BBTインサイト 2019年10月24日

競争しない競争戦略<第3回>Win – Winの関係を作り発展を目指す協調戦略



講師:山田 英夫(早稲田大学ビジネススクール 教授)

協調戦略は、談合などの非合法なものではなく、無駄な競争を避けてWin – Winの関係を作り、発展を目指す戦略です。航空業界のアライアンスや大型建設工事のジョイントベンチャーが代表例ですが、その他にも、相手の機能を代替する機能代替型や、持っていない機能を提供する機能追加型の協調戦略があります。これらの協調戦略について、実例を交えて詳しく紹介します。

1.無駄な競争を避けてWin – Winの関係で発展を目指す協調戦略

協調戦略は、無駄な競争を避けて、Win – Winの関係を作り出す戦略です。無駄な競争を避けるといっても、談合するということではありません。
協調には色々な言葉があります。まず、コーペティションです。耳慣れない言葉ですが、コンペティション(競争する)という言葉と、コーペレーション(協働する)という言葉を合体させた造語です。他にも、ネットワーキング、ジョイントベンチャー、アライアンス、コンソーシアム、パートナーシップ、コラボレーションなどがあります。

協調の具体例をあげると、デファクトスタンダード(事実上の標準)を巡る協調があります。エレクトロニクス業界や通信業界では、その規格に乗ってくれる企業が多い方が勝者になりました。
例えば、ブルーレイやDVDなどは、デファクト・スタンダードを巡って競争が起きました。デファクト・スタンダードを取るためには、単独1社の努力だけでは難しく、他社と手を組み、協調しながら競争する事が必要になります。

また、リスクを回避するために協調するという事もあります。例えば、映画の製作委員会は、複数の会社が出資して、映画がヒットすればみんなでシェアします。失敗しても、各社で少しずつ負担します。

また、最近の傾向として、グローバル化のための協調があります。例えば、航空会社はどこかのアライアンスに入っていないと、日本から世界の様々な国に行く場合、不便な事が多くなります。

このように協調は、色々な場面で見られますが、従来の競争戦略とはどこが違うのでしょうか。その違いを理解するために、ブランデンバーガーの「価値相関図(Value Net)」をご紹介します。

この図の中に「補完的生産者」というのがあります。単にライバルと戦って顧客を奪えば良いということではなく、「補完的生産者」と手を組み、一緒に事業を行うことによって価値が上がっていくのです。

ブランデンバーガーは、赤ワインとクリーニング業者は補完関係にあるという、面白い例えを述べています。また、パスタとクリーニング業者も補完関係にあると言えます。パスタで服が汚れれば、クリーニング業者が儲かるというたとえ話ですが、第三の会社がいることによって、かえって価値が上がるという見解がブランデンバーガーによって示されました。では、Win – Winの関係を作りながら企業が発展してきた具体例には、どのようなものがあるのでしょうか。

2.セブン銀行が黒字になる理由とは?

協調戦略の具体的な中身に入っていきましょう。

最近は、相手の会社のバリューチェーンの中に飛び込むタイプの協調戦略が増えています。バリューチェーンとは、企業が価値を生み出すために行っている一連の事業活動のことです。

従来は、バリューチェーンは一つの会社で全て持って一人前という考え方でした。しかし最近は、バリューチェーンの一部分だけを別の会社が担ったり、相手企業のバリューチェーンが中に入り込んでバリューチェーンを形成するといった例も出てきています。

相手の会社に入り込んで、機能の部分を代替している例をご紹介します。相手の会社からすると、入ってきた会社を潰して排除するよりは、利用した方が得になるという協調戦略です。みなさんもよくご存知のセブン銀行を例に挙げてみてみましょう。

セブン銀行は、銀行として認可を取っていますが、ほとんどATM事業しかやっていません。そして、他社のカードを使ってセブン銀行のATMからお金を引き出した時の手数料売上が、売上の9割以上を占めています。

ATMを維持するには、結構なコストがかかります。銀行からすると、コスト削減のために撤退したいと思っても、撤退するとサービス水準が下がってしまうジレンマがあります。

このような普通の銀行に対して、コンビニの中のATMを使って今までと同じサービスを提供しているのがセブン銀行のATM事業です。相手の銀行のATMだけを代替して、他行とWin – Winの関係を構築している事がポイントとなります。

またコンビニATMは、入金する人より出金する人の方が多く、その分を誰かが入金しないと、紙幣がなくなってしまいます。紙幣がなくならないように補充する必要がありますが、その補充をしているのが、夜に営業しているチェーンの飲食店等やタクシー会社です。

