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大前研一メソッド 2020/03/23

東京五輪が7月24日に開幕するのは絶望的



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

2020年東京五輪の7月24日開幕について、米国のトランプ大統領は「これは私の意見」と断ったうえで「可能なら彼らが1年延期すればいい」「各スタジアムが空っぽになるよりも延期がよいと私は考える。今年は中止にして来年開催するのが無観客で行うよりも良い代案だと考える」と述べました。1年延期を推したのはトランプ大統領が日本を思いやる最大の配慮」とBBT大学院・大前研一学長は言います。

国際オリンピック委員会にとっての最大の収入源はTV放映権料です。そして、米国のNBCユニバーサルが米国の放送局NBCが2014年ソチ大会から、開催地が決まっていない2032年夏季までの10大会分の米国向け放送権を、約120億ドルで落札しました。開催時期について、IOCは最大スポンサーであるNBCの意向に背くことができません。IOCの意思決定に絶大な影響力を及ぼすNBCが従うとしたら、トランプ大統領の意向しかないというのが大前学長の見立てです。つまり、東京五輪の開催に影響を与えることができるのはトランプ大統領だけで、そのトランプ大統領が日本に助け舟を出しているのが上の発言というわけです。

欧米のオリンピック委員会が7月24日開幕に反対

2つのケース「数か月先に延期」と「無観客試合」の可能性は、利害関係者の損得勘定から考えて低そうである。

2つのケースについて考えるにあたり、今回の新型コロナウイルスの問題が20年7月の開催前に収束する可能性は低いという前提条件がある。トランプ大統領は、新型コロナウイルスの問題が収束するのは「7月か8月ごろにかけて」との専門家の見方を示している。収束する前なのにもかかわらず、金メダル獲得の有力選手を多数輩出する中国や欧州、米国から選手たちが本当に来日して開催期間中、世界中の選手と共に選手村に滞在するのか。中国や欧州、米国の応援団が大挙して来日するのか。新型コロナウイルスがまだ収束していないうちに、東京に選手団や応援団を積極的に送り込む国がどれだけあるだろうか。7月24日開幕は絶望的と見る。

IOC総会で投票権を持つIOC委員は全世界で100人いるが、41人を占める欧州や米国やカナダなど各国の国内オリンピック委員会から東京五輪延期を求める声が高まっている。

(1)ノルウェー・オリンピック委員会は国内の各競技団体と協議したうえでIOCへ次のような要望文を送付した。
「新型コロナウイルスの状況が世界規模でしっかり収束するまで、東京五輪を開催すべきではない」

(2)フランス・オリンピック委員会のマセリア会長は次のような発言をした。
「5月末になってもまだ危機的状況なら東京五輪の開催は見通せない」

(3)スペイン・オリンピック委員会のブランコ会長は以下のような声明を発表した。
「出場選手に対する公平性の観点から東京五輪は延期したほうがいい」

(4)スロベニア・オリンピック委員会のガブロベツ会長は次のような発言をした。
「7月に開催することはできない。2021年開催でも何の問題もない」

(5)カナダ・オリンピック委員会のウィッケンハイザー委員は次のような発言をした。
「7月開催の主張は世界の人々や選手に危害

【参考】東京五輪延期を要望 欧米NOCから噴出 IOC委員の“決断”に影響大(最終アクセス:2020年3月23日)
https://www.sponichi.co.jp/sports/news/2020/03/22/kiji/20200322s00048000087000c.html

ケース1「数か月先に延期」

数か月先に延期するのは新型コロナウイルスの収束時期が見通せないことから考えても、NBCの都合から考えても難しい。NBCの都合を考えた場合、米国では9月と10月はサッカーチャンピオンズリーグやNFL、メジャーリーグといったスポーツイベントが目白押しの時期である。NBCはこれらのスポーツイベントをTV放映する計画を立てている。

そもそも、東京五輪がわざわざ猛暑の時期である7月24日開幕となったのは、米国でのスポーツイベントのTV放映と重ならないように期間を調整したためである。そのため、米国のスポーツイベントと重なる時期に東京五輪を延期することをNBCが了承するとは考えにくい。

ケース2「無観客試合」

【選手への影響】

上の(3)のスペイン・オリンピック委員会のブランコ会長のほか、米国水泳連盟と米国陸上競技連盟と英国陸上競技連盟が、選手への影響から東京五輪は延期したほうがいいと訴えている。

【NBCへの影響】

2016年のロイター報道によると、ロンドン五輪の際は、全世界の人口の約半数に相当する約36億人がテレビ観戦した。これだけ多数の視聴者がいるため、TVCMの広告収入が入る。無観客試合でも観客試合でも、オリンピックを開催してもらえさえすればTV放映できるので、TVCM収入に違いはない。しかしながら、有力選手が出場しない場合は視聴率が下がりTVCM収入が下がる。

【IOCへの影響】

IOCにとって、五輪開催による収入の過半はTV放映権である。無観客試合であろうと観客試合であろうと、IOCにはほとんど損失が出ない。

【組織委員会への影響】

チケット収入は組織委員会の収入になる。チケット売り上げは約900億円で、無観客試合になれば約900億円の減収になる。

IOCは7月24日開幕の断念を意思決定できないでいるが、遅くとも2020年4月中には意思決定するとしている。

※この記事は、『大前ライブ』2020年3月15日、同22日放映、『スポニチ』2020年3月22日付 を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。