BBTインサイト 2019年11月21日

話し合いの成果を高めるファシリテーション <第2回>効果的に会議の成果をあげる4つのファシリテーションスキル



講師:森 雅浩(Be-Nature School代表)
編集/構成:mbaSwitch編集部

Photo by Sebastian Herrmann on Unsplash

複数名で集まって話し合う会議はビジネスシーンでよく見られる光景です。みなさんも会議に参加したり、進行を任されたりした経験があるのではないでしょうか。みなさんには馴染み深い会議ですが、会議の成果を実感できている人は、それほど多くないのではないでしょうか。

どうすれば、効果的に会議の成果をあげることができるのか、そのカギは、ファシリテーションにあります。今回は会議ですぐに使える4つのファシリテーションスキルを紹介します。どうやっていくのか、具体的に見ていきましょう。

1.すぐに使えるファシリテーションの4つのスキル

会議の場において、ファシリテーションはとても有効に機能します。どうやればファシリテーションが機能するのか、何か試してすぐに成果が出た方が良いと思いますので、今回は、会議ですぐに使える4つのスキルを紹介します。

具体的な中身に入っていく前に、改めて、今回のゴールを確認したいと思います。

お読みいただいたみなさんが、ファシリテーションの考え方と基本スキルを理解して、「よしやってみよう!」と一歩踏み出す、というところを求める成果としています。お読みいただいたみなさんが、ぜひ、その気になっていただけると嬉しいです。また、みなさんは、会議を良くしたいと思う人や、会議の運営や進行する必要がある人の気持ちで、自分の組織や会社の現場を想像しながら、読み進めていただければと思います。

今回、紹介するのは、次の4つのスキルです。

1.空間のデザインを使って、参加者の関係と意識に働きかける「空間デザインの工夫」
2.グループサイズを活用して、話しやすさと話し合いの質を変える「グルーサイズの展開」
3.発言を見える化し、集中を高めて話し合いの精度を上げていく「板書の活用」
4.話し合いのゴールを明確にする「オリエンテーションのOARR」

それでは、ひとつずつ具体的に見ていきましょう。

2.会議室を上手に使うと参加者の意識が変わる

「空間デザインの工夫」を極めてシンプルに言うと「会議室をどう使うか」という事になります。意外と空間のデザインが人に与える影響が大きく、上手に使うと参加者の意識が変わってきます。ファシリテーターが言葉を発する前から、実は、ファシリテーションは始まっています。

まずは、環境の影響はとても大きいという事を意識してください。そして、一度決めたらそのままという事ではなく、狙いに応じて机と椅子のレイアウトはどんどん変えていってください。必要に応じて空間デザインを変えていくだけでも会議の質が変わる可能性があります。また、座る距離・座る位置や、立つ位置を変えるだけでも効果があります。

ここで、基本的な机と椅子の並べ方を見てみましょう。

①スクール型

名前の通り学校で2~3人ずつ座るような形です。あまり会議では使いませんが、講演会はこのような形が多いです。

これまで慣れ親しんだ形なので、「落ち着く」、「すんなり入れる」と感じる方が多いです。ただ、一方通行になりますので、活発な議論が起こることはほとんどありません。

②ロの字型

会議では最も一般的な形です。

ロの字型は、一見フラットに見えて、奥の方に上司、出口付近に新人、と座る場所が決まっていて、ヒエラルキーが無意識に感じられる席順になる事が多い形です。その場合、ちょっと座る場所を変えてみるだけでも随分と雰囲気が変わります。

③多角形型

「ロの字型」を少しずらした珍しい形ですが、開放感が生まれ均等になるという効果があります。


④アイランド型、アイランドななめ型

グループワークを中心とするような研修やワークショップスタイルの会議で、島ごとに4~6人ずつ座る形です。

ただし、少し窮屈な印象を受けるので、「アイランド型」の両脇をちょっと斜めにした「アイランドななめ型」の形がお勧めです。


⑤シアター型、扇形

映画館等のように一列に椅子が並んでいるような形です。机がない分、人と人との関係性がすごく親密になります。


また、少し角度を付けた「扇形」という形があります。


⑥サークル型

みんなで円を描くような形です。フラットに感じやすいので、正解がない時代にどういうものを求めていったら良いのか、という事を対等な場で話し合う際によく使われます。


3.会議の中で意識的に話し合う人数を変えて議論を活性化させる

次は、「グループサイズの展開」です。

多くの人は、大人数の前で話すのは話しにくく感じますが、少人数だと、それほど抵抗感を感じずに話せます。これを利用して、会議の中で意識的に話し合う人数を変えていくのが「グループサイズの展開」です。