飲食店等は、夜の営業が終わった深夜12時~1時ぐらいに、その日の売上をセブン銀行のATMに入金します。セブン銀行は、売上入金代行サービスを提供しており、ある特殊なカードを使って入金すると、入金した瞬間に本部アカウントに入金されます。言い換えると、銀行の夜間金庫がなくなってしまった後の金庫代わりに、セブン銀行のATMを使っているとも言えます。

また、午前4時ぐらいになると、タクシーの運転手が、その日の売上の入金のためにセブン銀行のATMを利用します。

実はセブン銀行は、見えている部分は単なるATMの会社ですが、なぜ黒字になっているかとういうと、このように紙幣調達コストがすごく安いからです。ここも重要なポイントとなります。

3.地域電器店の活路を見出す三方一両得のビジネスモデル

次に、相手の会社のバリューチェーンに入り込むもう一つの方法を見ていきます。相手が従来持っていなかった機能をそこに加えて、その中で新しいバリューチェーンを作っていくやり方です。相手企業からすると、その機能を加える方が便利で、かつ有利になります。具体例として、コスモスベリーズという会社を取り上げます。

日本には、地域の電器店が多くありますが、最近足を運ぶ機会が減ってきました。一方、家電を購入する場合、安い価格や品揃え、ポイントが付くといった理由で、家電量販店で購入する事が増えています。地域の電器店が苦しい理由として、2つの理由が考えられます。

一つは、多くの電器店がパナソニックや東芝、日立等、系列の加盟店となるので、品揃えがそのメーカーに限られてしまって乏しい事です。二つ目は、小規模で大量には販売できないので、家電量販店と比べると価格が安くないことです。

若い世代の人は、値引きができる家電量販店や、Amazonのようにインターネットを通じて安く買う傾向が強くなっています。そんな中で出てきたのが、コスモスベリーズという会社です。

コスモスベリーズは、地域の電器店に全メーカーの商品が載ったカタログを置きます。そして、カタログに記載している価格は、ヤマダ電機とほとんど変わらない価格になっています。
安くて品揃えが良いという意味で、従来の地域の電器店の2つの欠点をカバーする形になっています。

例えば夏場、冷蔵庫が壊れてすぐに買い換えたいお客様が電器店に行って、カタログを見て商品を注文します。すると、電器店のご主人が最寄りのヤマダ電機に行って、ヤマダ電機にある在庫をトラックに積んで、注文主のご家庭に届ける仕組みになっています。

電器店は、ヤマダ電機のお店が倉庫代わりになります。また、冷蔵庫が壊れて買い換えたいお客様も、その日のうちに冷蔵庫が来て、価格もヤマダ電機とあまり変わらないので、非常に助かります。

年配の方の中には、ヤマダ電機に行って値引き交渉できない人や、インターネットを使えない人もいるので、年配の人が多い地域の電器店は非常に重要な位置を占めています。そういった店で品揃えが多く、安く買えるのです。

一方、ヤマダ電機からすると敵に塩を送っていると感じられるかもしれませんが、実はそうではありません。そもそも地域の電器店に行く年配の方は、元々ヤマダ電機には行きません。ヤマダ電機にとって、今まで取れなかった客層を、コスモスベリーズ経由で獲得している形になります。

コスモスベリーズは、加盟料と年会費で、地域の電器店とヤマダ電機の間をつなぐ役割を担っています。

ヤマダ電機は、これまでにない客層にアプローチできる事で、売上を伸ばすことができます。売上が伸びると、ヤマダ電機のメーカーに対する交渉力も強くなります。コスモベリーズが存在していることで、ヤマダ電機も得をして、地域の電器店も得して、コスモベリーズも得をしている、という三方一両得の構造を作っています。

今回は、協調戦略ということでお話ししてきました。肝となるのは、バリューチェーンをいかに解体していくかというところです。今は規制緩和やIT化の進展で、バリューチェーンの隙間が空くようなことが出てきました。これはまさにビジネスチャンスと言えます。そこに自分たちのコアコンピタンスで入り込んでいくという戦略が有効になってきました。

※この記事は、ビジネス・ブレークスルーのコンテンツライブラリ「AirSearch」において、2017年7月7日に配信された『競争しない競争戦略 03』を編集したものです。


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講師:山田 英夫(やまだ ひでお)
早稲田大学ビジネススクール 教授
1981年慶応義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)。三菱総合研究所にて、主に大企業の事業領域策定、新事業開発のコンサルティングに従事。1989年早大に転じる。専門は競争戦略。学術博士(早大)。デファクト・スタンダードに関する研究では、パイオニア的存在。

  • <著書>
  • 『本業転換‐‐既存事業に縛られた会社に未来はあるか』(KADOKAWA、共著)
  • 『成功企業に潜むビジネスモデルのルール ―見えないところに競争力の秘密がある』(ダイヤモンド社)
  • 『競争しない競争戦略 ―消耗戦から脱する3つの選択』(日本経済新聞出版社)他