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BBTインサイト 2020/03/26

子育てと子どもの教育〈 第1回 〉 発想力~「発見と探求」で発想する



講師:三谷宏治(金沢工業大学虎ノ門大学院イノベーションマネジメント研究科教授)
編集/構成:mbaSwitch編集部




人工知能(AI)の進化により、知識があれば解決する問題は全て解決され、子ども達の目の前には、座って悩んでいても解決しない問題ばかりが残る時代となっています。このような時代に対応するためには、発想力を鍛えることが不可欠です。
「子育てと子どもの教育」をテーマにシリーズでお話しする本講義。第1回目の今回は、「発想力」がテーマです。まずは親である皆さんが、手や足を動かして考えながら、発想力を鍛えるトレーニングをしていきましょう。

1.知識や常識が身を滅ぼす



上の絵をご覧ください。①Aの横棒が長いでしょうか、②Bの横棒が長いでしょうか、もしくは③A、B同じ長さでしょうか。

この絵は、ミュラー・リヤーという人が作った錯視図です。皆さんもご存じのとおり、外側に開いていると長く見え、内側に閉じていると短く見えますが、実は同じ長さです、というものです。

しかし正解は、②Bの横棒が長いです。私がBの横棒を少し長く加工しました。



私はこの問題を、上は経営者の方々から、下は小学校1年生まで、皆に出題しています。小学校3年生以上は間違えます。なぜなら知っているからです。「知っている」ということは、大事なことです。知っていれば悩む必要はありませんし、すぐに答えに辿り着くことができます。しかし、代わりに捨てるものがあります。それは「考える」ということです。人は「知っている」と思った瞬間に、考えることをやめてしまうのです。

2.発想力に必要なものとは?

次の問題をご覧ください。①左側Aの内円が大きいでしょうか、②右側Bの内円が大きいでしょうか、それとも③同じ大きさでしょうか。



この絵は、デルブフという人が作ったデルブフ錯視図というものです。白黒は関係なく、輪が2つで成立します。外側の輪が大きいと、内側の輪は小さく見えますが、実は同じです、というものです。私がまたそれに少し意地悪をしています。今度は大丈夫でしょうか。

正解は②右側Bの内円が大きいです。
先ほどの問題では、皆さんは問題に対して「知っている」と思っただけです。しかしこの問題では、皆さんは「考えた」のではないでしょうか。



では、今、この問題に正解しなければ、皆さんもしくはご家族の命がかかっているとしましょう。
皆さんはどのようにして答えを得るでしょうか。

面白いことに、この問題を小学1年生に出題すると、皆すぐに分かったと手を挙げて、紐や紙や定規など色々なものを使ってスクリーンに映し出された円の大きさを測ろうとします。一方、同じ学校で3年生にこの問題を出題すると、もう手が挙がりません。3年生は頭の中でもっと色々と考えています。「測るためには定規が必要だ。でも自分が持っているこの小さな定規では、あの円は大きすぎて測れないかもしれない」というところまで考えて、頭の中で悩み続けます。このように、座ったまま悩み続ける小さな大人が、たった2年で出来上がるのです。

発想力に必要なことは、座って悩まないことです。悩みとは一種の感情であり、思考ではありません。それはある意味では思考停止状態であると言えますが、そのことを認識できればよいのです。「今、自分は考えているわけではなくて、悩んでいるだけなのだ。それは思考停止なのだから、動けばいい」。人と話をするのもよいでしょう。自ら動いて新しい情報を取りに行くのでもよいでしょう。座って悩まずに、動いて考える。これが発想力なのです。

3.発想とは何か?

なぞなぞです。下の問題を考えてみて下さい。



正解は、「中国人」です。

なんだこんなことか、と怒る人が時々いますが、これは一種のアハ体験(常識を覆されること、思い込みをつかれること)かもしれません。しかし、自分の常識が覆されることは貴重な経験であり、そこからがスタートです。

探求のスタートは、まずはWhat、一体何が起きたのだろうか?から始まります。まずは、何が起きて、どのようにして騙されたのか、ということをよく考えることです。このなぞなぞでは、「何人」という漢字2文字には、「なんにん」と「なにじん」という2つの読み方があり、各々の意味が全く違っていたということです。次にWhyですが、国語には同字異議語(同じ文字でありながら、意味が違う)があるということがわかります。そして、同字異義語は他にもあるのか、なぜこんなにも沢山の同字異義語があるのか、と、探求を深めていくのです。



発想とは、発見によって広げ、そして選択することであると私は思っています。
100個のアイデアの中から一番トゲがありそうなものを1個だけ選び、残りの99個は捨てるのです。そしてその1個の中のトゲは何なのかということを探求するのです。探求の結果、トゲが5本あれば、それをまた組み合わせれば、次のアイディアが出るでしょう。もしアイディアが出なければ、100個のうち2番目にトゲがありそうなものに行けばいいのです。

しかし、常識が発見を阻害します。当たり前だと思っているところに決して発見はありません。また恐怖が選択を阻害します。99個捨てるのは怖いことです。日本人は、皆が出してくれた意見を捨てることが苦手なので、皆の意見を取り入れようとグループ化をしていきます。その結果、つまらないものとなってしまいます。

さらに、満足が探求を阻害します。アハと言って満足し、そこで終わりとなってしまうのです。飽きることなく「何だろう」「なぜなんだ」ということを続けていかなければならないのです。

