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BBTインサイト 2019/11/27

リカレント教育でブースター効果発動!仕事をもっと面白くするために、あなたはどこで何を学ぶべきか?



講師:川上真史(ビジネス・ブレークスルー大学 経営学部 グローバル経営学科 専任教授 同 大学院 経営学研究科 教授)



人生100年時代を迎え、近年企業の中でも注目されつつある日本のリカレント教育。しかし世界と比較すると、かなり出遅れている感が否めません。そして、この後れが日本のビジネスパーソンのエンゲージ度の低さに影響を及ぼし始めていると考えられています。リカレント教育は「本当に面白い」と感じながら仕事をするための原動力となるからです。企業、個人、教育機関、それぞれが持つ課題に心理学的視点を入れつつ、リカレント教育とは一体何なのか、なぜ浸透しないのか、どうすれば効果的な施策になるのかなどをお話ししていきたいと思います。

1.リカレント教育、5つの重要性

リカレント教育とは

リカレント教育はスウェーデンの経済学者レーンが提唱し、1968年のヨーロッパ文科省会議で言及されたことから広まり始めた概念です。50年くらい前からヨーロッパ、アメリカでは進んでおり、近年ではアジアも含めて世界全体でも広まってる中、やっと今になってリカレント教育が言われ始めてた日本は後れを取り始めているという印象があります。

「リカレント」とは、「繰り返し起こる」という意味の英語です。現在の日本では、教育というのは人生の初期、およそ20歳前後まで受けたらそれで終了するもの、と認識されていますが、そうではなく必要に応じて再度学校などの教育機関に戻るなど、生涯に渡り繰り返し学んだ方がいいと考えるのが、教育の意味を再定義した「リカレント教育」の概念です。

リカレント教育の重要性

① 一度学んだ知識やスキルはすぐに古くなってしまう
新たな理論やIT技術などが次々と生まれ、あらゆる面で今まで学んできたものが古くなっているにもかかわらず、昔のやり方にこだわり続けてしまう。要は、それ以外のやり方が分からなくなってしまっているのは、今よく起こっていることです。

② 受験合格がゴールとなっていることによる教育効果の低下
大学に入って何を学ぼうということではなく、とにかく有名大学に合格したい、大学名が欲しいという人は、まだ多く残っています。このような人たちは、大学合格という目的を達成し、入学したあとは無気力になる傾向が高いため、教育効果が上がりづらくなります。

③ 真に学びたいことが見つかったときの受け入れ場所が必要
実際に社会人として仕事をしてみると、「やはり自分の学びたかったことはこれだった」と、気づくことがあります。そのときにもう一度勉強し直した方が、より面白い人生になるのは間違いありません。そういう場合の受け入れ場所というのは、どうしても必要になります。

④ 人生100年時代における社会人としてのモチベーション維持
今、人生100年時代に突入しています。大学卒業者で考えると、60年近い期間、仕事をすることになります。以前なら60歳位で悠々自適な生活をしているはずなのに、まだ20年以上仕事をするわけです。50代後半くらいでももう一回学んでみたい気持ちが起こるのも当然です。

⑤ 通常の大学、大学院教育の中では学べなかったことを学び直す場が必要
日本の教育の中で、いくつか欠落している重要なポイントがあります。そこを身に着けないまま社会人になっている人が多いと感じます。もう一度しっかりと学び直して行ければ、社会人になったあともすごく活躍できますし、さらに面白く仕事ができると感じる部分がいくつかあります。日本の場合は、社会人になった後でも、もう一回学び直していく必要性があるのかなと感じます。

2.リカレント教育で大切な「ブースター効果」


基本的にリカレント教育の重要性というのは、いわゆる「ブースター効果」であると感じています。このブースター効果とは、基本的には「一度作られた免疫機能が再度抗原(病原体など)に接触することで、さらに免疫機能が高まること」を意味する医学用語です。要は、一回免疫ができている状態を作っておいて、その状態で病原体にもう一回感染すると、一気に免疫機能が向上する現象、これがブースター効果というものです。

リカレント教育で新たな資源を獲得していると、要求度の高い困難な仕事に接触したときに、それがエネルギーとなってエンゲージ度を増進させる「精神的ブースター効果」が起こると確認されています。

困難な仕事という病原体に触れたとき「しんどい。いやだ。ストレスを感じる」ではなく、むしろ「面白そうだ。やりたい」という気持ちに変わるというわけです。

ブースター効果が起こるのは自分が十分な資源を持っていると実感しているときのみであり、資源がないと感じているときはエンゲージ度が低下して、「簡単で楽な仕事をやっていたい」という気持ちが起こってきます。

3.リカレント教育はなぜ浸透しないのか?


