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BBTインサイト 2020/04/02

子育てと子どもの教育〈 第2回 〉決める力~子どもたちの自立と幸せに向けて



講師: 三谷宏治(金沢工業大学虎ノ門大学院イノベーションマネジメント研究科教授)
編集/構成:mbaSwitch編集部




周囲との調和が重視され、職場や教育の場においても自ら決断する機会に乏しい日本社会。日本では、物事を決めることを苦手とする人が多い傾向にありますが、決める力は訓練次第で身に着けることができます。
「子育てと子どもの教育」第2回目のテーマは、「決める力」です。子どもの自立を促し、幸せな生活を送るために、「決める力」を育む教育についてお話ししていきましょう。

1.なぜ日本人は決めることができないのか

日本では、物事を決めることを苦手とする人が多い傾向にあります。なぜ決めることができないのでしょうか。

一つ目は、動機がないからです。
親や上司が決めてくれるので、そもそも決める必要がないのです。ビジネス誌を読んでいると、ホウレンソウ(報告、連絡、相談)の重要性について書かれた記事を目にします。上司が部下に対して「相談をするように」と言うことは、「自分自身で決めないように」と言っていることと同じです。

また、相談をしに来た我が子に対し、親は必ず「アドバイス」という名の答えを与えます。それは、「こうすれば反対はしないよ」という、事実上の意思決定です。このようなことを繰り返していくと、やがて子どもは、「こうしたい」ではなく、「どうしたらいいのか」と聞くだけになってしまいます。

また、お小遣いも関係します。日本では、小学校高学年で1か月に1,000円から1,500円のお小遣いをもらっている家庭が多いようです。そもそもお小遣いとは、与えられた金額の中でどのようにやりくりするのかを意思決定する練習のためにあるはずです。

しかし子どもたちが祖父母の家へ遊びに行くと、お小遣いの年収相当分の金額を1日でもらうことができます。そのお金で大抵のものは手に入れることができるので、意思決定をする動機がなくなってしまうのです。

二つ目は、物事を決めるということは、怖さを伴うからです。
親や教師は、子どもが周りと同じことをしてる時には何も言いませんが、違ったことをした瞬間に「どうしてそんなことをするの?」と詰問します。それは「してはいけない」と言っていることと同じです。また、何かを「決める」ということは、「捨てる」ということでもあります。Aという進路を選ぶことは、他の進路を捨てるということであるので、そこに「決めるのは怖い」という感情が生じてしまうのです。

そして三つ目は、物事を決めるための技(決めるための考え方や話し合いの方法)を習得する機会に乏しいからです。
そもそも、親も教師も物事を決める技をあまり知らないので、それを子どもたちに教えることもありません。最近はキャリア教育や道徳教育の一環として、私のような人間が呼ばれ、子どもたちに教えることがあります。しかし、物事を決めるということは技であるので、1日2日の講義で身につくものではありません。技とは、実際にやってみて失敗し、その経験を繰り返して初めて身につくものなのです。

2.決める力を高めるためには

決める力を高めるためには、決める必要を作らなければなりません。つまり、親や上司が決めないことであり、お小遣いの金額を絞るというようなことです。決めるのが怖いのであれば、決め事をイベント化して、楽しめるようにしてあげればよいのではないでしょうか。人と違うことをしたときには、褒めてあげればよいのです。決め方については、とにかく練習が必要です。どのようにして意思決定に至ったのか、そのプロセスを質問するのも良いでしょう。

私には娘が3人います。1番下の娘も去年大学生になり、皆家を出ていますが、娘たちは幼い頃から私の子育ての実験台となり、お小遣いも少なく大変な人生を歩んできました。娘たちが小学校低学年の頃、近所でお祭りがあるのでお小遣いが欲しいと言われ、私は3人に500円玉を1枚だけあげました。500円は3人で均等に割ることができないので、彼女達は話し合いをし、500円をどのように使うのかを決めました。

まずはリサーチです。3人で全ての屋台をリサーチしたそうです。そして、1人100円で各々好きなものを買い、残りの200円は合議制(多数決)で、買うものを決めるということにしたそうです。資源が少ないからこそ、このような工夫が生まれたのです。

3.お手伝いのすすめ

子どもにお手伝いをさせることを非常に心がけている親は、全体の12パーセント程度であるようです(2006年度新潟県長岡市調査)。なぜなら、親にとって子どもに何かお手伝いを任せるということは、より手間のかかる面倒なことだからです。忙しい中でも自分でやってしまったほうがはるかに早いのです。

