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BBTインサイト 2020/04/16

ビジネスプロセスマネジメント〈 第1回 〉 継続的にビジネスプロセスを変革するために必要なものとは?



講師: 山本政樹(株式会社エル・ティー・エス執行役員)
編集/構成:mbaSwitch編集部




ビジネスプロセスとは、前工程から受け取った情報や物(部品等)を何らかの処理で価値を高め、後工程に送ることを繰り返すことで、最終的に製品やサービスをお客様へ届ける一連の流れを指します。ビジネスプロセスがうまく機能していないと、様々な問題が生じてしまいます。組織の目標に向かって全体最適、かつ継続的にビジネスプロセスを変革するためには、何が必要となるのでしょうか。

本講義ではビジネスプロセス、そしてこれを最適に保つための手法であるビジネスプロセスマネジメント(BPM)を理解し、プロセス変革を推進するための知識を身に着けることを目的としています。第1回目の今回は、ビジネスプロセスの基本ということで、ビジネスプロセスとは何か、ビジネスプロセスマネジメントとは何かということをご説明したいと思います。

1.ビジネスモデルとビジネスプロセス

ビジネスプロセスを理解する前提としてまずビジネスモデルを理解する必要があります。
ビジネスモデルとは、事業の骨格となるアイディアです。

事業は、お客さまの期待に基づいてサービスや製品を提供し、対価をいただくことで成り立っています。お客さまはどのような人で、どのような期待を持っているのか、それに対してどのようなサービスや製品を提供するのか。その対価をどのように、いくらいただくのか、このようなアイディアの集合体がビジネスモデルです。

このビジネスモデルは、具体的な行程に落とし込む必要があります。と、例えば製品企画で生み出された設計情報は、部品の調達や生産につながり、物流、販売を通してお客さまへ製品やサービスが届きます。
この活動の流れがビジネスプロセスです。
企業活動は、お客さまから何らかの課題や要望、期待を受け取り、それを製品やサービスの設計に落とし込んで、それを製造し、最後は製品、サービスをお客さまに提供することで成り立っているのです。

2.ビジネスプロセスはなぜ大切なのか

ビジネスプロセスの代表的な定義として、「1種類以上のインプットを使い、顧客に価値があるアウトプットを作り出すアクティビティの集合」(Michael Hammer & James Champy、1993年)という言葉があります。

具体的には、お客さまから受け取った期待を製品やサービスで返すと、お客さまは、「もっとこうしてほしい」といった新しい期待を持ちます。場合によっては、「もっとこういったものを作ってほしい」という別の製品やサービスへの期待も生み出すこともあります。それは企業にとっては新たなビジネスプロセスを始めるインプットにもなりえます。このように、製品、サービスを生み出し、評価してもらい、また新たなものにつながっていくという価値共創のサイクルが、ビジネスプロセスなのです。

アイディアがなくてはビジネスをはじめることができないわけですから、ビジネスモデルなしでは事業は成り立ちません。
しかし、そのアイディアはプロセスに落とし込まれなければ、製品やサービスはお客さまに届かないので、当然ビジネスプロセスなしでも事業は成り立ちません。アイディアがある、それが実現される。これらは両輪であり、どちらが欠けても事業は成り立たないのです。

2017年に、テスラが市場から厳しい見方をされているというニュースが流れました。最新のモデルが当初想定していたペースで全く生産できておらず、結果的に業績に不透明感があることが背景だったようです。テスラは自動車業界において、電機自動車という観点では極めて先駆者で優れた製品サービスを世に送り出しています。しかし今後は、ビジネスプロセス、すなわち、これまで以上に高品質な製品を作り上げて滞りなく世界に供給し、その先ではアフターサービスを提供する、といったところに注力していかなければならないでしょう。テスラはまさに、そのようなフェーズに入っているかと思います。

本当の意味で一流の会社になるためには、ビジネスモデルとビジネスプロセスの交差部分、両方をきちんと行うことが必要なのです。

3.ケーススタディ:ビジネスプロセスマネジメントがされていない事例

ビジネスプロセスを適切に運営するにはどのようなことに気を付けなければならないのでしょうか。

それを理解するために一つの事例を紹介します。
これは、インターネットサービスプロバイダ(仮称:LTN社)の事例です。現在、インターネットサービスプロバイダへの新規加入者の多くは代理店経由です。よって、お客さまに直接接するのは代理店であり、LTN社はここに対してインセンティブを支払う形でパートナーシップを組んでいます。今回の事例では、LTN社のユーザーサポート部というところから、「代理店支援センター(アウトソーシングベンダーによる運営)の品質が悪い」という課題があり、これを何とかしたいという相談をいただいたことです。品質が悪いというのは、例えば代理店支援センターが対応している代理店や、この代理店を管轄している営業所からのクレームが多いということを指しています。

