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BBTインサイト 2020/01/08

アントレプレナーライブ:イノベーションは組み合わせ ~農業 × ホームレス × 地方創生~ 「できる」か「できない」かでなく、「やる」か「やらない」か



講師:米倉 誠一郎(法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授/一橋大学 名誉教授)
ゲスト:小島 希世子(株式会社えと菜園 代表取締役)
編集/構成:mbaSwitch編集部

Photo by Markus Spiske on Unsplash

アントレプレナーシップについて考えていくアントレプレナーライブ、今回のテーマはイノベーションです。

イノベーションは経済成長の原動力となる革新を意味する言葉ですが、新しい事を発明するだけがイノベーションではありません。従来からあるものを新しく組み合わせる事も立派なイノベーションです。古来の農業とホームレス、そして地方創生というユニークな組合せで事業を展開する株式会社えと菜園の代表取締役・小島希世子氏をお迎えし、そのユニークな組合せでどのような価値を生み出しているのか、また、事業にかける情熱やそのライフストーリーをお伺いします。

1.「作る」「食べる」「学ぶ」の三つの事業を行う「えと菜園」

米倉:小島さんは具体的にどのような事をやっているのでしょうか?

小島:えと菜園という農業の会社をやっています。一般的に農業の会社というと、野菜を作るというのを想像されるかと思いますが、私達の会社は「作る」以外にも、「食べる」、「学ぶ」という三つの事業を行っています。

まず、一つ目の「作る」ですが、年間30種類ぐらいの野菜を作っています。作り方も特徴があって、農薬や化学肥料を使わずに、また、虫や雑草も排除せずに、それらも仲間として野菜を作っています。
例えば、下の写真の真ん中ににんじんの葉がありますが、そこに刈り取った雑草を敷いています。こうしておくと、乾燥防止にもなりますし、生き物たちのエサにもなり、雑草が土に帰ると土の栄養にもなります。また、生き物たちが寿命を終えた後に土に帰ってそれが栄養にもなるので、有機肥料もそれほど必要のない農法で作っています。

二つ目の「食べる」では、お客様に農作物を届ける仕事をしています。
最初は「えと菜園オンラインショップ」というネット通販から始めました。熊本県の農薬に頼らない16件の農家さんと一緒に農家直送でやっているのですが、日光と雨水、そこに生えてくる雑草と土だけで作る自然農法で作った小麦やお米、それらを使ったベーグルなどを販売しています。農家直送にこだわるのは、ただの商品とお金の交換だけではなく、物理的に直接送る事で作る人と食べる人のつながりが生まれるのではないかという思いを込めているためです。また、神奈川県藤沢市で直売所も運営しています。

三つ目の「学ぶ」では、菜園体験コトモファームという農業体験サービスをしています。
お客様は種まきから収穫まで、年間20種類の野菜作りをするのですが、子どもも大人も楽しめる内容です。私が必ず毎週講習をし、お客様と直接顔を合わせるようにしています。講習が終わると、お客さん自身が自分の畑で野菜作りに取り組んでいただくという流れです。道具が揃っているので手ぶらでお越しいただけるのも特長です。

野菜を作っていくと、もっと学びたい・腕を上げたい、ゆくゆくは農家になりたいという方も出てきますので、その方達に向けて上級コースも設けています。上級コースではトラクターを運転したり、座学で土壌や微生物の事を学んだり、野菜の一つひとつの特徴を学ぶ内容となっています。

また、農作物を活用した企業研修を提供しています。企業研修といってもひたすら農業をやっていただくのですが、チームビルディングを目的にしたり、決まった事をきちんとやるトレーニングの場にしたりと、企業の依頼に応じて、オーダーメイドで研修プログラムを提供しています。

2.農業×雇用で社会問題を解決するNPO農スクール

米倉:野菜作りや農業体験サービスだけでなく、NPO農スクールを設立したのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか?

