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大前研一メソッド 2019/10/21

GPIFは年金資産運用の運用益を求めてリスクをとるが、年金給付水準は低い



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学名誉教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

厚生労働省が、現在は60~70歳の間で選べる公的年金の受給開始年齢を75歳にまで期間を広げる案を2019年10月18日の社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の部会で示しました。受け取り開始年齢を遅らせると金額が増えます。政府は「高齢者の就業を拡大する政策の一環」と位置付けており、「元気な人には長く働いて年金制度の支え手になってもらいたい」という考えです。それほどまでに、年金の財源が厳しくなってきているのでしょうか。BBT大学院・大前研一学長に聞きました。

GPIFは運用益を求めて、資産運用のポートフォリオを年々変更し、ハイリスク化

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が公的年金運用の年次計画を変更し、為替相場の変動による損失を回避する措置を講じた「為替ヘッジ付外国債券」を国内債券と同じように扱う。これにより、外債の投資枠を増やす考えである。

もともと日本は欧州と同様、ゼロ金利、またはマイナス金利政策で、日本の国債への投資はしにくくなっていた。ということで、年金で運用益を出さなくてはいけないと考えていても、先立つモノがない。そこで、外国債券を組み込んでいこうということになったわけだ。ある程度、仕方ない面もあるだろう。

GPIFは「長期的な観点から安全かつ効率的な運用」を行うため、各資産を組み合わせた資産構成割合を「基本ポートフォリオ」として定めている。2014年までの公的年金のポートフォリオは、国内債券60%、国内株式12%、外国債券11%、外国株式12%、短期資産5%…と、国内債券がほとんどだった。

しかし、同年10月に運用の見直しを行って、現在は国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%…と、国内株式、外国株式とも大幅に引き上げた。さらに、外国債券の割合を増やすと、市場と為替のリスクがどんどん高くなる。

【資料】公的年金のポートフォリオ
出所:年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)

国内債券もリスクがないわけではない。日本の借金は約1100兆円。日本の金利が上がったら、国内債券の価格が下がり、日銀以下、GPIFも真っ青になる。とりあえずは国内債券の構成比率を下げる形で逃げるしかないが、そのたびにリスクが高まってきていることを忘れていけない。

日本の公的年金の給付水準は他の先進国と比べて低い

年金でもうひとつ。厚生労働省は企業や個人の判断で入る私的年金の「確定拠出年金」について、「原則59歳まで」としていた加入年齢の上限を引き上げる方針を示した。確定拠出年金は掛け金の運用結果に応じて受け取ることができ、うまく運用できれば掛け金以上の額を受け取ることができる。

2種類ある確定拠出年金のうち、掛け金を個人が払う「iDeCo(イデコ)」は65歳まで、会社側が出す企業型は70歳までとする。こちらは、働く高齢者が加入しやすくなり、老後の資産形成を後押しするのが狙い。確定拠出年金の企業型の加入者は700万人に対し、個人型は120万人。

「公的年金だけでは老後の生活が不安だ」という人は多い。公的年金の給付水準が現役時代の収入額の何%になるかを示す「所得代替率」は、オランダ、デンマークなど80%以上で、イタリアも高いが、カナダ、米国、ドイツ、日本は40%を切っている。任意の年金で補って、何とか50%超というのが日本の状況だ。

【資料】先進諸国の年金給付水準(所得代替率)の比較
出所:『諸外国の年金制度の動向について』第3回社会保障審議会年金部会 2018年7月30日 厚生労働省

ということで、いまのところ、年金は必ずしも十分ではないので働き続けるしかない。「いつ引退するの?」と問われたら、「死ぬまで働き続ける」と言うしかない。結局、いずれは「死ぬまで年金はもらえないから、掛け続けてください」という状況になるのだろうか。政府が「貯蓄は2000万円用意しろ」とか、「人生100年」(年金支給開始年齢を遅らせたい)と突如言い出した訳がようやく分かってきた。

※この記事は、『夕刊フジ 大前研一ニュース時評』2019年10月13日を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。