たくさんの問題が起きていましたが、代表的な以下の3つの問題とその原因についてご説明しましょう。

まず1つ目の問題は、営業所の説明と代理店支援センターの説明が異なるという代理店からの苦情です。

例えば4月1日から4月末日まで加入してくれたお客さまに対しては、一定期間サービス料金が割り引かれるというキャンペーンがあったとします。4月から始まるこのキャンペーンの内容について代理店がうまくお客さま、加入候補の方に答えられなかった際に、当然代理店は代理店支援センターに電話をして照会します。このような際に、代理店支援センターのオペレーターがうまく答えられなかったり、間違った返答をしてしまうことがあるということです。

この問題の原因は、センターに十分な時間的余裕をもってキャンペーン情報が届いていなかったことでした。キャンペーンを企画する営業部から発せられた情報は、ユーザーサポート部を経由してセンターに届きます。そしてセンターでは、これらのキャンペーン情報をオペレーターに教育しなければなりません。センターに届く情報はいつもキャンペーン開始前ぎりぎりで、十分な準備時間がとれなかったのです。これではセンターが上手く応対できなくても仕方がありません。

2つ目の問題は、代理店支援センターに断られた依頼事項を営業所に頼めば、なぜか承諾されるというものです。

例えば、4月中に加入したお客さまに対してのキャンペーンであるにもかかわらず、5月に加入したお客さまに対しても割引を約束してしまうといった誤ったキャンペーン案内をしてしまうことがあります。誤った案内をしてしまった代理店は、代理店支援センターに相談しますが、センター側は、ルールに照らし「できない」と回答せざるを得ません。ここで、困った代理店が営業所に相談すると、意外にも了承されるのです。

この問題の原因はユーザーサポート部門と営業部門との間の目標の違いにありました。数百万にもおよぶユーザーに対してサポートを提供するユーザーサポート部の評価指標で最も重視されることはコストです。コスト重視でルールに沿った運営をしていたセンターでは、ルール通りにお断りをします。一方で営業部門の評価は顧客獲得数と代理店満足度で決まります。ユーザーサポート部の目標に縛られる必要がない営業部門からすれば、加入してくれそうなお客様がいて、しかも懇意の代理店に頼まれた際にこれを断る理由がありません。

そして3つ目の問題は、代理店支援センターに問い合わせた事項の返答が遅いという問題です。

すぐに回答できると思われる事項が一旦保留となり、数日後に返答が戻ってくるケースも少なくないようです。

この問題の原因はセンターで判断できない事項についてのエスカレーションフローが冗長なことでした。センターは与えられた権限で判断できない事項は関係部門に問い合わせますが、営業所に何か問い合わせが必要な場合、そのルートはセンターからユーザーサポート部、ユーザーサポート部から営業部、営業部から営業所という流れになっていました。必要のない部門を経由していたため、余計な時間がかかっていたのです。

これらのどの問題も代理店支援センターの責任ではありません。ビジネスプロセス全体が不適切なことでそのしわ寄せがセンターにいっていたのです。

このような問題が長い間、解決されなかった原因を考えてみると、3つに行き着きます。1つ目はビジネスプロセスの構造を把握していないこと、2つ目は部門間のプロセス運営目標とKPI(Key Performance Indicator: 重要業績評価指標)の不一致、3つ目は社内コミュニケーションの不足です。ユーザーサポート部も営業部も自部門から見える範囲のプロセスだけで、自部門の目標に照らして物を考えていました。また、ユーザーサポート部は自部門の管轄であるにも関わらずアウトソーサーの運営である代理店支援センターの状況をしっかり把握しようともしていませんでした。お互いのことが分からないにも関わらず、このプロセスの関係者は十分な意思疎通を図っていませんでした。

この中でも特に大きな原因は「プロセス運営目標とKPI(Key Performance Indicator: 重要業績評価指標)の不一致」です。各部門のミッションは、その部門が担当しているビジネスプロセスに紐づきます。この問題を理解するために、まずはLTN社のビジネスプロセスの全体像を俯瞰してみましょう。

【LTN社のビジネスプロセスの構造】

LTN社には大きく分けて五つのプロセスがありますが、ここで着目するプロセスは二つです。
「ユーザー獲得プロセス」は営業戦略を立案し、代理店を開拓し、代理店を支援することで、自社のインターネット接続サービスへの加入者(ユーザー)を増やすプロセスです。「ユーザーサポートプロセス」は加入者の加入手続きを行い、サービス利用上の不明点や問題に対応すると共に、住所変更やサービスの解約、オプションサービスの申し込み対応といった加入者への付帯サービス全般の手続きを担います。この二つのプロセスを、より細かいプロセスに分解した上で、二つの部の役割分担をかぶせてみます。

