BBTインサイト 2019年11月27日

チームワークを心理学から再考しよう! 優秀なメンバーが集まれば、最高のチームになると思っていませんか?



講師:川上真史(ビジネス・ブレークスルー大学 経営学部 グローバル経営学科 専任教授 同 大学院 経営学研究科 教授)

「For the team」や「チームワークの勝利」など、「チーム」は、同調志向の強いわれわれ日本人にとって、サッカーやラグビーなどとりわけスポーツシーンの常套句として、心地よい響きを持った言葉でしょう。
しかし、最近の心理学研究の結果を見ていくと、これまでの概念に少しずれが生じており、そろそろ「チーム」について再考すべき時期に来ているのかもしれません。

ビジネスにおける「チームワーク」の機能を、心理学の研究から考察していきましょう。

1.機能させるのは難しい!? 「チーム」について再考しよう

「チームワーク」や「チーム」という言葉には、美しい響きがあります。ですが、私たちはその「チーム」というものに対して、幻想を抱いてしまっているのではないでしょうか。最近の心理学の研究を見ても、統計学やIT、ビックデータの解析など、様々な学問やテクノロジーが進化している中で、どうも「チーム」というのは、今、一般的に捉えられているイメージとは違うのではないかなという結果が出ています。
例えば、

一人よりもチームで取り組むほうが、より大きな成果を効率よく達成できる?

仕事は一人よりは二人、二人よりも三人と、多くの人が集まればより大きな成果を、皆で達成できると思われがちですが、本当にそうなのか疑問を抱いたことはありませんか?

みんなで集まることによって、チームが混乱し、いろいろな意見が出てきて、訳がわからなくなり、より時間がかかって結局成果が何もないような気がして…。これだったら一人でやったほうが良かったと、思うときもあるかと思います。

チームで取り組むことは、楽しく得るものが多い?

仲間が増えていくのが楽しくなり、得るものもあるため、「みんなでチームに参加しようよ」とか、「みんなでこういう活動をやろうよ」というシーンがあるかもしれません。

しかし、みんなで話ができて、一緒に何かを楽しむというのは、いわゆる「チーム」と言われるものではありません。これは別の集団であると考えるべきで、こういう集団がビジネス上で大きな成果につながっていくことはないでしょう。

優秀なメンバーばかりが集まれば、最高のチームになる?

本当に優秀なメンバーばかりが集まれば、それだけで最高のチームになるというわけでなく、逆に今まで全然目立っていなかった人達がチームに加わることで、大きな力を発揮するということもあり得ます。

優秀な人たちが集まった際は、きちんと設計されて、きちんと組み立てられたらチームである場合には、高い成果につながっていくかもしれませんが、そうでないケースも往々にしてあるものです。チームをどう作るのか、どう考えるのか、どう捉えるのかによって、チームの成果が変わってきます。

つまりチームとは、チームをつくれば自動的に機能するものではなく、機能させるための意識的な取り組みが必要であるということです。人間が持っている能力の中で、コミュニケーションという最も難しいツールを駆使しなければ、即座に混乱と機能不全に陥ってしまいます。さらに、個人の能力開発とチーム開発は、別次元で考える必要があり、その意識は全メンバーで共有しなければなりません。

2.「チーム」が機能するための5つの条件


「チーム」が機能するためには、次のような5つの条件が必要です。

(1)共通の「敵」ではなく、「目的」「目標」が明確に存在している

チームを機能させる一番簡単な方法は、共通の敵を作ることです。「隣の部門より高い数字を上げよう!」「あいつらを叩き潰せ!」など、共通の敵がいると仲が悪い者同士でもチームはまとまりやすくなります。

しかし、この方法は上品でもなく、決して企業が取るべき手法でもありません。共通の敵を作るということではなく、目的や目標をどれだけ明確にできるかです。

(2)一人ずつが、固有の役割、機能を明確に持っている

チームメンバーそれぞれに、いつまでに、何を、こういう形で作り上げるという、具体的且つ明確な目標と、固有の役割を持たせなければなりません。

役割が不明瞭であったり、最初に決めておかなかったりすると、手を抜き始めたり、過度のストレスにつながり、問題になりやすいという研究結果もあります。不明瞭な指示を出されて、何をどうすればいいのかわからない状態でいると、チームとしても機能しない原因となります。

(3)誰が上で誰が下であるとの意識を一切持たない

日本人にはこれを苦手とする人が多く、とにかく10人集まったら1番から10番まで順番や序列をつけたくなるようです。上下の意識を持たないというのは、チームメンバーは皆対等だという認識の現れです。

最近の心理学で、少しでも上から目線とか、偉そうな態度を示す人が出てきたら、即座にチーム内の関係性が壊れてしまうという研究結果もあります。チームメンバーが計画的に設計されたものであれば、だれが上でだれが下ということではなしに、それぞれのメンバーが機能と役割を持って関係し、動いていけるのです。

