BBTインサイト 2019年11月14日

話し合いの成果を高めるファシリテーション <第1回>ファシリテーションは会議をどう変えるか?



講師:森 雅浩(Be-Nature School代表)
編集/構成:mbaSwitch編集部

Photo by Austin Distel on Unsplash

複数名で集まって話し合う会議はビジネスシーンでよく見られる光景です。しかし、多くの人の会議の印象は、「とにかく長い」、「無駄」、「疲れる」、「結局結論が出ない」等、あまり良くないものも多いのではないでしょうか。今回は、会議の成果があがる基本的な考え方をテーマにお伝えします。

そもそも、良い会議とはどのような会議なのでしょうか。効果的な良い会議をするために、まずは、社会の構造変化の背景や、どうして会議にファシリテーションが有効なのか、その理由から見ていきましょう。

1.悪い会議と良い会議

みなさんは「会議と言えば?」と聞かれたら、何と答えるでしょうか?
「とにかく長い」、「無駄」、「疲れる」、「結局結論が出ない」等、あまり良くない印象を答える人が多いかもしれません。

今回は会議で成果を上げるための基本的な考え方をお伝えします。みなさんは「会議を良くしたい」と思う人や、会議の運営や進行をする必要のある人の気持ちで読み進めて頂ければと思います。また、実際に自分の会社や組織を想像しながら、会社や組織で試せるような事があれば、すぐにでも試してみてください。試してみると、上手くいかない時もありますが、その原因は、色々な要素が絡み、一概に自分の力不足が原因とは言えません。そのため、何度もトライする事が大切です。

実は、会議という言葉が持つイメージには色々なバリエーションがあります。例えば、ミーティングや打ち合わせという言葉を明確に使い分けている人もいらっしゃいます。

今回は、会議を「複数の人で何らかの目的をもって行なわれる話し合い」と定義します。みなさんが持っている会議のイメージを一旦まっさらにして頂いて、今回は、この会議のイメージで読み進めてください。

また、良い会議とはどんな会議でしょうか? 色々な定義がありますが、今回は、良い会議を「創造的な成果が生まれる会議」と定義します。

創造的な成果を生むためには、会議の前に何をもって成果とするかを決めておく事が重要です。また、会議での決定事項が、きちんと遂行される事も重要です。会議終了後に、参加者が決定事項に文句を言いながら帰る、という会議は無駄以外の何物でもありません。会議を良くしたい人は、その会議の時間だけではなく、会議が終わった後にどう活かされるか、という事を意識して会議の運用を考えるようにして頂くと良いでしょう。

2.なぜ話し合いが必要でファシリテーションが有効なのか?

次に、どうして話し合い(会議)が必要なのか、という事を考えてみましょう。その背景には社会構造の変化や問題の複雑化があります。

会社など、たいていの組織はピラミッド型になっており、一番上が社長、次に副社長、専務、常務、部長、課長、という階層構造になっています。

一方、インターネットの発達により社会自体はピラミッド型ではなく、ウェブ型になってきています。
「ウェブ」とは「クモの巣」の意味で、社会はクモの巣のように全てが相互に関連し、双方向で影響しあう構造になってきています。例えば、昔の公害問題は、特定の企業が有害物質を排出し、それで被害を受ける人がいるというシンプルな構図でした。しかし、現在は、色々なものが相互に絡み合い、これが悪いというシンプルな答えが見つかりにくくなっています。

そのような背景があり、リーダーシップも大きく変化してきました。例えばピラミッド型社会では、「こうやりなさい」と指導をしてやり方を教えたり、ワンマンで組織を引っ張るリーダーが重要視されていました。一方、ウェブ型社会では、メンバーを支援し持ち味を引き出す、一人ひとりを大切にする、また、多様性を尊重するなど、ファシリテーター型リーダーが重要になってきています。

ここでの一番の問題は、「問題が複雑化したために単純な正解がない」という事です。だから正解を求めるのではなく、複雑な問題に対して最適解を探していく事が必要です。そのために、「どうしらたいいのだろう」と集い合って話し合う必要があります。話し合いも上下関係ではなく、サークルのように対等で平等な関係で、中心からみんなが等距離で話し合う事が重要です。そして、対等な関係でお互いの力を引き出す場面において、ファシリテーションはとても有効に機能します。

ただ、ファシリテーションはファシリテーター役の人だけのものではありません。組織に関わる一人ひとりが会議をよくしたいと思っているのであれば、ファシリテーションを理解しているだけで、ずいぶんと良くなります。ファシリテーションは特定の人のものではなく、誰もが知っている当たり前のベーシックスキルだと理解していただくと良いでしょう。

3.ファシリテーターは○○が△△する事に支援的な立場で関わる人

ファシリテート(Facilitate)には、「促進する」や「事を容易にする」という意味があります。会議メンバーが決定したり、発言する事を促進(容易に)するのが、ファシリテーションです。

ファシリテーションを行う人をファシリテーターと呼びます。これまで私が聞いた中で、ファシリテーターの例えとして秀逸だと思ったのが、「助産師」という例えです。子どもを産むのは親で、生まれるのは子どもです。助産師は特に何もしていません。しかし、一人で出産するより助産師がいる方が安心して出産できると思います。会議でも、ファシリテーターがいるから安心して話し合いができて、その結果、創造的な成果が生まれます。

また、会議において、議長という言葉ありますが、議長とファシリテーターは立場が異なります。議長は権力と責任を持ちますが、ファシリテーターには権限がありません。ファシリテーターは進行するのが仕事なので「決めるのは自分ではない」という気持ちで関わらないと、責任が重すぎて務まりません。ここはすごく重要なポイントになります。