大学生のうち25歳以上が占める割合は、OECD加盟国が平均20%なのに対し、日本は1.5%と少なく、100人のクラスなら1~2人というイメージです。30人のクラスであれば、25歳以上はまずいないので、行きづらいと思います。日本では、終身雇用もあり、今所属している会社をなかなか辞められないという事実もあります。

さらに上述の通り、日本人にとって大学というのは、勉強するところではなく、資格を取るところというイメージがあるので、もう一度大学に通って学ぼうとはあまり思わないのでしょう。

もうひとつは、大学院の存在です。社会人の大学院入学者数は、現在約1万8,000人と、大学院生全体の18.2%になります。この傾向で見ると、やはり日本人にとってのリカレント教育は大学院に集中して、大学にもう一度通うという選択肢がないイメージがあります。大学は、何か新しいことを学ぶ際の基礎から中級レベルのことを教育するのに対し、大学院には明確な特定のゴールがあります。幅を広げていきたいと思うのであれば、大学にもう一回入り直すのも選択肢にしていいと思います。

また、リカレント教育が浸透しないのには、3つの理由があると感じています。

① 授業料、その間の生活費などの金銭的な問題

今からもう一回、すべての仕事を辞めて4年間くらい大学に通いたいと思ったとき、その4年間どうやって生活したらよいかと考えることでしょう。授業料も高いですし、日本ではボトルネックとなっている一番大きな問題です。

② そもそも仕事が忙しく、とても学んでいる時間がない

通信制や夜間学校だとしても、仕事や家のことが忙しく、自分の代わりの人もいないという状況の中で、リカレント教育どころではないという人がほとんどです。

③ 受け入れ側のコンテンツ・プログラムの問題

これは大学や大学院側の問題です。教育カリキュラムにリカレント教育のイメージがなく、これから社会人になっていく若い人向けの内容のみというケースがまだまだ多いと思います。リカレント教育に焦点を当てたコンテンツやプログラムを組んでいくべきでしょう。例えば、「リーダーシップ、マネジメント、チームワーク」「コンテンツをビジネス化する力」「実践的な専門性」「リベラルアーツ」「大人としての人格形成」などが挙げられます。

最後になりますが、個人も企業も「リカレント教育」について認識しておく必要があります。世界の中で、日本はリカレント教育において、かなり後れを取っています。グローバルに働いていこうという方は、相当ギャップを感じると思います。この後れが、日本のビジネスパーソンのエンゲージ度の低さに影響が出始めているのは間違いありません。やはり様々な教育を受けて、本当に面白いなと思いながら仕事をしていると、エンゲージ度は高まっていきます。

企業、個人、教育機関それぞれに課題はありますが、まずはリカレント教育を日常的なものとして受け入れる意識が必要なのではないでしょうか。

※この記事は、ビジネス・ブレークスルーのコンテンツライブラリ「AirSearch」において、2019年1月28日に配信された『企業と心理学08』を編集したものです。

講師: 川上 真史(かわかみ しんじ)
ビジネス・ブレークスルー大学 経営学部 グローバル経営学科 専任教授、同 大学院 経営学研究科 教授、Bond大学大学院 非常勤准教授、株式会社タイムズコア代表、明治大学大学院兼任講師、株式会社ヒュ-マネージ 顧問。
京都大学教育学部教育心理学科卒業。産業能率大学総合研究所、ヘイ・コンサルティンググループ、タワーズワトソン ディレクター、株式会社ヒューマネージ 顧問など経て、現職。
数多くの大手企業の人材マネジメント戦略、人事制度改革のコンサルティングに従事。

  • <著書>
  • 『コンピテンシー面接マニュアル』
  • 『できる人、採れてますか?―いまの面接で、「できる人」は見抜けない』(共著・弘文堂)
  • 『仕事中だけ「うつ」になる人たち―ストレス社会で生き残る働き方とは』(共著・日本経済新聞社)
  • 『会社を変える社員はどこにいるか―ビジネスを生み出す人材を育てる方法』(ダイヤモンド社)
  • 『自分を変える鍵はどこにあるか』(ダイヤモンド社)
  • 『のめり込む力』(ダイヤモンド社)
  • 『最強のキャリア戦略』(共著・ゴマブックス)など