業界ウォッチ 2020年3月23日

教員のちょっと気になる「ユーロ主要国の財政赤字」



執筆:谷口賢吾(BBT大学大学院 講師)

今週は「ユーロ主要国の財政赤字」を取り上げてご紹介いたします。

先日3月17日に、EU各国首脳が財政赤字を「対GDP3%以内」に抑えるルールを一時的に停止することで合意したとの報道がありました。これは、新型コロナウイルスの感染の拡大を受けて、各国政府が、企業や家計の支援策に動くための措置として、財政支出による景気対策を例外的に認めようというものです。

かつてリーマンショック後の金融危機で、南欧を中心とした欧州危機を招いた反省からEUは財政監視を強化してきましたが、ここにきて財政支出による財政赤字拡大を許容することにしました。

確かに、以前はPIIGS(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン)の5カ国が財政危機にあるということで、2009~12年頃まで話題になっていました。しかし、それ以降は、そうした問題を目にすることが無くなったように思います。

それでは、実際に欧州・ユーロ圏の主要国の財政赤字がどの位で推移していたのでしょうか。また、最近はどの位の水準となっているのでしょうか。実際に数字で確認したいと思います。

まず、欧州危機当時、財政状況が悪かったアイルランド、ギリシャ、スペインの財政赤字の対GDP比の推移を見てみます。08年時点では、ギリシャ(-10.2%)、アイルランド(-7.0%)、スペイン(-4.6%)の順で悪かったのですが、アイルランドが10年時点で-32.1%まで落ち込んでいます。アイルランドは、それ以降改善を見せ、19年(見込み)には+0.2%の財政黒字となっています。ギリシャは、09年に-15.1%、13年に-13.2%と最悪期を迎えましたが、以降は順調に改善し、19年は+1.3%と財政黒字の見通しとなっています。スペインも、09年、12年に-10%台の時期がありましたが、以降改善しており、19年は-2.3%と赤字ながら-3%以内を保っています。

次に、ポルトガル、フランス、イタリアを見てみます。ポルトガルは、10年に-11.4%と最悪期を迎え、以降改善に向かうも14年に-7.4%と落ち込みます。以降は改善傾向にあり、19年は-0.1%の見込みとなっています。フランス、イタリアは09年に最悪期を迎えますが、以降は改善に向かい、19年はイタリア-2.2%、フランス-3.1%の見込みとなっています。

ドイツ、オランダ、ベルギーは、PIIGS国及びフランスとは異なり、財政状況が良かったのですが、さすがに09年、10年には-3%を下回る数値となりました。しかし、それ以降は改善し、ドイツは11年には-3%の水準を上回っており、オランダは13年時点、ベルギーは15年時点で-3%水準を上回っています。ドイツに至っては14年以降財政黒字で、オランダは17年以降財政黒字を達成しています。

こうしてみると、かつて欧州危機で注目されたPIIGS諸国含め、いずれも財政収支が改善しており、概ね財政赤字3%水準をクリアしていることが分かります。

一方、欧州の新型コロナウイルス感染拡大は深刻で、特にイタリア、スペインが大きな影響を受けています。09-12年当時はリーマンショック・金融危機から始まった金融機関への支援がソブリンリスク問題(国債等の格下げ不安や債務不履行に陥る可能性)へと波及しましたが、今回は当時とは少し性質が異なり、実体経済の影響が大きくなっています。

まだ、新型コロナウイルス問題がいつ頃収束するのか、どの位の経済的インパクトがあるのか読めませんが、実体経済だけでなく、各国の金融・財政の状況も注視していく必要がありそうです。

執筆:谷口賢吾(たにぐち けんご)

ビジネス・ブレークスルー大学、同大学院 専任講師
地域開発シンクタンクにて国の産業立地政策および地方都市の産業振興政策策定に携わる。
1998年より(株)大前・アンド・アソシエーツに参画。
2002年より(株)ビジネス・ブレークスルー、執行役員。
BBT総合研究所の責任者兼チーフ・アナリスト、「向研会」事務局長を兼ねる。
2006年よりビジネス・ブレークスルー大学院大学講師を兼任。
同秋に独立、新規事業立ち上げ支援コンサルティング、リサーチ業務に従事。

<著書>
「企業における『成功する新規事業開発』育成マニュアル」共著(日本能率協会総合研究所)
「図解「21世紀型ビジネス」のすべてがわかる本」(PHP研究所)