大前研一メソッド 2020年5月25日

「オンライン学習関連銘柄」としてのBBTの実力を大前研一氏に聞く



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、萩生田光一文部科学相が「地域の学校で感染者が出た場合は、感染者がいない学校も含め地域全体で臨時休校とする」との考えを2020年2月に示したことで、5月まで全国の多くの学校が休校を余儀なくされていました。

そうした中、株式市場では「オンライン学習関連銘柄」と呼ばれる会社の業績が上向くとの思惑から株価が急騰する場面がありました。

BBT(ビジネス・ブレークスルー)も株式市場で物色された「オンライン学習銘柄」の一角です。BBTが手掛ける(1)小中高、(2)大学・大学院、(3)企業研修のそれぞれについての状況をBBT大学院・大前研一学長に聞きました。

小中高:オンラインに切り替えて通常授業を継続、休校せずにカリキュラムを順調に消化

安倍晋三首相の休校要請を受けて、20年3月2日から全国の小中高校、特別支援学校の大部分は一斉休校に入った。20年4月の新学期から再開できた学校は全国の約4割。20年4月7日の緊急事態宣言以降、対象になった7都府県ではほとんどの学校が休校を延長し、対象外の地域でも休校する学校が多くなっている。

私はアオバジャパン・インターナショナルスクールという3歳から19歳まで一貫教育を行う学校の運営にも携わっている。同校は国際バカロレア(IB。世界的な教育認証制度。グローバル人材を養成する独自の教育プログラムを提供している)の認定校であり、IBの厳しい基準をクリアした教授陣が揃っている。

安倍首相の休校要請に対して、我々は休校せずにオンライン対応で授業を継続することを決断した。生徒は自宅で朝8時30分から昼過ぎの1時半または3時頃までオンラインで授業に視聴参加。途中、トイレ休憩もある。先生方は学校や自宅で授業を行う。ITリテラシーにも秀でた人材ばかりだから、技術的な問題はまったくない。

とはいえ、対面授業と遠隔授業では勝手が違う。当初は戸惑いもあっただろう。毎週月曜日に約70人の教授全員がテレビ会議で集まってその週の指導方針を決めて、金曜日の会議で結果を報告、反省を交えながら情報を共有する。これを繰り返していくうちに教授たちの顔つきはみるみる明るくなって、今や自信に満ちた表情をしている。

長引く休校に教育現場や家庭では混乱や不安が広がっているが、アオバジャパン・インターナショナルスクールでは順調にカリキュラムを消化できている。生徒や保護者の反応も上々だ。20年6月中旬には今学期が終了し、夏休みを挟んで20年9月から新年度がスタートする。先が見通せない状況が続く中、このままの体制で20年6月まで突っ走ることになっても十分対応できるだろう。

大学・大学院:モニター越しに授業に参加する生徒の集中力を切らさないなどで15年の実績

大学教育もまた否が応でも変革を迫られている。全国の8割以上の大学が新学期からの授業を延期、対面授業からネットを活用したオンライン授業への切り替えを模索する大学が増えている。しかし、オンライン化するためには相応のインフラ、ITリテラシーなどの環境整備が必要で、時間もコストもかかる。

また、モニター越しに授業に参加する生徒の集中力を切らさないためにはどうするべきか。我々は2005年に文部科学省の認可を受けて以来、長年にわたって実験を重ねてきた。パワーポイントや手書きで作った資料を事前に用意して、それらを使いながら説明するといった工夫は当然のこと。BBTの授業では担当講師プラス、キャスターを1人置いてスタジオで丁寧にコンテンツを作っている。

キャスターは視聴者代表の立場で「それはどういうことですか?」と問い掛けたり(質問はオンラインで受け付けている)、「こういうことなんですね」などと話をとりまとめて、講師との掛け合いで授業が進行していく。むさ苦しい中年講師が1人でボソボソと講義していたら、授業に抑揚がつかない。授業のコンテンツはもちろん、目を引きつける工夫や仕掛けが必要なのだ。

BBTでは「AirCampus®」という遠隔教育システムを独自開発して改良を重ねてきた。パソコン、スマホ、タブレット端末に対応していて、ブロードバンド環境さえあれば世界中どこからでも授業が受けられる。ライブの講義に加えてアーカイブのコンテンツは1万時間以上あるから、自分の好きなタイミングで学習できる。おかげで今やBBTの受講生の7割が通勤時間帯などにスマホで授業を受けている。

AirCampus®は講義を視聴しているかどうか出席確認(認証)する機能やディスカッション(クラス討論)機能を備えている。BBTでは1時間の講義の後、AirCampus®を通じてクラスメート同士で活発なディスカッションが行われる。卒業生が「ラーニングアドバイザー」として参加して議論の交通整理をしながら、次の講義までの1週間、意見を戦わせるのだ。サイバー社会で発言しない人は存在しないに等しい。我々はディスカッションにおける貢献度(発言数など)もチェックして成績に反映させている。

オンライン授業はインタラクティブ(対話、双方向)性がきわめて重要で、先生の授業ばかりではなく、世界中にいる(性別はもとより年齢、業種、地理的な場所が異なる)同級生との議論から学ぶことが実に多い。

企業研修:集合研修一辺倒を、オンライン研修に切り替える兆し

このように我々はサイバー教育にどこよりも早くから取り組み、経験と実績を積み重ねてきたのだが、難攻不落だったのが企業の集合研修だった。22年前にBBTを設立した当時から、「グローバル化で世界中にスタッフが散らばっている時代に集合研修はありえない。研修をオンライン化すべし」ということで売り込んだが、日本企業の集合研修文化は岩盤規制並みに手強かった。人事部の教育係は皆を目の前に集めてやらないと自分たちの功績・実績にならないと信じ込んでいたからだ。

ところが新型コロナウイルスの感染防止対策が火急の用になってから、集合研修は感染リスクが高い濃厚接触に当たると認識されたらしく、BBTに企業から問い合わせと注文が殺到している。

新型コロナの影響で企業研修の機会が失われることは、日本経済にとって人材面でも大きな打撃になりかねない。オンライン研修はテレワークとの相性もいい。もちろん定期的な学び直しである“リカレント教育”とも相性がいい。企業社会が率先してオンライン化を進めることが、障害の多い教育現場のオンライン化を促すことにもつながると思う。

※この記事は、『プレジデント』誌 2020年5月29日号 を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセッツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。