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大前研一メソッド 2020/02/24

「斬首作戦」の恐怖に慄(おのの)く北朝鮮の金委員長



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

2019年12月初旬、米国との非核化交渉の期限を「年末」と一方的に決め、新たなミサイル実験実施などの「クリスマスプレゼント」を示唆する強気な姿勢を示してきた北朝鮮が2020年に入って鳴りを潜めています。「挑発行為」どころか、金正恩・朝鮮労働党委員長の動静を伝える映像などの放映もめっきり減っています。

米国側の動きとして、米CNNテレビは2月10日、トランプ大統領が、11月に予定されている大統領選前には米朝首脳会談の開催を望まない考えを外交政策担当の高官らに伝えたと報じました。

こうした米国側の北朝鮮を突き放すようなメッセージを、金委員長は果たしてどのように受け止めるのでしょうか。「イランのカセム・ソレイマニ司令官に対する殺害作戦を金委員長へのメッセージと受け止めているのではないか」とBBT大学院・大前研一学長は指摘します。

ソレイマニ司令官殺害という一番極端な選択肢を選んだトランプ大統領

2020年の国際社会は、米国によるイランの要人殺害という衝撃で幕を開けた。1月3日、米軍の無人機がイラクの首都バグダッドにある国際空港を襲撃、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官一行を殺害したのだ。

米国防当局が示したイランに対処する複数のプラン候補のうち、トランプ大統領はその一番極端なカードを選択した。トランプ大統領は、世界経済の状況などとは無関係に、突発的にやってくるトランプリスクが一番顕著な形で示された例だと私は思う。宗教色が強いイランで、市民から崇敬されている、宗教指導者直属の軍事組織である革命防衛隊の英雄とされるソレイマニ司令官を標的にすれば、どんな事態を招くのか。トランプ大統領は深く理解していなかったに違いない。トランプ大統領は理解しないまま意思決定できる稀有なリーダーなのだ。

トランプの誤判断からイランと米国があわや全面衝突か、という最悪のコースは避けることができそうだが、トランプリスクは今後もついて回る。

米軍による「“斬首作戦”のメッセージ」と金委員長は受け止めた?

ソレイマニ司令官の殺害に誰よりも衝撃を受けたのは、北朝鮮の金正恩委員長かもしれない。2019年末の演説で「正面突破」という言葉を連呼して、核兵器やICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発再開を示唆する強気な姿勢を示してきた金委員長だが、2020年に入ってからは音無しの構えである。姿すら現していない。韓国メディアは「ソレイマニ司令官殺害が北朝鮮に対する最大の警告になった」と一斉に報じている。

トランプ大統領は「彼は信頼できる男だ」と金委員長との良好な関係をアピールしてきたが、「まだ彼を信頼している」「私との約束を破ると思っていないが、その可能性もある」などと、徐々に評価が後退しつつある。近頃は「Let’s see.(見てみよう)」という言い回しに変わった。北朝鮮の出方次第では一番極端なカードを引き直す、つまり北朝鮮を攻撃する「鼻血作戦」や金委員長に対する「斬首作戦」を決断しかねない。

ソレイマニ司令官殺害の報に触れた金委員長が「自分に対するメッセージ」と受け止めたとしても不思議ではない。

金委員長を恐怖に陥れて暴走させるリスク

恐怖した金委員長が暴走した場合、韓国や日本に向けて何ら以下のトリガーを引くひく可能性は高い。ICBMは米国本土に届かない可能性があるし、核弾頭を搭載しても確実に到着地で核爆発させる技術はまだないと思われる。しかし、2000発の短距離ミサイルは確実にソウルに照準を向けている。中距離ミサイルを中国やロシアに向けることはないが、日本方面に撃ち込んでくる可能性は十分にある。

また、金委員長が暴走しないにしても、使えなくなった核やミサイル技術を、核開発を再開したイランに売り込む可能性は否定できない。イランと米国の葛藤は北朝鮮と米国の関係にも伝播する。日本は「トランプリスク」の埒外に身を置くことはできないだろう。

※この記事は、『プレジデント』誌 2020年3月6日号pp76-77を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。