大前研一メソッド 2020年3月9日

セブン-イレブンは米市場に活路を模索、ファミマは社員数削減



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

日本国内のコンビニ業界は、人手不足の影響により、新規出店が抑制されています。日本国内のコンビニ売上高はピークを迎えた可能性が高くなっています。セブン&アイ・ホールディングス(HD)とファミリーマートが対象的な動きをしています。最近の両社の動きについて、BBT大学院・大前研一学長に解説してもらいました。

セブン&アイHD、米コンビニのスピードウェイと買収交渉するも、断念

セブン&アイHDが、米国の石油精製会社マラソン・ペトロリアムが運営する「スピードウェイ」の買収交渉に入ったが、価格面で折り合わず、交渉を打ち切ったと報道された。同社は米国でガソリンスタンド併設型のコンビニエンスストアを約4000店展開している。買収提示額は約220億ドル(約2兆4500億円)とされていた。

セブン&アイHDが展開するセブン-イレブンは、1927年に米国テキサスの氷小売り販売店「サウスランド・アイス」が創業した。このノウハウを輸入して1974年に東京都江東区に1号店を出した後は成長を続け、国内は2万店を超えるまでに拡大した。

2005年には米国のセブン-イレブンを完全子会社化した。米国やカナダ、メキシコで展開する店舗数は1万店を超え、世界各地にもエリアライセンス権を付与している。全世界の店舗数は2019年12月の時点で7万店を超えている。

日本国内のコンビニ事業は、人口減少や人手不足などを背景に今後の市場拡大は見込めなくなり、セブン&アイHDも米国事業を成長の柱にとらえている。とはいえ、利益は日本国内に比べるとまだまだ及ばない(2019年3~11月の国内2万店のコンビニ事業の営業利益は約2001億円。海外5万店のコンビニ事業の営業利益は約765億円)。

そこにきて、過去最大規模の巨額買収の話が明らかになった。日本は消防法で規制されているが、米国ではコンビニの8割近くでガソリンを販売している。ただ、将来、EV(電気自動車)の普及が進んだときのことを考えると、いまさらガソリンスタンドのチェーンを買ってどうするのか、という疑問もある。

ポスト・ガソリン時代に向けて、提示額の2兆4500億円は高すぎるのではないか。投資の回収期間を15年とした場合、4000店で年間1600億円の利益を出さなければいけないのだが、どう考えても難しいだろう。日本のコンビニ企業が海外の企業をM&Aすることを考えた場合、どうしてもコンビニ企業を対象にしがちだが、海外のコンビニ業界というのは、ガソリンスタンドを併設している点に注意しなければならない。

ファミマ、全社員の15%が希望退職

ファミマは2020年3月末に全社員の約15%に相当する1025人が希望退職すると発表した。24時間営業の見直しなどに伴う資金捻出のため、40歳以上の社員を対象に約800人を募集したが、想定を上回った。

応募社員のうち、日常のオペレーションの継続に欠かせない86人については慰留したが、同社は「自身のキャリアを真剣に考えた結果であり、最大限尊重する。組織上支障のない範囲で可能な限り認める」としている。割増退職金の総額は約150億円。単純計算すると1人1500万円にもなる。

コンビニを運営する会社で長く過ごしている人は、マニュアル通りに行動することが身について、型にはまったことしかできないのではないか。そういう人たちが、これだけ自信を持って辞めていくというのは、私には意外だった。

予想を上回る応募ということは、会社の中で何かとんでもないことが起こっていて、このままではハッピーなリタイアメントはないと考えている人が多いのかと想像してしまう。

朝の散歩のとき、私がコーヒーを飲むのに利用するのはファミマだ。ウチの近所のファミマにはイートインスペースがあるからだ。私のような1回の来店でコーヒー1杯たった100円しか使わない客から見て、ファミマ店内の雰囲気は暗い感じはしないが。

【資料】構造改革に伴う早期退職優遇制度の実施結果に関するお知らせ(最終アクセス:2020年3月9日)
https://www.family.co.jp/content/dam/family/ir/release/20200219_release1.pdf

※この記事は、『大前研一のニュース時評』 2020年3月1日を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。