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大前研一メソッド 2020/01/06

“終身皇帝”となった習近平の野望



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学名誉教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

2019年12月9日に投稿した記事で、中国が大国になった理由と戦略について考察しました。

巨大な人口と広大な国土、奥深い中華文明の歴史は、大国になるためのファンダメンタルズ(重要条件)です。それを束ねる共産党一党独裁は、人権抑圧などの問題を抱えながらも、政府の号令一下によるスピード変革を可能にして経済成長を促しました。さらには中央集権的な政治体制の一方で、地方の首長や党書記に経済・経営面での権限を与えて自由に開発させる地方自治を徹底したことで、世界からヒト、モノ、カネを呼び込む開発競争が中国全土で巻き起こり、大国になる巨大な推進力になりました。

このように大国になった中国そして、香港がこれからどこへ向かうかを、BBT大学院・大前研一学長に聞きました。

習近平は国家主席の任期を撤廃し“終身皇帝”となった

中国の今後は、最高権力者である習近平国家主席の国家観、国家構想が中国の行方に大きく関わってくる。

習近平は2012年11月に胡錦濤や温家宝などのいわゆる第4世代の指導者が引退した後を受けて、中国共産党のトップである中央委員会総書記の座に就いた。翌13年3月の第12期全国人民代表大会(全人代。国会に相当)第1回会議において国家主席、国家中央軍事委員会主席に選出され、党、国家、軍の三権を完全掌握する。任命した李克強首相とともに第5世代のリーダー習近平による指導体制が幕を切った。

当初はポスト習近平を狙う第5世代、第6世代のライバルもいた。習近平体制は決して強い政権ではなかったのだ。しかし虎(大物)からハエ(地方の役人)まで叩く「腐敗撲滅運動」という名の権力闘争を仕掛けて、ライバルや足を引っ張る者を徹底的に追い落としてきた。結果、ポスト習近平のめぼしい候補は、今では誰一人いなくなってしまった。

17年から2期目がスタート。任期の折り返しで、これまでならチャイナセブン(党内序列の上位7人。中央政治局常務委員)に次世代のリーダー候補が入ってくるのが通例。しかし、このとき次世代リーダー候補は入らなかった。むしろ権力集中、独裁体制の強化が進んで、「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」という文言が行動指針として党規約に明記された。政治思想に個人の名前を冠されるのは毛沢東、鄧小平に次いで3人目のことだ。習近平が毛沢東や鄧小平と同等の地位まで「神格化」されたことを意味する。

さらに18年3月の全人代では国家主席の任期を「2期10年」までとする規制を撤廃する憲法改正案が採択された。これで習近平は、2期目が終わる23年以降も国家主席として居座り続けて、超長期政権を築く可能性が出てきた。文化大革命以降、過度な権力集中を防いできた中国の集団指導体制は終わりを告げて、習近平は中国伝統の「皇帝」、しかも引きずり下ろされることのない「終身皇帝」になったのである。

“皇帝習近平”は何を目指すのか。17年の共産党大会の演説で、習近平は21世紀半ば(2049年が中国の建国100周年に当たる)までに「社会主義現代化強国」を築くという新たな目標を打ち出している。社会主義現代化強国とは、民主主義や自由主義などの西洋の価値観に毒されることなく、中国本来の社会主義思想をもって、それを時代に適合した形で発展させ(前述の「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」となり)、強国化していく、ということだろう。

すでに世界第2の経済大国だが、経済力も国防力も高めて強国化する。習近平は今世紀半ばまでに世界一流の軍隊を建設することも目標に掲げている。総合的な国力で米国に対抗できる覇権国となって世界をリードするという構想だ。

しゃぶりつくした香港は、中国にとって既に用済み

香港は強大になった今の中国には関係ない。むしろ邪魔なだけ、というのが習近平の本音だろう。

1997年に香港の主権が英国から中国に返還された当時、香港の生活水準は高く、中国本土からすれば仰ぎ見るくらいうらやましい存在だった。鄧小平が改革開放政策の先行モデルである特別区を香港の隣の深?に設置したのも、香港の繁栄の「おこぼれ」が欲しかったからだ。しかし今や人口は1300万人にまで膨らんで、GDPも香港を凌ぐまでになっている。深センは国内外のハイテク企業がひしめき、世界中からヒト、モノ、カネが集まってくる。深セン以外にも北京、上海、杭州、温州、成都、重慶など都市の発展も著しい。となれば、中国政府が「香港の歴史的使命は終わった」と考えても不思議ではない。

習近平の頭の中では、しゃぶり尽くした香港はすでに用済みになっていると思う。香港には多くのグローバル企業がヘッドクオーター(本部)を置いているが、中国本土の仕事となれば深?や上海にやって来なければならない。香港は単なる中継基地、海外ビジネスパーソンの家族が生活する拠点でしかない。インターナショナルスクールやインターナショナルコミュニティもある便利な街だが、中国本土から見れば香港の存在価値は大きく低下しているのだ。

香港の魅力が失われて、海外の企業や優秀な人材が逃げ出したり、観光客が来なくなる。結果、中国のダメージになるという指摘もある。しかし習近平は歯牙にも掛けない。どのみち香港に未来はない。栄えるのは深?や上海なのだから、香港を脱出した企業や人材が本土に来てくれれば大歓迎というわけだ。

世界がなんと言おうが時間をかけて“一国”に仕上げてみせる。少なくとも皇帝習近平は民主化運動に与することも、妥協することも、同情することもないだろう。

※この記事は、『プレジデント』誌2020年1月3日号を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。