業界ウォッチ 2020年4月6日

教員のちょっと気になる「米国の人員削減・人員募集計画」



執筆:谷口賢吾(BBT大学大学院 講師)

今週は「米国の人員削減・人員募集計画」を取り上げてご紹介いたします。

先日、米民間雇用調査会社のチャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスが3月の米国の人員削減状況をまとめた調査結果を発表しました。同調査によると、3月の米国の人員削減計画数は22万2288人となり、前月の約4倍へと急増しました。

人員削減の理由の多くは、やはり「新型コロナウイルス」ということで、この理由での人員削減数は14万1844人でした。

確かに、3月に入り、米国での新型コロナウイルスの影響が急激に拡大しているようです。それでは、今回の人員削減計画は、これまでの米国景気状況と比べてどの位の規模感なのでしょうか。また、人員削減の影響が大きい業種はどの業種なのでしょうか。人員削減の一方で、雇用が伸びている業界・企業はあるのでしょうか。実際に数字で確認してみたいと思います。

まず、米国の人員削減数の推移を見てみます。コロナウイルスの影響が出た第1四半期(1-3月期)の人員削減数を、1990年~2020年の間の推移で比較してみます。

1990年(1-3期、以下略)は10.7万人で、以降10~20万人の間で推移していましたが、2001年に40万人と急増しまし、02年47.8万人、03年35.6万人となっています。いわゆるドットコムバブル・ITバブル崩壊の影響だと言えます。その後人員削減数が減少していきますが、09年にはリーマンショックの影響で、56.3万人と過去最大規模の削減数となっています。以降は、20万人を下回る規模で続いていましたが、20年に新型コロナウイルスの影響で34.7万人へと急拡大しています。

一見、過去の、ドットコムバブル崩壊、リーマンショックと比較すると、今回の人員規模が小さく見えます。しかし、今回の新型コロナウイルスの影響が米国で出始めたのが3月からだということを考えると、1-3月期だけの比較を見るよりも、4月以降の状況も含めてみた方が、影響の大きさを比較する方が妥当かと思います。

次に、新型コロナウイルスの影響で人員削減数が多い業種を見てみます。最も削減数が多いのは、「娯楽・レジャー」で8.3万人、次いで「自動車」が1.2万人、「サービス」が0.84万人と続きます。やはり、「娯楽・レジャー」が突出していることが分かります。

ちなみに州別でみると、カリフォルニア州が3.97万人でトップで、ついでニューヨーク州が3.85万人となってます。娯楽産業の盛んな都市・州の影響が大きいと言えるかもしれません。

一方、新型コロナウイルスの影響で、雇用を増やす計画を発表している企業がいます。最も多く雇用する計画をしている企業はインスタカート(輸送・配送)で30万人を計画しています。次いでウォルマート(小売)が15万人、アマゾン(小売)が10万人と続きます。小売業以外では、ピザ・ハット、パパ・ジョンズ、ハングリー・ハウィーズ、ドミノズなどのピザチェーン店が上位に入っています。

こうしてみると、米国は人員削減を一気に進める一方、いわゆるネット通販・宅配、小売業などの需要が伸びる業種・企業での雇用も一気に進めようとしていることが分かります。米国の雇用の流動性・産業構造・需要の変化に合わせ、マクロ視点で見た人材の配分・転換が行われていると言えそうです。

日本では、ここまでダイナミックな雇用の構造転換は難しいかもしれませんが、国内の巣ごもり消費で、UberEatsの配達員を見かけることが多くなっています。日本でも、こうした変化をとらえることも重要なのかもしれませんね。

執筆:谷口賢吾(たにぐち けんご)

ビジネス・ブレークスルー大学、同大学院 専任講師
地域開発シンクタンクにて国の産業立地政策および地方都市の産業振興政策策定に携わる。
1998年より(株)大前・アンド・アソシエーツに参画。
2002年より(株)ビジネス・ブレークスルー、執行役員。
BBT総合研究所の責任者兼チーフ・アナリスト、「向研会」事務局長を兼ねる。
2006年よりビジネス・ブレークスルー大学院大学講師を兼任。
同秋に独立、新規事業立ち上げ支援コンサルティング、リサーチ業務に従事。

<著書>
「企業における『成功する新規事業開発』育成マニュアル」共著(日本能率協会総合研究所)
「図解「21世紀型ビジネス」のすべてがわかる本」(PHP研究所)