また、ファシリテーターは必ずしも社外の人でないといけない、という事もありません。社内の人がやる場合は、立場としてファシリテーターを務める、ということを明確にして会議を始めるようにすれば良いでしょう。

4.ファシリテーションは相互作用が大事

ファシリテーションのある場の三大特徴として、「参加」、「体験」、「相互作用」があります。この中でも「参加」という言葉は少し難しいので、例を出して説明します。以下の場面を想像してみてください。

あなたは、所属している部門の会議に出席していますが、冒頭から部長がずっと喋っています。それを座って下を向いて黙って聞いている時、会議に参加していると言えるでしょうか。会議には出席しているので「参加している」かもしれませんが、ここで重要なのは、参加者同士で相互作用が起きているかどうかです。

例えば、この会議で、勇気を持ってあなたが部長に「部長、ちょっとそれは違うと思います。」と言うと相手に影響を与えます。また、それに対して部長が何か言えば、あなたにも影響を与えます。このようにお互いに影響を与え合う関係で起きている事を「相互作用」と言います。相互作用が起きていると「参加している」という気持ちが高まります。ファシリテーションの場は、「良い相互作用が起きるような事を考える場」だと理解してください。

ファシリテーターは、どうやったら良い相互作用が起きるのか?という事を考えながら、色々なスキルを使ってファシリテーションをしています。

ファシリテーションは相互作用が大事というポイントを、ぜひ覚えておいてください。

5.ファシリテーションは会議をどう変えるか?

ファシリテーションを活用すると、会議メンバーの当事者意識が非常に高まります。会議で下を向いて黙って聞いていたメンバーが、「これは他人事ではない、まさに自分事だ」という意識に変わります。これこそがファシリテーションを会議で使う重要なポイントです。当事者意識になると、責任を持って長期的に関わっていこうという気持ち、コミットメントが自然と出てくるようになります。

ファシリテーターの役割は結論を導くことではありません。ファシリテーターが結論を決めてしまうと、会議メンバーは誰も結論を遂行してくれません。そのため、ファシリテーターは会議のメンバーが決定しやすいように、どういう流れでどういう話し合いをすればよいのか、一生懸命考える必要があります。

6.創造的な話し合いの流れを理解しよう

創造的な話し合いには流れがあります。流れの中のそれぞれのステージで、やるべき事が明確になっています。今、どのステージにいるかをファシリテーターが会議メンバーに明確に伝え、理解してもらうように努めましょう。

まず、話の一番始めに大事なのは「共有」です。
情報・課題の共有や、お互いの考えを知るステージです。難しい専門用語等について、会議メンバーがそれぞれ同じような意味で理解しているかどうかや、今日は何のために集まったのか、どこまで話し合う必要があるか等の共有を行います。ここでの共有はすごく大事です。最初にしっかりとやっておくと良いでしょう。

次は、「拡散」です。アイデアを広げたり、様々な可能性を探るステージです。
「もっと良い物はないか?」と考える時、最初の段階で思いっきり自由にアイデアを広げておかないと、「創造的な成果」は生まれません。ただ、時間をかけてもまとまらなくなるので、あまり長い時間をかけずに、批判禁止でブレストしてみると良いでしょう。

「拡散」の後は「収束」です。出たアイデアを整理していくステージです。
出たアイデアの中から、実行できそうなアイデアを3つぐらいに絞り込んでいきます。

そして、最後は、「共有」です。
方向性や結果など、決まったことを文章にまとめて確認します。

「収束」の方向性が決まりそうな段階になって、「ちょっと、それはおかしいのではないか?」と、流れに逆行する事を言い出す人がいますが、その発言には、明確な理由があります。自分の意見を十分に言えていないからです。自分の思っていることを一旦吐き出さないと、多くの人は納得しません。

また、「拡散」から「収束」までの間は、「混沌の時間」と呼ばれています。議論して考え抜くための時間ですが、意見が対立し、結論の方向性を見失ったり、混乱する事が少なくありません。しかし、この混乱は、創造的な成果を生むために必要なものです。創造的な成果を生むために「混沌の時間」がある、という事を理解しておいてください。

ここまで、会議の成果があがる基本的な考え方をお伝えしてきました。何か試せそうな物があれば、是非、トライしてみてください。

※この記事は、ビジネス・ブレークスルーのコンテンツライブラリ「AirSearch」において、2019年05月17日に配信された『話し合いの成果を高めるファシリテーション 01』を編集したものです。


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講師:森 雅浩(Be-Nature School代表)
1960年東京郊外生まれ。早稲田大学社会科学部卒。
少年時代は湧き水を眺めるのと、自転車で土手を走り降りるのが好きだった。10年間の会社員生活を経て海洋環境系団体に身を投じ、国際会議のプロデュースを行う。その縁がきっかけでBe-Nature School立ち上げに関わり、1998年社名変更と同時に代表取締役に就任。アウトドアイベントの企画・プロデュース、ワークショップの企画・ファシリテーション、研修講師など多数実施。趣味はギターの弾き語りとキャンプで料理すること。
NPO法人自然体験活動推進協議会(CONE)理事。NPO法人NATURAL LING TRUST理事。

  • <著書>
  • 『ファシリテーション 実践から学ぶスキルとこころ 』(岩波書店、共著)
  • 『田んぼのきもち (絵本の時間) 』(ポプラ社)