例えば、「良い会議ってどんな会議でしょうか?」と、意見を出し合いたい場合、いきなり全員に聞いても意見が出にくいと思います。その場合は、次のようにグループサイズを変えて進行していくと、意見が出やすくなります。

①2分ぐらい時間をとり、まずは、一人で「良い会議とはどんな会議か?」の考えをまとめる
②小グループ(2~3人)で、意見交換を行う
③小グループそれぞれの意見を出し合って板書し共有し、話し合う

このように、最初に「ひとりで考える」という事をした後に、2~3人で話し、全員で話すようにすると、随分と意見が出やすく議論が活発になります。

また、二人で話した意見を発表する場合、自分一人の意見だと言いにくくても、二人の意見だと言いやすいという側面もあります。話し合いが停滞したり、活性化しない時は、グループサイズを小さくしてみると良いでしょう。コミュニケーションの基本は一対一なので、二人一組は私も多用しています。

グループサイズを変える事は、簡単な割に非常に成果が高いので、みなさんも、ぜひ試してみてください。

4.板書を活用して全員の意識を集中させる

次は「板書の活用」です。話し合いの中で出てきた意見をホワイトボードにまとめる、という事をされた方が、みなさんの中にいらっしゃるかもしれません。ここでの板書の活用は、「まとめる」事とは意味合いや狙いが異なります。

板書の目的は「共有」です。「できるだけ発言をそのまま書く」という事を心掛けます。要約してしまうと、発言した人は自分の意見ではないと受けとめてしまい、だんだんと発言しなくなってしまいます。また、発言が活発になると書くのが追いつかなくなるので、ファシリテーターとは別に板書係を決めて、一旦ファシリテーターが発言を受けとめ、復唱している間に板書係が書くという役割分担をすると良いでしょう。

また、発言した人の名前は書かないようにします。この点が板書と記録である議事録との一番の違いです。議事録は、後で誰が何を発言したかを確認するためのものですが、板書は、一つひとつの意見を均等に扱うためのものです。ただし、板書は、会議の一番最初から最後までは書けないので、例えば、小グループで話した事を共有する時など、有効なポイントを見極めてやると良いでしょう。

また、ホワイトボードにたくさんの文字が並ぶと見にくくなるので、発言毎に色分けをする工夫も有効です。発言色はグリーンや茶色などの中間色にすると、目に優しく見やすくなります。

板書を行うと、会議の進行スピードが遅くなるというデメリットがありますが、デメリットより大きいメリットがあります。板書は、一つひとつの発言をしっかり受けとめていくので、発言した人はちゃんと話そうという意識になり、みんなの視線が板書に向いて意識が集中するというメリットがあります。

5.オリエンテーションのOARRでアウトカムを達成する

最後は、「オリエンテーションのOARR(オール)」です。会議が始まり、みんなで話し始めると、いつの間にか話がずれて何のための話か分からなくなる、という事が結構あります。これは、最初のオリエンテーションが上手くいっていないからです。この会議はどういう会議で、どういう成果を出すのかという事を最初に共有する必要があります。それが、「オリエンテーションのOARR」です。

元々、オリエンテーションには「方向付ける」という意味があります。良い会議に方向付けるために提示する内容の英単語の頭文字を繋げた物がOARRです。

Outcome:求める成果、ゴールイメージ
Agenda:進行次第、大まかなスケジュール
Role:そこにいるすべての人の役割
Rule:共有すべきルール・決めごと、参加の心得