しかし、実はお手伝いは色々なことに繋がっています。下のグラフをご覧下さい。
お手伝いを多くする子どもたちほど、道徳心・正義感が強く、お手伝いをしなくなっていくにつれて、道徳心・正義感も弱くなっています。お手伝いをしたので道徳心・正義感が強くなったのか、その因果関係は分かりませんが、非常に強い繋がりがあるということが分かります。

国語、算数、問題解決力を問う問題についても、明らかにお手伝いをする群のほうが点数が高く、学力とも何らか繋がっているということが分かります。また、お手伝いをやっている子どもたちのほうが、コミュニケーション力や課題解決力が高いということも分かっています。




お手伝いとは、任せることの練習です。
簡単にできるものだけでなく、少しずつ難しいものを任せていく。また指示をするのではなくて、全てを任せるということが重要です。できないのであれば、ルールを変えればよいでしょう。やらないのであれば、皆で困ればよいのです。夕食後の食器洗いというお手伝いをやっていなければ、翌朝、家族全員で困ればいいのです。親が手伝ってしまったら、そこで終わりです。手伝う余裕が親にあると思えば、子どもは2度とやりません。

例えば、子どもに洗濯物を畳むことを任せた母親が、自分の洗濯物だけたたみ直すということがあります。当然子どもは気がつき、もう2度とやらなくなってしまうでしょう。お手伝いをやってもらう際には、いつまでにやればいいという自由度も与えますが、係りとして全てを任せ、責任を負わせることが大切なのです。

4. 子育てとは人材育成プロジェクトである

子育てに関して私が皆さんにお伝えしていることは、子育てだと思わないようにしていただきたいということです。

子育てだと思うので、失敗します。子育てだと思うので、「絶対に育て上げるぞ」と完璧を目指し、転ばぬ先の杖とも言うべき沢山の保険を掛けることになります。そして子どもは転ばず、失敗もせず、失敗から学ぶことができる力を持っていたにもかかわらず、その能力さえ失ってしまうのです。そして、大人になった時に大失敗をして、苦しむことになるのです。

私は、子育てとは人材育成プロジェクトであると伝えています。プロジェクトであるので目的があります。その目的とは、偏差値でも何でもなく、「自立と幸せ」というものでしょう。期間があり予算があります。期間は20年前後、そして全て公立学校に通わせるという前提で、おおよそ予算2,000万円のプロジェクトです。その期間内に、いかに自立と幸せに向けて子どもを育成していくことができるのか。子育てとは、このような人材育成プロジェクトであると思っていただきたいと思います。

第1回の講義でも少しお話ししましたが、子どもたちの自立と幸せという目的を達成するための子育てのことを、私は「放牧型育児」と呼んでいます。放牧ですので柵がありますが、柵の中では自由です。そして子どもたちに与えるべきものは、いかにヒマにして、貧乏にして、そしてどれだけ沢山のお手伝いをさせてあげることができるのかということです。

子どもたちが自分で調べ、考えて、決めて、そして失敗することを、どれだけ経験させてあげることができるのか。それが親の責任なのではないでしょうか。その中で親に求められるものは、我慢です。子どもたちがうまくできなかったとしても、口を出さないことが重要です。

子どもたちに自分で決めさせるということは、自由にさせるということではありません。調べないもの、考えないものは却下してよいのです。しかし、自分で調べ、考えて、そして決めたことであれば、失敗するだろうと思ったとしても、受け容れてあげてください。子どもたち自身が自分で挑戦し、自分で決めていくのです。ぜひ覚悟を決めて挑んでいただきたいと思います。

※この記事は、ビジネス・ブレークスルーのコンテンツライブラリ「AirSearch」において、2017年2月17日に配信された『子育てと子どもの教育 02』を編集したものです。


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講師:三谷 宏治(みたに こうじ)
金沢工業大学虎ノ門大学院イノベーションマネジメント研究科教授
東京大学理学部物理学科卒業後、ボストンコンサルティンググループ(BCG)、アクセンチュアにて経営コンサルタントとして働く。
1992年、INSEAD MBA修了。2003年よりアクセンチュア戦略グループ統括。
2006年より、子ども、親、教員向けの教育活動に注力。
金沢工業大学虎ノ門大学院教授の他、早稲田大学ビジネススクール、女子栄養大学客員教授。放課後NPOアフタースクール、NPO法人3Keys理事。

  • <著書>
  • 『ルークの冒険~カタチのフシギ~』(実務教育出版)
  • 『戦略子育て』(東洋経済新聞社)
  • 『お手伝い至上主義!』(プレジデント社)
  • 『新しい経営学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など