生み出す人材を育てる方法』(ダイヤモンド社)
  • 『自分を変える鍵はどこにあるか』(ダイヤモンド社)
  • 『のめり込む力』(ダイヤモンド社)
  • 『最強のキャリア戦略』(共著・ゴマブックス)など