マネジメントとビジネストレンドの知見を得るMBAメディア

タグから検索する

MBAダイジェスト 2019/10/03

リーン・スタートアップのビジネスモデル研究(4)実例から学ぶ「リーン・スタートアップ」


 
執筆:岸原直人(BBT大学院MBA本科修了、パナソニック株式会社 デジタルマーケティング推進室 課長、アプライアンス社事業開発センター ゲームチェンジャーカタパルト Versatile Player)
対象科目:リーン・スタートアップのビジネスモデル研究(谷中修吾 教授)

この連載も4回目を迎え、これまでの《理論編》から、実際のスタートアップ・ベンチャー企業が、リーン・スタートアップのプロセスを活用していかに顧客価値を創出し、実際に成長していったのかを、その経営者が語る《ケース編》に入ります。今回はWebビジネス、プロフェッショナルサービスの事例をご紹介しましょう。

《1》Webビジネス事例:株式会社Voyagine

多くのアセット・リソースが必要となる装置産業と異なり、WebビジネスはMVP(Minimum Viable Product)をアーリーアダプターに提示し、その顧客のフィードバックをWeb閲覧履歴、広告リーチ等でデータの数値を計測。そして、そのプロダクト・サービスを改善するPIVOTを行うことができるため、リーン・スタートアップに最適なビジネスの1つと言えます。

海外各国で現地ならではのユニークな体験の提供から創業し、旅行にまつわる各種サービスをOne Stopで提供するスタートアップとなった、「株式会社Voyagin」はその成功事例といえるでしょう

▼「株式会社Voyagin」サービスサイト
https://www.govoyagin.com/ja

株式会社Voyagin代表の高橋氏は、自分が好きだった、「インド現地のマッサージの先生に施術を受け、その先生に紹介してもらったヨガの先生のクラスを受ける」というような海外現地ならではのユニークな体験に特化したWebサービスを立ち上げました。しかし、このプロダクトだけでは会社を継続することができない、というところまで追い込まれたのです。

その時、高橋氏はWebビジネスを通じて取得しているデータを基に分析を重ね、戦略的方向転換=PIVOTを行います。データを計測することで、現地のユニークな旅行体験自体は魅力的なものではあるものの、それだけでは不十分であり、チケット手配、ホテル手配など、旅行のベーシックニーズにおいて、顧客ニーズを満たす必要があることを明らかにしました。

ここで高橋氏は、海外旅行客というターゲット顧客はそのままに、解決する問題を変える「顧客ニーズ型」のPIVOTを行います。旅行に関するベーシックニーズから、現地ならではユニークな体験まで揃えたOne StopのWebサービスへと、自社が提供するプロダクトを昇華させたのです。このPIVOTは、ユニークな体験を全体商品と捉えていたものから、顧客の海外旅行行程全体という、より大きな商品の一機能として捉え直した「ズームアウト型」とも言えるものでした。

こうした戦略的方向転換が功を奏し、Voyaginはアジアを中心に現在50カ国以上にそのサービスを提供するまでに成長しました。そして2015年には、自社株式の過半数以上を楽天に売却、同グループの一員になることで、グループのリソースを活用できるようになり、更なる拡大を狙うに至っています。

《2》プロフェッショナルサービス:株式会社コンコードエグゼクティブグループ

プロフェッショナルサービスとは、コンサルティングファーム、人材採用/派遣業、会計事務所、法律事務所、設計事務所などのいわゆる「士業」などを示しています。今回ご紹介するのは、国内大手シンクタンク等の経験を経た渡辺氏が、未来をつくるビジネスリーダーのキャリア支援を通じて豊かな社会を実現したいとの志から、2008年に設立した「株式会社コンコードエグゼクティブグループ」です。

▼「株式会社コンコードエグゼクティブグループ」ホームページ
https://www.concord-group.co.jp/

人材紹介と、新規事業創出支援を行う、コンコードエグゼクティブグループの成長過程は、この連載の第2回目で説明した「製品・サービスと顧客を同時につくり、ビジネスモデルを開発する」がピッタリと当てはまるケースです。

渡辺氏は、将来的に自ら起業することを目的とし、国内大手シンクタンクでのキャリアを生かしながら、ステップを踏んで取り組んでいきました。

「腕に覚えがないことで起業することは難しいが、腕に覚えがあり、そしてそこにファンがいる、という状態であればリスクを最小限にして起業することができます」。 そう語る渡辺さんは、コンサルティング会社での仕事を通じてファン=顧客を増やし、その経験を最大限に活かして起業できる人材紹介会社を立ち上げました。

同社のプロダクトは、「ビジネスリーダーのキャリア支援」ではあるものの、そのリーダーの支援をする自社の「人材」が、最も重要でした。人材を育成することは時間を要するため、起業当初は苦労したそうです。

しかし顧客のキャリア支援を重ねながら新たな発見をし、そこから学習したことを貯めて支援の質を高めていく過程を、粘り強く繰り返すことにより、キャリア支援サービスの質を高めつつ、同時に自社人材育成を加速するという相乗効果を発揮しました。これにより同社のレピュテーションが確立され、成長軌道にのりました。

自らのスキルを持って、顧客=ビジネスリーダーのキャリア支援を行う。その過程で顧客のフィードバックを受け、自らのスキルをさらに向上する。そしてまた顧客に新たなサービスを提供する…いわばキャリアリテラシー教育ともいうべきプロセスを確立しています。

ファンが増え、またさらにサービスを拡大していく同社成長の姿は、リーン・スタートアップのプロセスである、

構築する(Build)・計測する(Measure)・学習する(Learn)

という「無駄のない起業プロセス」の優れた実践ケースと言えます。

岸原直人

BBT大学院本科 修了生
パナソニック株式会社
デジタルマーケティング推進室 課長
アプライアンス社事業開発センター ゲームチェンジャーカタパルト VersatilePlayer

1971年埼玉県所沢市生まれ
早稲田大学卒業後、松下電器産業株式会社(現:パナソニック株式会社)に入社。国内外営業・マーケティング、海外広報を経て、2012年から2015年まで米国地域統括会社でブランドマーケティングに従事。帰国後は本社経営企画での勤務後、2017年より新設されたデジタルマーケティング推進室で、グループ全体のデジタルマーケティング化を推進中。また2018年からは、「社内複業制度」を活用し、家電部門の新規事業創出組織であるゲームチェンジャーカタパルトに参画。

大学時代始めたアメリカンフットボールに今も夢中。米国勤務時代は、全世界最大規模のスポーツイベントと言われるスーパーボウルを、『一生の一度のチャンス』と捉え、1席数十万円のチケットを購入して観戦。また、現在も40歳以上のメンバーで構成される『シニアアメリカンフットボール』のチームに所属し、プレーを継続。アメフト以外でも、トレイルランニングに熱中。毎年複数の大会に参加している。また「トレーニングで街創り」というビジョンを掲げる『Daddy Pak Training』に所属し、日本初の都市型障害物レースイベントを行う等、社会起業にも活動の幅を拡大。大前学長の「やりたいことは全部やれ!」という教えをまさに実践している。

※BBT大学院MBAプログラムの受講体験談はこちら