(4)全員が「自分もチームを作ることに貢献する責任がある」との意識を高く持つ

リーダーだけがチームビルディングをして責任を持つのではなく、メンバー一人ひとりがチーム作りに貢献していく責任があるということを、最初から伝えておかなければなりません。逆に言うと、ネガティブな言動を取るメンバー一人だけの力で、チーム全体を崩壊させてしまう影響力を持っているということも自覚しておくべきです。

その意味で、メンバーに対して、このチームにおいて今どの様な成果で貢献しているのか、チーム作りやチームを機能させることに対してどのような貢献ができているのかということを定期的にフィードバックすることが、チーム作りにおいて不可欠です。

(5)相互のコミュニケーションを徹底的に意識する

相互のコミュニケーションを徹底的に意識し、徹底的に話をして、コミュニケーションを取っていくことを意識しなければなりません。コミュニケーションが途切れると即座にチームは崩壊し、機能しなくなります。

3.「チーム」設計のポイントとは


まず1点目は、チームを設計していくうえで、いつまでに、具体的にどのような成果を生み出すことが求められているのかが明確になっていることが大切です。そのために必要な機能、役割は何で、それを誰が担当するのが最適かを明確にしていれば、チームは機能していきます。

次に、チームリーダーは誰なのか、また、機能ごとに役割を分けるならその部分については誰がリーダーなのかを決め、同時にそのリーダーとしての決定権はどこまでなのかも伝えておくことが必要です。さらに、チームの状況に対するフィードバックは誰がどのような形で行うかを決めておいた方が良いでしょう。

そのチームリーダーが行う場合もありますが、リーダー以外の人が行う場合もあります。プロジェクトに対して360度でフィードバックすることを頻繁にやっておかないと、チームは崩壊の方向へ向かってしまうこともあります。

また、チームメンバーとして絶対にやってはいけないことは何かを、明確にルール化しておくといいでしょう。多くのチームでは、やるべきことのルールは多いのですが、絶対にやってはいけないルールを策定できているチームは少ないのではないでしょうか。上記でも出たような「上から目線の言葉遣いは絶対にしない」「不機嫌な状態でミーティングには参加しない」など、これだけはやめておこうというルールを決めておいた方が、チームは機能しやすくなります。

そして最後に、チームで情報を共有する場を作っておくということです。これはインターネットやバーチャルな場所でも構いません。例えば、我々ビジネス・ブレークスルー大学はサイバー環境の大学なので、すべてインターネットを通じて運営しています。授業に関しての書き込みや、ディスカッションをして情報共有するサロンという場がネット上にあります。いずれにしても、情報共有をする場を作っておいたほうが、よりコミュニケーションは促進されやすいことを押さえておいてください。

今回の記事で見てきたように、まずは、チームで動くことについて、多くの人がまだまだ習熟していないという事実を理解する必要があるということです。世界的に見ても、まだ模索中のテーマです。

ですので、チームを機能させることはとても難しいという点を再認識しながら、地に足の着いたチーム設計をし、マネジメントすることが求められています。また、チームで動くことができる人を育てることが、チームを機能させるうえで必要になってきます。それには、徹底したコミュニケーションと、メンバーは対等であるという意識がチームを動かす基本になるということに尽きると思います。

みなさんはどうお考えでしょうか?

※この記事は、ビジネス・ブレークスルーのコンテンツライブラリ「AirSearch」において、2019年08月26日に配信された『企業と心理学15』を編集したものです。

講師: 川上 真史(かわかみ しんじ)
ビジネス・ブレークスルー大学 経営学部 グローバル経営学科 専任教授、同 大学院 経営学研究科 教授、Bond大学大学院 非常勤准教授、株式会社タイムズコア代表、明治大学大学院兼任講師、株式会社ヒュ-マネージ 顧問。
京都大学教育学部教育心理学科卒業。産業能率大学総合研究所、ヘイ・コンサルティンググループ、タワーズワトソン ディレクター、株式会社ヒューマネージ 顧問など経て、現職。
数多くの大手企業の人材マネジメント戦略、人事制度改革のコンサルティングに従事。

  • <著書>
  • 『コンピテンシー面接マニュアル』
  • 『できる人、採れてますか?―いまの面接で、「できる人」は見抜けない』(共著・弘文堂)
  • 『仕事中だけ「うつ」になる人たち―ストレス社会で生き残る働き方とは』(共著・日本経済新聞社)
  • 『会社を変える社員はどこにいるか―ビジネスを生み出す人材を育てる方法』(ダイヤモンド社)
  • 『自分を変える鍵はどこにあるか』(ダイヤモンド社)
  • 『のめり込む力』(ダイヤモンド社)
  • 『最強のキャリア戦略』(共著・ゴマブックス)など