上記の事を、会議の一番最初に端的に分かりやすい言葉で参加者に伝えて、ある程度、参加者が受け入れて納得した上で会議に参加してもらう事が重要です。

この中で、Outcome(アウトカム)は、あまり馴染みがない言葉だと思いますので、もう少し具体的に説明します。次の図を見てください。

図の左下は、今現在の位置です。そして、右上には目標があり、そこに行きたいとします。目標に到達するためのベクトルを分解すると、「何かをする」事と「成果を得る」事に分解できます。「何かをする」事を行為目標と呼び、それは、実際にやることになります。一方、「成果を得る」事を「成果目標」と呼び、これがアウトカムになります。

例えば、中学生のクラス担任の先生がクラスで富士山に登る計画をしているとします。登るのは富士山ですが、そのアウトカム、つまり、「求める成果は何にするのか」はいくつか考えられます。

《富士山に登るアウトカム》
・準備する大切さを学ぶ
・仲間と協力する大切さを学ぶ
・やればできるという達成感を得る

いくつかのアウトカムが考えられますが、実際に登ってみて、天候が悪くなって山頂に行けなかった場合、アウトカムをどう設定したかによって、大きく意味合いが違ってきます。

アウトカムが「達成感を得る」だった場合、登頂しないとアウトカムが達成されたことにはなりません。一方、「準備する大切さを学ぶ」だった場合は、登山途中で天候が悪くなっても、準備をしていたおかげで無事に下山できたので、アウトカムは達成されたことになります。

「富士山に登る」という事が行為目標になりますが、実は、そこで「何を求めるか」「どんな成果を求めるか」という事が非常に大事です。常に、この「成果は何か」という事を意識してアウトカムを作るようにしてください。

また、大きな目的を達成するためにいくつかの小さな目標があり、その目標ごとに会議を開いて話し合いをする場合があります。その場合、一つひとつのアウトカムはもちろん大事ですが、そもそもの会議の意味が大きな目的と整合性が合っているかどうかも大変重要です。目的に沿っていなければ、その会議自体をやる必要がなく、やらなくていい会議にエネルギーを注ぐのは大変もったいないからです。

分かりやすいアウトカムは、会議が終わった時の参加者の状態を、参加者を主語にして文章化します。先ほどの行為目標と成果目標の関係を文章化する、と理解して頂くと分かりやすいと思います。例えば、今回お伝えしている内容は、冒頭の内容が、アウトカムになっています。

「ファシリテーションの考え方と基本的スキルを理解し」が行為目標です。そして、「よしやってみよう!と一歩踏み出す」がアウトカム、つまり、みなさんが読み終わった後の状態であってほしい内容です。

オリエンテーションのOARRは、ファシリテーターが事前に準備しますが、ファシリテーターだけが理解していれば良いというわけではありません。会議の参加者全員が同じOARRを理解する事が大切です。会議は、ボートに乗ってみんなで船を漕いでいくようなものです。ボートでみんながオールを持って漕ぐように、会議でも同じOARR(オール)を持って、アウトカムを達成することが大切です。

今回は、会議ですぐに使える4つのスキルをお伝えしました。
試せそうなものがあれば、ぜひ、試してみてください。

※この記事は、ビジネス・ブレークスルーのコンテンツライブラリ「AirSearch」において、2019年06月21日に配信された『話し合いの成果を高めるファシリテーション 02』を編集したものです。


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講師:森 雅浩(Be-Nature School代表)
1960年東京郊外生まれ。早稲田大学社会科学部卒。
少年時代は湧き水を眺めるのと、自転車で土手を走り降りるのが好きだった。10年間の会社員生活を経て海洋環境系団体に身を投じ、国際会議のプロデュースを行う。その縁がきっかけでBe-Nature School立ち上げに関わり、1998年社名変更と同時に代表取締役に就任。アウトドアイベントの企画・プロデュース、ワークショップの企画・ファシリテーション、研修講師など多数実施。趣味はギターの弾き語りとキャンプで料理すること。
NPO法人自然体験活動推進協議会(CONE)理事。NPO法人NATURAL LING TRUST理事。

  • <著書>
  • 『ファシリテーション 実践から学ぶスキルとこころ 』(岩波書店、共著)
  • 『田んぼのきもち (絵本の時間) 』(ポプラ社)