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MBAダイジェスト 2019/09/19

リーン・スタートアップのビジネスモデル研究(2)無駄のない起業プロセス、その手順とは



執筆:岸原直人(BBT大学院MBA本科修了、パナソニック株式会社 デジタルマーケティング推進室 課長、アプライアンス社事業開発センター ゲームチェンジャーカタパルト Versatile Player)
対象科目:リーン・スタートアップのビジネスモデル研究(谷中修吾 教授)

優れた製品・サービス? 優れたビジネスモデル?

リーン・スタートアップとは、構築する(Build)・計測する(Measure)・学習する(Learn) のプロセスで、無駄を徹底的に取り除きながら、顧客のフィードバックを得て、データを基に仮説検証し、最小の時間とコストで成果を出すことが「無駄のない起業プロセス」であることを説明しました。

今回、この3つのプロセスを掘り下げて説明する前に、1つ質問です。

「ビジネスで成功するには、優れたアイデアに基づいて、優れた(    )を開発しなければならない。」

あなたならこの( )内に何と書きますか? 多くのスタートアップが(製品・サービス)と書きますが、正しくは(ビジネスモデル)が答えです。ビジネスモデルとは企業から提供される製品・サービスと引き換えに顧客が代金を支払う一連の構造です。

多くのスタートアップは、優れた製品・サービスを作れば、必ず顧客が見つかるはず!と思い、いざ、製品・サービスをローンチしても、顧客が誰もいないという現実に直面します。ではどうすればよいのか?「製品・サービスと顧客を同時につくり、ビジネスモデルを開発する」ということが肝要です。

製品について人々が価値を認めてくれるかどうかが検証されていない段階で、完璧な製品を作り上げてコストをかけるのはムダです。
ビジネスアイデアを着想したら、その潜在顧客となるアーリーアダプターを特定し、彼らへのヒヤリングを通じて製品・サービスのイメージを固め、実用最小限の製品・サービス案に仕立て、その案について潜在顧客のフィードバックを獲得する、というプロセスが大事です。これはまさに、リーン・スタートアップのプロセスであり、ビジネスモデル開発に直結します。このことをしっかり押さえておきましょう。

構築する(Build)

リーン・スタートアップの最初のプロセスは、ビジネスアイデアをカタチにする「構築」です。ビジネスアイデアに着想したら、実用最小限、最低限の製品、すなわちMinimum Viable Product (MVP) を作成し、アーリーアダプターに使ってもらい、フィードバックを受けます。MVPを最少労力で、最短時間で、最大の価値のみに集中し作成することが、投資のムダを省くことになるのです。

例えば、TwitterのMVPはスケッチボードでした。DropboxのMVPは動画でした。
Webを使う事例も多くあります。製品・サービスの最大の価値が伝わる最小のかたちで作成することで、ムダなく効率的に仮説を検証することができるのです。

計測する(Measure)

アイデアを構築し、アーリーアダプターに使ってもらいフィードバックを受けたら、それを計測していくことが必要です。しかし、スタートアップは不確実性が高すぎ、精度の良い予測や目標が立てられず、一般的な管理会計では評価できないという問題があります。たとえば、ユーザー数が伸びているからといって、必ずしも成功の道を辿っているわけではないのです。

スタートアップにおける計測は、「行動につながる数字を見る」、すなわち絶対数ではなく、顧客の登録率、アクティベーション率、定着率…といった「行動率」といったものを重要視する革新会計ともいうべきアプローチが求められます。

これを大前提に、

・Actionable=行動しやすさ:例えば、WEBのPVが新記録を更新し、さらにPVを増やすための施策を考える場合、「どのマーケティング施策が効いたのだろうか?」「増えたのは新規顧客なのか、既存顧客なのか?」等が把握できるよう、原因と結果の関係が明確であること。

・Accessible=わかりやすさ:計測レポートの測定基準が煩雑なものではなく、開発者で共有可能なものであり、全員が理解できるように、わかりやすいものであること。

