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編集部posts 2020/05/01

いいオンライン学習の選び方<第3回>「知っている」だけでは大したことはない



執筆:北憲祐(ビジネス・ブレークスルー大学院教務部 部門長)
編集/構成:mbaSwitch編集部

皆さん、こんにちは。
ビジネス・ブレークスルー大学院教務部の北憲祐です。

さて今回が全3回の最終回になります。前回・前々回ではオンライン学習に必要な3大要素について述べてきましたが、最終回の今回は「学習目標のレベル」について述べたいと思います。

「知っている」だけでは大したことはない

「MBAホルダーはフレームワークや理論には詳しいが一般論や理想論ばかりで実際のビジネスでは使えない」という声をよく聞きます。MBA課程を修了されているのですから、マーケティングや経営戦略、ファイナンスや組織人事などビジネスマネジメントに必要な分野は概ね学んでいるにも関わらず、なぜそう言われるMBAホルダーが多くいるのでしょうか?

その理由の一つとして、私は「学習目標のレベル」が誤っていた、ということがあると思っています。

「色々なことを知っている人」=「優秀な人」とついつい思ってしまう方は多いのではないかと思います。しかし、この「知っている」というのは、実は教育目標としては一番低いレベルなのです。以下の図はベンジャミン・ブルームという教育心理学者が作ったBloom’s Taxonomyをベースに、2001年に発表された改訂版の教育目標分類です。

ご覧の通り、この分類によると「記憶する(Remember)」や「理解する(Understand)」といった「知っている」に関するものは下の階層に位置付けられており、その上には、実際のビジネスの現場に適用する「応用する(Apply)」や、比較などを通して関係性を明らかにする「分析する(Analyze)」、判断し意思決定する「評価する(Evaluate)」、更には新しいものを作り出す「創造する(Create)」の4つが存在します。

先ほどの「フレームワークや理論には詳しいが一般論や理想論ばかりで実際のビジネスでは使えないMBAホルダー」といわれる方は、おそらく「記憶する(Remember)」や「理解する(Understand)」レベルで学習が終わっていた方なのではないかと思います。

なぜそのレベルで学習が終わったかという理由については、本人に起因することを含め色々な理由があるかと思いますが、一つ考えられることはクラスでのディスカッションを通してのアウトプット不足があると考えます。

昨今、反転授業(Flipped Classroom)という授業形態をとる学校が増えています。
反転授業とは、授業の後に宿題が出されていた従来型の授業形態を反転させ、授業前に教材を用いて課題を行い、その後授業においてはクラスのディスカッション等を通してより高度な問題解決課題に取り組む授業形態を指します。

MBAでいうと、ハーバード大学などでは授業はディスカッション中心に行われ、学生は授業参加前にテキストなどを熟読しておく必要があるという話をよく聞きますが、そういったイメージで行われる授業ですね。

この反転授業(Flipped Classroom)と学習目標の関係性についてメルボルン大学のクリスティーン・エリオットが述べているのですが、従来型の授業形態だとクラスでは知識の習得のみ(RememberとUnderstand)に留まってしまうのに対し、反転授業(Flipped Classroom)の場合は知識の習得(RememberとUnderstand)は授業前に済んでいるため、クラス内ではディスカッションやグループワーク等を通して更に高度なレベル(Apply~Create)を目指すことができます。

つまりMBA課程でマネジメントに関する幅広い分野を学んでいたとしても、授業が講義による知識習得が中心であった場合は、高いレベルの能力を身に付けるための学習機会を十分に設けることができておらず、高度な能力を身に付けるには学習者本人の相当の努力と意識の高さが必要になってくるということなのです。

少しビジネスのことを学んでみようとか、自分自身の見識を広めるために自己啓発として勉強してみよう、という方であれば「記憶する(Remember)」「理解する(Understand)」のレベルでも問題はないかと思いますが、MBA課程で学ぶ方はビジネスにおいて活用できる実践的スキルの習得を目指されている方が多いと思いますので、「創造する(Create)」レベルを目指して学んで頂きたいですし、学校もそれを実現できるようなカリキュラム作りをするべきだと思います。