小島:社会問題を解決するために設立しました。2015年の時点で、農業就業人口は約209.7万人ですが、生活保護受給者は、それ以上の216.6万人います。また20~39歳のニートの方も67万人います。生活保護受給者やニートの方の中には、仕事や働く場がないために働けない人や、ちょっとしたサポートで一歩が踏み出せれば、活き活きと働く事ができる方が多数いらっしゃいます。

また、農業に従事している人の平均年齢は66歳で、これから深刻な労働不足になる可能性があります。もし、生活保護受給者やニートの方をサポートして、農業で雇用を生み出す事ができれば、労働不足を解消し、これからの農業を活性化できるのではないかと考えました。

NPO農スクールでは、働きづらさを抱えたり、働きたいけれど仕事がない人と、人手不足の農家さんや農村地帯をつなげる取り組みをしています。ホームレスの方と人手不足の農業界をつなぐ事から始めたのですが、最近は、引きこもりの方やニートの方、生活保護の方も来るようになって、年々若年齢化しています。

米倉:何か人間関係で悩んだり、ちょっとコミュニケーションが苦手だという人が、実は、農業に向いていたりしますよね。

小島:そうですね。その人に社会性がないという事ではなく、真面目過ぎて引きこもってしまうケースの方もいらっしゃって、本当に人が良くて真面目な方が多いです。ですので仕事に関しては任せるときちんとやってくれるため、安心して頼めるタイプの方が多いと思います。

米倉:そういう方の適性を見て、適材適所のマッチングをしているとの事ですが、どういった事をされているんでしょうか?

小島:実は、農業は、すそ野が広くて色々な役割の仕事があります。就職先の業務を細分化し、必要とされる能力を可視化し、そこに合う人をマッチングをします。そうすると、ものすごい力を発揮できるので、本当に農園を担う人材になってくれるというわけです。

また、人とのコミュニケーションが苦手な人なら、牛の世話をする仕事があります。そこでは、牛の微妙な変化を感じ取る必要があり、人と話す事とはまったく違った能力が必要です。このように、人と話すことが苦手でも、うまく仕事ができるというケースがあります。

米倉:もう実際に31名が就業していますね。意外に農業関係じゃないところにも就業していますね。

小島:そうですね、建築業界など元々いた所に戻られる方もいらっしゃいますし、別の業界に就業する方もいます。実にもったいない話ですが、自分に自信がないために「自分はできない」と多くの人が思い込んでしまっています。でも、プログラムの中で一緒に野菜を育て上げるという小さな成功体験を積み重ねると、いつのまにか自分への自信も取り戻せるようになるのです。

今は、自治体等の生活困窮者自立支援の現場に農業を取り入れていこうという動きがあり、人材紹介会社を通じて、首都圏の13の自治体に講師を派遣し、私達のプログラムを提供しています。

3.餓死をなくすために農業を志す

米倉:ここからは、小島さんのライフストーリーを伺っていきたいと思います。熊本のご出身なんですね。

小島:私は、熊本県合志市という農家ばかりの地区の出身ですが、私の家は農家ではありませんでした。

友達の家に行くと、トラックがあり、牛がいて、中には五右衛門風呂があったりしたので、農家はかっこいいなと子どものころから憧れていました。その憧れから農家をやろうと決心したのは、小さい時に見たドキュメンタリー番組がきっかけです。自分と同じぐらいの年の子が、栄養失調で亡くなってしまう番組を見て、母に、うちは外に出れば畑がたくさんあり、近所や冷蔵庫に食べ物がたくさんあるから、その食べ物をそういう国に送れないかと相談しました。そうしたら、母に、食べ物を送るのはいいけれど、送るのに数か月かかって腐ってしまうから、将来そういう国に行って農作物を作る人になったらいいんじゃない、と言われたんです。そこから農家を目指すようになりました。

そこで、海外という過酷な環境で農業をするために、体を鍛えようと、小学校3、4年生ぐらいから剣道、中学校で柔道と空手を習いました。高校生の時に将来海外で農業をする事を考えて、農学部を受験しましたが、一浪しても上手くいきませんでした。そこで、予備校の先生に相談したところ、農学部でなくても、国際協力や食糧問題について学ぶ学部からでも携わることができるから、そちらから行けばいい、とアドバイスをいただいたんです。そこで勧められたのが、慶應義塾大学の環境情報学部でした。