発想とは、発見によって広げ、選択し、探求し、そして組み合わせていくことです。その上で、分からなければ、座って悩まず、動いて考えるのです。座ってじっと悩んでいても、何も解決しませんし、そのような問題はもはや存在しないのかもしれません。

AIは、人間の何十倍何百倍もの知識ベースを持つことができます。つまり、知っていれば解決する問題は、既に解決されてしまっているのです。結果、子ども達の目の前には、座って悩んでいても決して解決しないものだけが残っています。それに対応するためには、動いて考える発想力が必要となるのです。

4.トレーニング~紙コップの形について考える

動いて考える発想力。そのためのトレーニングをしていきましょう。



紙コップはなぜこのような形をしているでしょうか。

まずはWhat、どんな形?というところから始めましょう。まずは発見です。普通のコップと比べてみると、何か違いはあるでしょうか。

紙コップ特有の形として、まず、飲み口のところが少し丸まっていて、厚みがあります。この縁のことを、業界用語でトップカールと言うそうです。そしてもう一つ、底が上げ底になっています。トップカールがあること、そして上げ底であることは、世界中のすべての紙コップに共通です。Why、なぜでしょうか。何か強い理由があるはずです。それを探求していくのです。

分からなければ、動いて考えましょう。何かを知りたければ、それがあるものとないものを比べてみてはどうでしょうか。トップカールについて知りたければ、トップカールがある紙コップとない紙コップを比べればよいのです。それも、ただ見比べるだけではなく、実際に使って比べてみてください。

トップカールをはさみで切り取った紙コップを重ねてみると、取り出しにくくなるということが分かります。そして、その紙コップに液体を入れて飲んでみると、実用の強度だけではなく、トップカールのところに指を引っ掛けて持つことができるということも分かります。引っ掛けて持つことができるので、そもそもコップ側面の強度は不要なのです。



それでは上げ底の部分はどうでしょうか。上げ底のある紙コップは、重ねてみると途中で止まり、側面に隙間ができます。一方、上げ底をはさみで切り取った紙コップは、重ねると下まで行ってしまうので、底が真空状態になり取れなくなってしまいます。なるべく嵩張らないように積み重ねたい一方で、コップを取ることができないと意味がありません。そのためのギリギリの隙間を作るために、この上げ底はできているのです。食堂やファミリーレストランなどでよく見かけるスタッキンググラスと同じような原理です。



紙コップは今から約100年前、アメリカで発明されました。当時運行を開始した大陸横断鉄道で、顧客に水を提供する際に、疫病被害防止の観点から作られたようです。このような工夫を凝らした形は、素晴らしい発明品であると言えるでしょう。

5. 発想力を高めるためには

発想力を高めるためには、まずは人と違うということに慣れなければなりません。発想とは、誰も考え付かなかったことを考え付く、もしくは誰も言わないことを言うということです。10人中1人になる覚悟が必要です。

次に、問いを与えることです。簡単なのは、「何でだろうね」と一緒に考えてあげることです。考えてあげるふりだけでも構いません。「また教えてね」という一言も、効果的かもしれません。子ども達は勝手に学び、色々な発想をしていきます。

そして発想には、「制限」と「自由度」の両方が必要です。例えば我が家の子ども達が持っていたおもちゃは、折り紙や紐などの、ある意味ではすごく制限があるものでした。しかし逆に、その制限は自由度にもつながります。子ども達自身で制限をどんどん取り払い、新たな遊びを作ってもらえばいいのです。

子育てには色々なパターンがあります。例えば、習い事で忙しく、自由度のない子育て(鶏舎型)もあるでしょう。我が家の子育ては放牧型で、非常に厳しい柵があります。お小遣いは少なく、おもちゃの種類も限られ、門限もあります。しかし、その柵の中では基本的に自由です。お小遣いは何に使うのか、門限まで何をしてるのかについて、親は何も言いません。そして柵も可変です。お小遣いが足りなければ、交渉すればよいのです。制限があるからこそ、それを越えようと工夫や努力が生まれます。これが放牧型の子育てです。



子どもたちに自分で調べさせ、考えさせ、決めさせて、そして失敗させてあげることができますか。人と違うことをしたことに対して褒めてあげることができますか。子どもの発想力を鍛えるためには、まずは親自身のチャレンジが必要となるのです。

※この記事は、ビジネス・ブレークスルーのコンテンツライブラリ「AirSearch」において、2017年1月20日に配信された『子育てと子どもの教育 01』を編集したものです。


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講師:三谷 宏治(みたに こうじ)
金沢工業大学虎ノ門大学院イノベーションマネジメント研究科教授
東京大学理学部物理学科卒業後、ボストンコンサルティンググループ(BCG)、アクセンチュアにて経営コンサルタントとして働く。
1992年、INSEAD MBA修了。2003年よりアクセンチュア戦略グループ統括。
2006年より、子ども、親、教員向けの教育活動に注力。
金沢工業大学虎ノ門大学院教授の他、早稲田大学ビジネススクール、女子栄養大学客員教授。放課後NPOアフタースクール、NPO法人3Keys理事。

  • <著書>
  • 『ルークの冒険~カタチのフシギ~』(実務教育出版)
  • 『戦略子育て』(東洋経済新聞社)
  • 『お手伝い至上主義!』(プレジデント社)
  • 『新しい経営学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など