【営業部とユーザーサポート部の管轄範囲】

ユーザー獲得プロセスに属する代理店獲得・支援のサブプロセスのうち、代理店問い合わせ対応、つまり代理店支援センターだけがユーザーサポート部の担当となっています。代理店支援センターはその本来の役割を十分に考慮されず「コンタクトセンター」というキーワードだけでユーザーサポート部の管轄となっていました。そしてユーザーサポート部は代理店支援センターの目標を理解しないまま、ユーザーサポートプロセスの目標でセンターを運営していました。これが今回の問題の根本的な原因のです。

これらの原因が見えてきたので、大きな施策として役割分担を変更しました。具体的には、代理店支援センターを営業プロセスの一部と見て営業所に移した上で、代理店支援のプロセスを確認する課を新設しました。その課のミッションに基づき、センターの役割や仕事の仕方を見直していった結果、その後は全く問題が起きない素晴らしいセンターになりました。

4.ビジネスプロセスを最適に保つ3つの要素

この事例を通して、ビジネスプロセスを最適に保つためには、以下の3つの要素が非常に重要であることが分かります。

・プロセスの構造理解
プロセスの構造理解で登場する代表的なテクニックが「業務フロー」です。この事例でも業務フローを通してさまざまな問題を分析しました。但し、業務フローはプロセスの構造を示す上で、ごく一部だけを表現する書式です。実際には、他にもプロセスの構造を理解するためのたくさんの手法があることには注意が必要です。

・目標と実績の管理
プロセスの構造が理解できても、それをどのように変えていくかというのは、プロセスの目標に依存します。例えば、このプロセスはもっとコストを削減すべきなのか、あるいは、コストをかけてでももっとサービスレベルを上げるべきなのか、というのは、そのプロセスの目標に依存します。プロセスの目標は何なのか、その目標に対して実績はうまくいってるのか、をきちんと管理することが重要なのです。

・社内コミュニケーション
プロセスの構築実行にはたくさんの人が関わります。この人たちに納得してもらわなければ、どんなによいプロセスを作っても実行されず、効果も出ないということになってしまいます。

5.ビジネスプロセスマネジメント(BPM)とは

ビジネスプロセスとは、ビジネスのアイディアであるビジネスモデルを実行力に転換したものとご説明をしてきました。

この実行力の中をPDCAのサイクルで表現してみましょう。ビジネスモデルからアイディアを受け取り、これをビジネスプロセスとして構築をする。そしてそれを実行する。この実行の過程で初めて製品やサービスがお客さまに届きます。実行した結果をきちんと分析し、評価する。

例えば、品質はどうだったのか、リードタイムを守れたのか、コストはいくらかかったのか、これらのようなものが評価対象になるわけです。この評価結果をきちんとプロセスにフィードバックをして改良していく。このPDCAのサイクルを回すことによって、プロセスはどんどん洗練をされていくという流れを取ります。

そこに先ほどの3つの要素、
①プロセス構築改良時に構造を把握していること
②実行された結果をきちんと目標に照らして実績を管理して評価すること
③評価結果を踏まえ、社内の関係者を巻き込んでプロセスの在り方をしっかり検討すること
というのが重要になるのです。

これら3つの要素をしっかりと意識しながらビジネスプロセスのPDCAのサイクルを回します。
その結果、組織の目標に対してプロセスが常に全体的かつ継続的に最適化されます。このようなサイクルを回すための手法が、ビジネスプロセスマネジメントです。ビジネスプロセスマネジメントはより細かい手法たちの集合体であり、業務フローの書き方も1つの手法ですし、KPIの設定の仕方も1つの考え方です。そしてKPIの設定の仕方の中にも様々な手法があります。

第二回目からはビジネスプロセスマネジメントに含まれるさまざまな手法や観点を細かく解説していきます。

※この記事は、ビジネス・ブレークスルーのコンテンツライブラリ「AirSearch」において、2017年12月15日に配信された『ビジネスプロセスマネジメント 01』を編集したものです


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山本政樹(やまもと まさき)
株式会社エル・ティー・エス執行役員
立命館大学政策科学部卒業後、アクセンチュアにてビジネスプロセスコンサルティングに従事、フリーコンサルタントを経てLTSに入社。
情報システム開発におけるプロセス設計や現場展開、ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)の導入など、ビジネスプロセス変革案件を中心に手掛け、現在はビジネスプロセスマネジメント及びビジネスアナリシスの手法や人材育成に関する啓蒙を中心に活動。

  • <著書>
  • 『サービスサイエンスによる顧客共創型ITビジネス』(共著・翔泳社)
  • 『ビジネスプロセスの教科書』(東洋経済新聞社)など