無事に入学でき、田舎から関東に出てきたのですが、駅で初めてホームレスを見た時には驚きました。友達にあの人たちはなぜホームレスになったのかと聞いても、人によって答えが違うため、直接ホームレスの人に聞いてみようと思いました。ホームレスの社会復帰を支援する『ビッグイシュー』が出る前は、ホームレスの方は古雑誌を売っていたので、何回か古雑誌を買って仲良くなり、話を聞いてみたのです。すると、仕事を探そうにも、履歴書に住所と電話番号を書けないので、応募しても採用されないとおっしゃっていて、初めて腑に落ちました。多分、直接聞かなければ事情が分からなかったと思います。

一方で、在学中のアルバイトや卒業後に就職した農業系の会社で農家さんと接しており、農業界は人手不足という事を聞いていました。そこで、農業とホームレスを結びつける事で、食と職が手に入るのではないかと思いました。それまで、「アフリカに行って農業をやりたい、アフリカの危機を救いたい」と思っていましたが、日本でも食べ物や家がなくて、困っている人がいるという事を知って、まず先に、日本でやれることをやろうと思って、今に至っています。

小さいころから、「餓死をなくす」と決めているので、やりたいことは変わりません。ただ、会社にしないと日本では農地が借りらず、農地が借りられないと何も始まりませんので、まずは、起業したという経緯です。

4.「できる」か「できない」かでなく、「やる」か「やらない」か

米倉:ここまで色々とお話伺ってきましたが、最後に、座右の銘を教えていただけますか?

小島:座右の銘は、「できるかできないかでなく、やるかやらないか」です。「できる」か、「できない」かで考えると、私の場合、特に秀でた才能があるわけでもないので、大抵「できない」方に入ってしまいます。でも、「やる」か「やらない」かだと、自分が心で「やる」と決めたら、今、この瞬間からでも一人でもできます。物事を始めたり、チャレンジする時は、「やる」か「やらない」かで判断するようにしています。また、可能性を考えると自分で自分の道を塞いでしまいます。

米倉:素晴らしい。僕も学生に同じような事を言っています。また、人生は、「やる」か「やらない」かに加えて、「面白い」か「面白くない」かも大事ですよね。

小島:そうですね。人生は一回きりなので、面白い事をどんどんやっていきたいです。今は、日本でやっていますが、将来はアフリカに行って農業をやりたいです。

米倉:小学校2年生から思いを抱き、それを実現させた上に、ちゃんと成長しているのが素晴らしいですね。もっともっと成長して欲しいし、アフリカにも行ってほしいです。本日は、ありがとうございました。

小島:ありがとうございました。

※この記事は、ビジネス・ブレークスルーのコンテンツライブラリ「AirSearch」において、2019年1月16日に配信された『アントレプレナーライブ 194』を編集したものです。

講師:米倉 誠一郎(法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授/一橋大学 名誉教授)
1953年、東京都生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
1990年、ハーバード大学で歴史博士号を取得。
早くからアメリカ・シリコンバレーのIT起業の状況などを見てきた。日米のベンチャー政策に詳しい。

  • <著書>
  • 『経営の美徳 次世代リーダー育成塾』(日本経済新聞出版社、共著)
  • 『イノベーターたちの日本史』(東洋経済新報社)
  • 『創発的破壊 未来をつくるイノベーション)』(ミシマ社)他

ゲスト:小島 希世子(株式会社えと菜園 代表取締役)
株式会社えと菜園 代表取締役、特定非営利活動法人 農スクール 代表理事。
慶應義塾大学環境情報学部及び文学部人間科学科卒業後、農作物卸業、有機農業の会社にて勤務。2009年に株式会社えと菜園を設立し、熊本県の農家とともに農家直送のオンラインショップを立ち上げる。また、10坪の家庭菜園を借り野菜作り塾「チーム畑」を開催。2011年にコトモファームを開催。2013年にNPO農スクールを設立。

  • <著書>
  • 『農で輝く! ホームレスや引きこもりが人生を取り戻す奇跡の農園』(河出書房新社)
  • 『ホームレス農園: 命をつなぐ「農」を作る! 若き女性起業家の挑戦』(河出書房新社)※旧版