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BBTインサイト 2019/10/24

【特別講演】人生100年時代のリカレント教育 なぜ日本人にこそリカレント教育が必要なのか?



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学名誉教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

日本の産業界でも業態や業種の垣根を越えてビジネスの大変革が起こっており、市場は先の見えない混乱の様相を呈していると言えるでしょう。このような解が見えない現代において、生涯にわたって教育と就労を繰り返す「リカレント教育」に注⽬が集まっています。しかし、日本では本当の意味でのリカレント教育が進んでいません。
果たして日本人に今求められているリカレント教育とは何か。

ここでは、2019年7月6日に行われた、『リカレントスタートプログラム』開講記念イベントでの、BBT大学院大前研一学長の、特別講演をお送りいたします。

1.21世紀は答えがない時代。学校に行き始めた時からリカレント教育は始まる

そもそも、リカレント教育とは何だろうか。

この言葉自体は古く、1968年頃からスウェーデンなどで使われている。「リカレント」は繰り返しを意味する言葉なので、最初から繰り返し勉強しなければいけないということだ。つまり、年を取って年金が出ないので稼ぐために勉強するのではなく、学校に行き始めた時からリカレント教育なのだ。

今リカレント教育が注目されている理由はふたつある。

ひとつは、世の中が大きく変わったこと。
明治以来欧米に追いつけ追い越せでやってきた日本の教育制度は、答えがどこかにあることを前提にしている。これは非常に不幸なことだ。欧米、特に北欧のデンマークなどは、21世紀は答えのない時代だということを早くから言い始めており、90年代半ばに学校教育を21世紀型に再定義している。何をしたかというと、教室で「先生」という言葉を使うことを禁じたのだ。

英語で「先生」は「ティーチャー」だが、「ティーチ」の前提は答えがあるということ。答えがあるという前提ならばティーチは成り立つが、答えがない21世紀にそもそもティーチャーという言葉がいいのかという議論になり、ティーチという言葉が学校現場から葬り去られたというわけだ。

1クラス26人いたら26通りの答えがあっていい。その中で答えに近いのは何なのか、誰の意見なのかをディスカッションで探していくのだ。その中で、いわゆるリーダーシップというものが出てくる。先生は何をしているかというと、答えを誘導せずファシリテイトするのみ。だからティーチャーの代わりにファシリテーターという言葉になったのだ。

BBTが運営しているアオバジャパン・インターナショナルスクールは、国際バカロレア認定校だ。
国際バカロレア認定校では、教科書を使う先生は必要ない。自分の考えを伝えるのが先生であり、人の考え、すなわち学習指導要領を読むだけの人はアウトだ。なぜかというとインターネットの時代は、答えがわかっていれば学校なんか行かなくてもいい。学校に行くのは、ディスカッションをしてみんなで答えを見つけるからである。つまり学校時代からリカレント、会社に入ってリカレントなのだ。しかし問題は、会社に入って社員教育をやるのが先輩だということ。

これが2番目の不幸なところである。
今までの仕事のやり方を教えていたら、会社は変われない。そういう点では、社内教育にも大きな問題があると言える。これからは誰もが自分で学び直し、スキルの磨き直しをやらなければいけないだろう。

2.大前研一流勉強法とは?リカレントはすべての人が今日から始めるべきもの

いずれにしても人生はあらゆる点において学び直しだ。

学び直しを10年、20年続けていくと、世の中が怖くなくなる。なぜかというと、自分で答えを見つける方法がわかるようになるからだ。安倍政権も定年を70まで延ばして、年金支払いを延ばして、その分稼げる能力をということで、55歳からリカレント教育と言い始めたわけだが、これは政府がずるい。リカレントとは言っているが、カビが生えている。

リカレントは、すべての人が今日から始めるべきものだ。
世界を見てみると、日本が一番リカレント教育に対して投資が少ない。さらに、自分で学び直すことを考えている人が少ない。この背景は複雑で、だからといって大学に行ってみたところで、大学の先生は昔と同じ講義をやっているので大学に戻ってもしょうがないということがある。

