執筆者:PEGL事務局清水
これまでも何度かご紹介しているスティーブ・ジョブズ氏のプレゼン術ですが、今回は米Apple社が2005年10月12日、米カリフォルニア州のサンホセに位置するカリフォルニア劇場で、デスクトップPCであるiMac、新しい携帯用メディアプレーヤーであるiPod、そして音楽、写真、動画をダウンロードできるiTunesの新しいバージョンを発表した「Special Event」の場面を例にご紹介します。
そのイベントで米Apple社の当時のCEO(最高経営責任者)のスティーブ・ジョブズ氏が基調講演しています。韓国のプレゼンテーション教育コンサルタントのキム・キョンテ氏は、「一度視聴するだけでも価値がある」として本プレゼンを絶賛しています。
そして同プレゼンの進行順番にしたがってオープニングからクロージングまでを解説して1冊の本にまとめました。『スティーブ・ジョブズのプレゼン技術を学ぶ本』(こう書房)がその本です。今回は、スティーブ・ジョブズ氏がプレゼンの冒頭部分で使っているテクニックを、同書から具体的に見てみましょう。
今朝、みなさんにお見せする驚くべきものを準備しました。
すべての古典名作のように、今回のプレゼンテーションも3幕で構成しました。
それでは、何から始めましょうか。
第1幕、iMacです。”
時間にして1時間を超える、長いプレゼンの始まりです。
ジョブズ氏はスタートの段階でプレゼンに対する聴衆の関心と期待感を呼び起こし、雰囲気を明るく好意的なものにするため、最初の1分間で次のようなアピールをしているのだとキム氏は分析します。
ラ・トラビアータ、リゴレット、タンホイザーのような古典名作オペラは、全3幕で構成されています。同じく“3幕”で構成したジョブズ氏のプレゼンが、オペラの古典名作と同等、聞く価値があることをアピールしています。
会場となっているカリフォルニア劇場ではオペラも上演するのでしょう。「古典名作並みにおもしろい話を今からプレゼンテーションしますよ」ということを聴衆にアピールして、聴衆の注意をひきつけているわけです。次のような3段論法が背後にあるとキム氏は指摘します。
ジョブズ氏は、自分のプレゼンが古典名作に匹敵するくらい水準が高くて有用なものであるという自信があるからこそ、「古典名作」を引き合いに出しているのでしょう。聴衆は「会場(カリフォルニア劇場)に合わせて、うまいこと言うな」と感心するとともに、「どんな素晴らしいプレゼンが始まるのか」と、プレゼンに興味を向かせるわけです。
ジョブズ氏はまず、iMacの製品力を物語るのにわかりやすい販売実績を話します。
iMacはすごいコンピュータです。
今から約1年前、私たちは第3世代iMacを発売しました。
発売した年に100万台以上のiMacを販売したという嬉しいニュースをみなさんにお知らせします。私たちはとても鼓舞されています。”
プレゼンを準備する段階から、あるテーマの「大きな絵」が何かについて考えて、それをどのようにして分かりやすく簡潔に伝えたら良いか、聴衆に与えるべき印象について考えるべきであるとキム氏は言います。今日は100万台売った第3世代iMacよりもいい製品を見せようとしています。そのために聴衆の期待度はさらにアップします。第3世代の写真すらプレゼンには登場させないのも計算のうえでしょう。
また、iMacは素晴らしいコンピューターです。
最高のデスクトップの構造を持っているコンピューターです。
私たちが大きくて平たいディスプレーのモニターを持っているなら、コンピューターのほかの装置を置く場所はディプレーの後ろよりいいところはないでしょう。
私たちは、オプティカルドライブ、ハードディスクドライブ、パワーサプライなど、すべての装置を素敵でコンパクトなパッケージとして作り、ディスプレーモニターの後ろに入れました。
そして、このすべてが美しく洗練されたスタンドの上に乗っています。”
ジョブズ氏はiMacを「最高のデスクトップの構造を持っているコンピューター」と一言で明快に定義します。
続いて、様々な例を挙げながらiMacがなぜ最高のデスクトップコンピューターであるのかを説明します。つまり、大きな絵から始めて、細部に言及してゆきます。New iMacは液晶ディスプレイと本体が一体型のデスクトップコンピューターです。これが、コンピュータの細部の仕様を説明する前に、外見を見るだけで誰もが感じることができるiMacならではの長所です。つまり大きな絵です。
いかがでしたでしょうか。
私も、みなさんと同じようにスティーブ・ジョブズ氏のプレゼンテーションに魅了されるひとりですが、「具体的にどの部分が?」と聞かれるとうまく答えることは難しいです。プレゼンの専門家が分析した解説書があると、いろいろなテクニックが存在し使われていることが具体的に分かるので、「プレゼンのここが素晴らしい」というポイントが具体化してきます。
解説書を片手にプレゼン動画を視聴すると気づきが多く見つかるでしょう。
無料動画を数多くYouTubeで視聴でき、紹介したような解説書籍の類書が多いスティーブ・ジョブズ氏はプレゼンのお手本にしやすいので、おすすめです。みなさんも次回、日本語や英語でプレゼンを行う際に、改めて彼のテクニックを参考にしてみてはいかがでしょうか。
【参考】『スティーブ・ジョブズのプレゼン技術を学ぶ本』pp.11-41(最終アクセス:2019年7月3日)
http://www.amazon.co.jp/dp/4769610483