業界ウォッチ 2019年12月2日

教員のちょっと気になる「高級ブランドグループ・LVMH」



執筆:谷口賢吾(BBT大学大学院 講師)

今週は「高級ブランドグループ・LVMH」を取り上げてご紹介いたします。

先日(11月25日)、世界最大手の仏高級ブランド企業モエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH)が、米宝飾品大手のティファニーを約1.7兆円(162億ドル)で買収すると発表し、大きな話題となりました。

約1.7兆円という金額の大きさもさることながら、米ティファニーを欧州高級ブランドグループが買収したという動きや、高級ブランド欧州3大勢力に集約されてきたということが話題となっています。

それでは、欧州の3大高級ブランド企業の売上高はどの位の規模で、どのように推移しているのでしょうか。最大手のLVMHとその他の企業や、今回買収の対象となった米ティファニーとどの位の違いがあるのでしょうか。また、LVMHの持っている部門別の売上はどのくらいの規模で、どのように推移しているのでしょうか。実際に数字で確認したいと思います。

まず、各欧州ブランド大手企業の売上推移を見てみます。LVMH(仏)は2004年に124億ユーロでしたが、そこから増加トレンドで、09年以降増加ペースが加速し、18年には468億ユーロに達しています。

リシュモン(スイス)は04年には36億ユーロでしたが、そこから緩やかに増加トレンドとなり、09年~12年にかけて増加ペースが加速し、12年には100億ユーロを突破しています。以降は横ばいトレンドとなりましたが、17~18年にかけて再び増加トレンドへと転じています。

ケリング(仏)は、04年には175億ユーロとLVMHよりも売上高が大きかったのですが、07年の190億ユーロをピークに減少に転じます。百貨店プランタンの売却などを経て11年に80億ユーロにまで落ち込みます。以降は微増トレンドとなり、18年には136億ユーロとなっています。

米ティファニーは、欧州3大グループと比べると売り上げ規模が小さく、04年は17億ユーロでしたが、そこから09年ごろまで横ばいトレンドで、以降は緩やかに増加トレンドに転じ18年には37.8億ユーロとなっています。

次に、LVMHの部門別売上高推移を見てみます。「服飾・皮革」、「免税・百貨店」、「香水・化粧品」、「ワイン・スピリッツ」、「時計・宝飾品」の順に規模が大きくなっていますが、いずれも増加トレンドで推移しています。特に、「服飾・皮革」、「免税・百貨店」の伸びが大きいことが分かります。

18年の売上構成比でみると、「服飾・皮革」が約41%、「免税・百貨店」が27%となっており、「時計・宝飾品」は8%と割合が小さいことが分かります。米ティファニーの買収は、「時計・宝飾品」部門を強化する狙いだと新聞等で報じられています。

こうしてみると、LVMHは高級ブランドグループの中でも突出していることが分かります。ここで米ティファニー買収によって、更に差が拡大していくことが予想されます。こうした、ブランドグループの寡占化の良し悪しは別として、独立系高級ブランドの買収・グループ化の動きは、巨大IT企業のスタートアップ買収のようにも見えてきます。買収する側の狙い・意味合いは異なると思いますが、ITスタートアップが、巨大ITへの売却・Exitをするのと同様に、独立高級ブランド側からみると、巨大ブランドグループへの売却はExit先として考えるのも悪くないかもしれませんね。

執筆:谷口賢吾(たにぐち けんご)

ビジネス・ブレークスルー大学、同大学院 専任講師
地域開発シンクタンクにて国の産業立地政策および地方都市の産業振興政策策定に携わる。
1998年より(株)大前・アンド・アソシエーツに参画。
2002年より(株)ビジネス・ブレークスルー、執行役員。
BBT総合研究所の責任者兼チーフ・アナリスト、「向研会」事務局長を兼ねる。
2006年よりビジネス・ブレークスルー大学院大学講師を兼任。
同秋に独立、新規事業立ち上げ支援コンサルティング、リサーチ業務に従事。

<著書>
「企業における『成功する新規事業開発』育成マニュアル」共著(日本能率協会総合研究所)
「図解「21世紀型ビジネス」のすべてがわかる本」(PHP研究所)