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大前研一メソッド 2019/11/04

FCAがルノーではなくPSAと統合したのは日産・三菱にとって吉報?



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学名誉教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と、プジョーやシトロエンを傘下に持つ仏グループPSAは2019年10月31日、対等合併することで合意したと発表しました。両社の2018年の世界販売は約870万台。米ゼネラル・モーターズ(GM)の838万台を抜いて、独フォルクスワーゲン(VW)、日産三菱・仏ルノー連合、トヨタ自動車に次ぐ世界4位の自動車メーカーが誕生します。仮に、FCAがPSAではなくルノーと統合していれば世界1位の自動車メーカーが誕生していたところです。しかしながら「日産・三菱にとってはそうならなかったのは朗報」とBBT大学院・大前研一学長は言います。
なぜなのかを聞きました。

《参考》自動車メーカーの世界新車販売ランキング
※2018年の世界販売、各社の公表値
1位 フォルクスワーゲン(独)【1083万台】
2位 ルノー(仏)+日産自動車+三菱自動車【1075万台】
3位 トヨタ自動車【1059万台】
4位 FCA(484)+グループPSA(仏、387)=【871万台】
5位 ゼネラル・モーターズ(米)【838万台】
6位 現代自動車(韓国)【738万台】
7位 フォード・モーター(米)【598万台】
8位 ホンダ 523万台】
9位 ダイムラー(独)【340万台】

【資料】FCAとPSA、対等合併 自動車販売世界4位に(最終アクセス:2019年11月4日)
https://www.asahi.com/articles/ASMB05GF8MB0UHBI02N.html

FCAは、いったんはルノーに経営統合を提案するも、破談

2019年5月、FCAはルノーに経営統合を提案したが、6月に破談し白紙に戻った経緯がある。日産・三菱自動車にとって重要なことは、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)とルノーの合併がこれで完全になくなったことだ。ルノーとFCAの合併をボロレ氏、スナール氏、フランス政府のうちのだれが主導していたのか分からないが、この話が進んでいたら、日産・三菱自動車にとってはやっかいなことになっていたところだ。

FCAは2014年、イタリアのフィアットと米国のクライスラーが合併して誕生した自動車メーカー。FCAが2019年5月にルノーに提案したのは、両社の株主が統合会社の株式を50%ずつ持ち合う内容だった。ルノーは日産の43%の株式を所有している。逆に日産はルノーの15%を所有している。FCAの統合提案が実現していれば、日産のルノー・FCA株に対する持ち分は7.5%(=15%×50%)に低下し、日産の発言力が低下する可能性があった。

この統合が現実となっていたら、フランス、イタリア、米国の自動車メーカーの統合によって、日産も三菱自動車もニッチもサッチもいかなくなっていたところである。ルノーにマジョリティーの43%を握られている日産は、すぐに三菱自動車と一緒にこのグループから脱出しなければならないところだった。

フランス、イタリア、米国の自動車メーカーが統合した会社の経営陣に、日本側の人材が食い込むのは難しい

というのは統合会社の中で日産の世界戦略が受け入れられることはなくなり、統合会社の中で経営上層部の一員として活躍できる日本側の人材はいないだろう。すなわち、経営上層部のメンバーを輩出できない日産も三菱もグループの中での地位は、ほかのグループ会社よりも1段も2段も格下に成り下がるところだった。

中国の吉利はスウェーデンのボルボの経営をうまくやっているし、インドのタタもジャガーなどを経営している。しかし、ホンダはランドローバーをうまく経営できずに備忘価格で売却している。世界に冠たる日本の自動車メーカーといえども文化や企業風土の違う欧米の会社をうまく経営した事例はない。ルノー・FCAに参加して活躍できる人材が日産・三菱自動車グループから輩出されるとは歴史的に見て考えにくい。

FCAとルノーの統合を認める代わりに、ルノーから日産に対する出資比率を引き下げることを日産が主張していたともいわれるが、その“脱出カード”は消失した。欧州市場でルノーはPSAとライバル関係にある。PSAがFCAと組めば、欧州市場でのルノーの立場は弱くなる恐れがある。欧州市場で劣勢に立たされる可能性が高いルノーは、「日産や三菱自動車との関係をより深めたい」という思いに至るかもしれない。

※この記事は、『大前研一のニュース時評』2019年10月20日を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。