論理的思考力の鍛錬には文字ベースのディスカッションが良い

さてこの3回を通してアウトプットやディスカッションの重要性について多く述べてきましたが、最後にディスカッションの形態とその効果についてお話したいと思います。

オンライン学習においては大きく2種類のディスカッションの形態があります。
1つはZoom等遠隔会議システムを用いた映像と音声によるディスカッション。もう1つはメールやチャットのような文字ベースの非同期型のディスカッションです。おそらく多くの方はオンライン学習というと前者の映像と音声を用いたディスカッションを想像され、後者の文字でのディスカッションはあまり馴染みがないのではないかと思います。もしくはしっかりと学習できないのではないかと思われている方もいるかもしれません。

実は文字ベースのディスカッションについては古くから研究されています。
カナダの遠隔教育の研究者であるランディ・ギャリソンらによると、文章にすることでアイデアは自然と深く考察され明確になり、その過程を経ることで人の思考力やコミュニケーション力は鍛錬されることから、文字ベースのディスカッションとクリティカル・シンキングは非常に密接な関係があると多くの文献で報告されています。

また、複雑かつ深い思考力が必要な問題に対しては、対面での口頭の議論より、文字ベースのディスカッションの方が適しているともいわれています。更に、前回紹介した書籍『Learn Better -頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』(アーリック・ボーザー著/英治出版)のなかでも、書くという行為は自分の考えを整理したり評価したりするというメタ認知的な問いかけを自分にすることになる、とも述べられています。

これは皆さんもイメージがつくのではないでしょうか?
例えばお仕事の中でアイデアや事業計画を報告書や提案書に落とし込む過程で考えが整理されたり、またメールを書いたりすることで、論点や相手への依頼事項などが明確になっていく、など経験されたことはないでしょうか。

また、文字ベースのディスカッションの場合、アウトプットとインプットを効率的かつ大量にできるという利点もあります。

例えば90分の授業のなかで30人のクラスメイトが口頭で発表をした場合、1人3分話すだけで90分の授業が終わってしまいます。一方、「読む」ことは「聞く」ことの3倍の情報を処理できるとも言われていますので、文字ベースのディスカッションの場合、インプットの時間を1/3に短縮することができます。そしてその分を自身のアウトプットに費やすことができるため、以下の図の通り20倍以上のアウトプットが可能になります。

更に、自分自身のアウトプットの量が増えるのと同様に他のクラスメイト全員のアウトプットの量も増え、加えて自分のアウトプットに対するクラスメイトからの意見やフィードバックも多く得られることになりますので、第1回でお話しした学びを深める『きっかけ(Triggering Event)』が多く生まれることになります。

一方、ネゴシエーションや会議でのファシリテーション、プレゼンテーションなどに必要な瞬発的なコミュニケーション能力等、文字ベースのディスカッションだけでは習得が難しいスキルもあります。

そのため、映像と音声でのディスカッションで学ぶ方が向いているのか、それとも文字ベースのディスカッションで学ぶ方が向いているのか考えたうえで、ご自身の学習の目的に適したオンライン学習プログラムを選ぶことが重要です。

最後に

今回の新型コロナウィルス感染症拡大に伴い、世界の経済情勢や企業活動、個人としての働き方や生き方が大きく変わっています。
また、なかなか進んでいなかったDX(デジタルトランスフォーメーション)も予想していなかった形で大きく進展してきています。この変革の流れは新型コロナウィルス感染症が収束した後も続き、昭和だけでなく平成での成功モデルも通用しなくなる時代が到来することは確実だと私は思います。

是非、皆さんもこのVUCAの時代で生き残り、また自分の想いを実現するための志や能力を、教育を通じて獲得していただければと思います。

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北 憲祐(きたけんすけ)

ビジネス・ブレークスルー大学大学院教務部 部長
関西学院大学商学部卒業。リーズ大学MBA修了。大手損害保険会社の営業、大阪の私立大学のオープンイノベーション推進担当を経て2016年に㈱ビジネス・ブレークスルーに入社。ビジネス・ブレークスルー大学大学院及びBOND University-BBT Global Leadership MBA Programのカリキュラム開発、受講生の学習及び学生生活支援、学校経営・ガバナンス等の業務に従事。