・Auditable=チェックしやすさ:データが信頼できるものであり、第三者検証が可能なものであって、測定結果を踏まえた意思決定の根拠として説明可能であること。

が求められます。この3つの視点をふまえてMVPを計測します。

学習する(Learn)

計測するデータを揃えることができたら、データに基づいて仮説を検証するプロセス、すなわち「学習」に入ります。

しかし、最初からビジネスモデルの仮説検証がうまくいくことは極めて稀です。素早く修正を繰り返して、仮説の検証を重ねていきます。そして、修正を繰り返す中で、根本仮説が検証できない場合、大きな決断を求められる局面にさしかかります。
それが方向転換という 意思決定、すなわち「ピボット」です。

ピボットには大きく10タイプの方向転換があります。

・ズームイン型 :製品機能の一つと考えていたものを全体製品とする
・ズームアウト型:全体製品ととらえていたものを、 もっと大きな製品の一機能としてとらえ直す

・顧客セグメント型:製品はそのままで、ターゲット顧客を変える
・顧客ニーズ型 :ターゲット顧客はそのままで、解決する問題を変える

・プラットフォーム型:アプリケーション⇔プラットフォームへの方向転換を行う
・事業構造型  : B to B ⇔ B to C の方向転換を行う

・価値捕捉型 : 企業が生み出す価値のとらえ方を変える
・成長エンジン型: 成長戦略の切り替え

・チャネル型 :製品を顧客に届ける販売・流通のチャネルを変える
・技術型 :同じソリューションを全く異なる技術で実現する

例えば、ビジネスモデル構築当初は、ビジネスパーソンを想定顧客としていたEnglish Cafeが、同サービスが主婦にニーズがあると判明した場合、ターゲット顧客を主婦へと方向転換する…この事例は「顧客セグメント型」のピボットです。

また、ビジネスモデル構築当初は野菜をカフェで食べるという顧客をターゲットにしていたベジタブルカフェが、健康な食事を自宅にデリバリーしてほしい というニーズが高いと判明し、健康な食事を自宅に届けるデリバリーサービス型のカフェへと方向転換する…この事例は「顧客ニーズ型」のピボットです。

このように計測データに基づいて必要に応じてピボットを行い、MVPを高速で修正、更新し、再度このプロセスを繰り返す…これがリーン・スタートアップのあるべきプロセスと言えます。

岸原直人

BBT大学院本科 修了生
パナソニック株式会社
デジタルマーケティング推進室 課長
アプライアンス社事業開発センター ゲームチェンジャーカタパルト VersatilePlayer

1971年埼玉県所沢市生まれ
早稲田大学卒業後、松下電器産業株式会社(現:パナソニック株式会社)に入社。国内外営業・マーケティング、海外広報を経て、2012年から2015年まで米国地域統括会社でブランドマーケティングに従事。帰国後は本社経営企画での勤務後、2017年より新設されたデジタルマーケティング推進室で、グループ全体のデジタルマーケティング化を推進中。また2018年からは、「社内複業制度」を活用し、家電部門の新規事業創出組織であるゲームチェンジャーカタパルトに参画。

大学時代始めたアメリカンフットボールに今も夢中。米国勤務時代は、全世界最大規模のスポーツイベントと言われるスーパーボウルを、『一生の一度のチャンス』と捉え、1席数十万円のチケットを購入して観戦。また、現在も40歳以上のメンバーで構成される『シニアアメリカンフットボール』のチームに所属し、プレーを継続。アメフト以外でも、トレイルランニングに熱中。毎年複数の大会に参加している。また「トレーニングで街創り」というビジョンを掲げる『Daddy Pak Training』に所属し、日本初の都市型障害物レースイベントを行う等、社会起業にも活動の幅を拡大。大前学長の「やりたいことは全部やれ!」という教えをまさに実践している。

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