大前研一メソッド 2020年1月13日

JDIの経営再建は困難



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学名誉教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

債務超過に陥り経営再建中の中小型液晶大手、ジャパンディスプレイ(以下、JDI)は2020年1月8日、Suwa Investment Holdings, LLC(以下、Suwa)との間の資本業務提携契約を解除するとともに Suwaに対する新株式及び新株予約権付社債の発行を中止したと発表しました。Suwaからの出資が2019年12月31日までに実施されなかったのです。

「Suwaに対する第三者割当が2019年12月31日までに実施されなかった場合の対応策」としていちごアセットグループからの資金調達に関する基本合意締結という新たな発表を2019年12月にJDIは行っています。JDIを経営再建できるファンドは存在するのか、BBT大学院・大前研一学長に聞きます。

【資料】Suwa Investment Holdings, LLCとの間の資本業務提携契約の解除 並びに同社に対する新株式及び新株予約権付社債の発行の中止に関するお知らせ (最終アクセス:2020年1月13日)
https://ssl4.eir-parts.net/doc/6740/tdnet/1782167/00.pdf

資金調達に関するこれまでの会社発表は、蜃気楼のごとく消えている

「Suwaに対する第三者割当が2019年12月31日までに実施されなかった場合の対応策」として、JDIは、2019年12月12日に、独立系投資顧問会社「いちごアセットマネジメント」のグループ会社でシンガポールに拠点を置くいちごトラスト・ピーティーイー・リミテッド(以下、いちごトラスト)から800億~900億円の金融支援を受け入れることで基本合意した。2020年1月中をメドに最終契約を結び、2~3月中に資金調達を完了させることを目指すとしている。

【資料】いちごアセットグループからの資金調達に関する基本合意書締結のお知らせ(最終アクセス:2020年1月13日)
https://ssl4.eir-parts.net/doc/6740/tdnet/1777325/00.pdf

主要顧客の米Apple社も、JDIが「いちご」から400億円以上を調達することなどを条件に、7月から操業停止中の白山工場(石川県白山市)の一部設備を2億ドル(約220億円弱)で買い取ることを検討している。白山工場の売却に向け、シャープとの交渉に入ったという報道もある。

JDIは2012年、日立製作所、ソニー、東芝の液晶パネル部門が統合して生まれた。経済産業省と同省所管の産業革新機構(現INCJ)が後押しした“国策企業”だ。しかし、韓国、中国との競争に敗れ、米Apple社向けパネルの販売不振などもあって業績が低迷し、2014年から5年連続で赤字を計上、見事に衰退している。INCJからも累計4620億円の公的資金が投じられた。

2019年4月、中国・台湾の企業連合から、JDIへの出資を目的に作られたSuwaを通じて最大800億円の金融支援を受け入れることが発表されたが、その枠組みが二転三転し、9月までに中台連合の全3社が離脱し、資金調達は行き詰まっていた。9月末時点で1000億円を超える債務超過に陥っている。

JDIという会社は何かを発表しても、それがすぐにパーになって蜃気楼(しんきろう)のごとく消えている。

「過年度に在庫を累計100億円程度過大に資産計上」した不適切な会計の疑惑

税金を垂れ流してバックアップした経産省に、「この事態について、どう考えるんだ?」「何か言い分ないのか」「このいちごアセットというのは、経産省が見つけてきたのか」と聞きたいところだ。経産省の担当者は2年か3年で担当者がクルクル異動する。その意味でも、政府の見解を聞きたい。

JDIの議決権の半分を握る可能性のあるいちごアセットにJDIの経営を立て直せるか疑問である。いちごアセットは2006年設立。社名の「いちご」は千利休が説いた「一期一会」に由来し、「人との出会いを大切に」の精神を企業理念にしている。

スコット・キャロン社長は日本通として知られ、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)客員研究員やモルガン・スタンレー証券の株式統括本部長を務めた。ユニゾホールディングス、長谷工コーポレーション、富士通、日本製紙などの株式を保有し、その投資スタンスは長期保有が原則だという。

いわゆるハゲタカ・ファンドのように、JDIを解体して切り売りするか、少しドレスアップして米Apple社などに売却するか、中国勢に売る以外にJDIの出口を考えにくい。1000億円近いカネを出すことによって、本当にJDIは再建できるのか。そこのところが、まだ私にはクエスチョンマークだ。

JDIはほかにも問題を抱えている。巨額資金を着服したとして懲戒解雇された元幹部(その後、自殺)からの通知を受け、弁護士などでつくる特別調査委員会を設置した。その調査結果からJDIは「過年度に在庫を累計100億円程度過大に資産計上していた」ことが判明しており(2019年12月24日に公表)、同日に設置した第三者委員会による今後の調査で不適切な会計処理が認められれば、管理責任のあったINCJやその後ろ盾である経産省も責任を免れないだろうし、そこがあやふやなままでは資金調達にも影響するだろう。JDIの経営再建は見通しがつかない。

※この記事は、『夕刊フジ 大前研一のニュース時評』2019年12月22日、2020年1月12日に放送した大前研一ライブを基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。