もうひとつは、リカレント教育に通うことが非常に大変だということがある。
BBTは20年前からオールインターネットで、自分の選んだメニューで勉強できるようにしている。ネットでやる理由は、ふたつ。

ひとつは日本企業の国際化に伴って、国内にいない人が多い会社が増えており、集合教育が難しくなっていること。だから世界中どこにいても勉強できることが非常に重要になってきている。もうひとつは、ネットでやることによって時間を有効に使えること。BBTでは一週間単位でコースを提供しているので、自分の空いている時間を見つけて勉強できる。

ここで私自身がどうやって勉強しているかを話そう。まずは、世界中どこでも新しい経営をやっている会社を見に行く。ZARAが出てきた時にも「これはすごいぞ」ということでスペインのコロニアまで行って見学した。ジャストインタイムでアパレルをつくるやり方や、48時間以内に地球上のあらゆる支店に物を送るシステムに驚いたものだ。こういうふうに私は、面白いと思ったところに実際に行って勉強する。

もうひとつは、私自身が起業家養成学校であるアタッカーズ・ビジネススクールを20年やっており、卒業生がつくった800もの会社の中には、すでに上場している「弁護士.com」や「鎌倉新書」、「ケンコーコム」、「クラウドワークス」などがある。こういう人たちの話を聞いたり、人を紹介してあげたりしている。デジタル・ディスラプションを受ける側と、仕掛ける側とを食事に呼んでケンカをさせるのだ。悪趣味ではあるが(笑)。でも、とにかくこういう人たちから学ぶのだ。

つまり、大前研一って偉そうにしゃべっているけど、毎日勉強しているんだと。面白いことをやっている人には話を聞きに行かなきゃダメ。教科書では学べないから。会社に入った後もずっと勉強、そして死ぬまで勉強なのだ。

3.リカレント教育のカギは「答えを見つける力」と「構想力」

リカレント教育で重要なのは、まずはデンマークの教育みたいに「答えを見つける」こと。
それから私が大学で教えている構想力。構想力はコンピューターが苦手な分野だ。コンピューターはビッグデータをデータマイニングして、次の答えを見つけるのは得意だが、ゼロからイチを発想するのは苦手だ。これはまさに構想力だ。構想力は重要なコンセプトだが、日本の教育の中ではどこを探してもない。

私が非常に尊敬しているのが、ウォルト・ディズニー。
彼はカリフォルニア州アナハイムにディズニーランドを建設して成功した後、人口の多い東海岸に進出しようとする。結局フロリダ州オーランドに巨大な土地が確保できるという話になったが、そこはヘリコプターで見てもワニしかいない沼地。私は実際にビデオを見たが、ワニしかいない所に最初のコンセプトである未来都市の建設を夢見て「こういうものをつくる」と彼は熱く語っているのだ。聞いている人は冷めた目で見ているにも関わらず。その後彼は肺炎で亡くなるが、コンセプトはそのまま生きた。だからフロリダの湿地帯に今でも世界中から人が集まってくるのだ。

こういう人をたくさん見ていると、だんだん自分もそういう発想が出てくるものだ。構想力とは「見えないものを見る力」。これは芸術でもスポーツでも同じだが、答えを言わずに「君はここで何が見える?」と問うことによって構想力が育つと私は思う。

最後にまとめると、リカレント教育で一番重要なのは構想力や、ゼロからイチを発想するようなコンピューターに負けないスキルだ。これらはなるべく幼少の頃から学ぶチャンスを与えてもらいたい。会社に入っても先輩の言うことを聞いて仕事を学んだだけではダメ。欧米に追いつけ追い越せでここまできた日本は、他国と比べてもリカレント教育が極めて必要とされている国。

今、日本人には自分の頭で考え、コンピューターに置き換えられない人間になることが求められていることを押さえておいていただきたい。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。