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大前研一メソッド 2020/06/08

病院の前に立地する院外薬局を、Amazonが脅かす日は近い?



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

新型コロナウイルス感染症が拡大する中、感染拡大を予防し、医療崩壊を防ぐための特別措置として、感染が収束するまでの期間に限定して、初診患者へのオンライン診療が公的医療保険の対象になりました。オンライン診療を受けた場合、薬の処方や受け取りはどうなるのでしょうか。

今回の「コロナ特例」では、処方された薬を自宅に送ってもらうことも初診から可能になっています。初診患者へのオンライン診療や薬の処方や受け取りは時限的な措置にとどまって、コロナが収束した後、昔のように戻るかというと、「そうは思わない」というのがBBT大学院・大前研一学長の見方です。有用性が広く認知されることにより、門戸が開くことを期待すると言います。

薬の処方と受け取りに焦点を当てて、大前学長に聞いてみました。

【資料】新型コロナウイルス感染症患者の増加に際しての電話や情報通信機器を用いた診療や処方箋の取扱いについて
https://ikpdi.com/covid-19-2020-02-28/(最終アクセス2020年6月8日)

「コロナ特例」で処方された薬を自宅に送ってもらうことが初診から可能に

薬は医師が書いた処方せんに則って調剤される。処方には病院の中で薬が処方される「院内処方」と、病院が発行する処方せんを調剤薬局に持ち込んで薬を受け取る「院外処方」がある。

最近は院外処方が圧倒的に多い。院外処方にすれば、病院としては薬剤師を雇わずに済むし、院内に薬局用のスペースを設けたり、薬の在庫を持つ必要もなくなるからだ。

病院と院外薬局の蜜月関係もある。病院前にある院外薬局は「門前薬局」とも呼ばれるが、病院と裏でつながっていることが多い。病院はキックバックをもらったり、接待を受けている、という指摘もある。

さて、今回の「コロナ特例」では、薬剤師による電話などでの服薬指導も解禁された。処方された薬を自宅に送ってもらうことも初診から可能になった。

院外処方の場合でいえば、オンライン診療を受けた後に処方せんの原本が自宅などに送られてきて、それを持って調剤薬局に行って薬を処方してもらう、というのがこれまでの手順だった。「医師は患者に処方せんの原本を提供しなければならない」という決まりがあるからだ。

しかし今回の特例では、オンライン診療を受けた患者の希望する薬局に病院がファクシミリなどで処方せんの情報を送って、それに基づいて薬局が薬を調剤できるようになった。薬ができたら薬局は患者に電話などで連絡を入れて、服薬指導が必要な場合はそれを行ってから、郵送などで薬を送付する。患者はわざわざ薬局に出向かなくていいのだ。

処方せんの原本は、病院と薬局の間でやりとりしてまとめて保管しておく。会計は後日に来局して支払ったり、代金引き換えやクレジットカードなども利用できる。

これもあくまで新型コロナウイルス感染症の流行が収まるまでの特例措置だが、気が気でないのは門前薬局だろう。こうした院外処方が定着して身近な薬局に処方せん情報を送ってもらいたいという患者が増えたら、高い地代や高いコミッションを支払って病院のそばで薬局を経営する“うまみ”がなくなるからだ。

米国ではAmazonが薬を届けてくれる

米国サンフランシスコに「プラクティス・フュージョン」という電子カルテを管理するクラウドサービスを無料で提供している新興企業がある。この会社は全米の開業医に声を掛けて、約15万の開業医と提携した。開業医が高額な電子カルテのシステムを導入するのは厳しい。それがタダで使えるのだから、開業医がこぞって導入するのも当然だ。

プラクティス・フュージョンがどこから収益を得ているかといえば、薬を売る側である。同社の電子カルテシステムを使えば、患者のスマホに診療データや処方せんが送られてくる。必要な薬が近場のどのドラッグストアで売っているかまで表示されるのだ。

今やプラクティス・フュージョンのシステムは総合医療の巨大プラットフォームとなり、米国の医療システムは激変した。

これに目を付けたのがAmazonである。Amazonは2018年に「ピルパック」という新興のオンライン薬局を買収した。米国は今やプラクティス・フュージョンから引き出した処方せんをAmazonに転送するだけで薬が届く時代になっているのだ。しかも月10ドル払ってアマゾンプライム会員になれば配送無料。月に何度でもOK。さらに「当日お急ぎ便」や「日時指定便」といったサービスまで無料とくれば、ユーザーが殺到しないわけがない。

日本薬剤師会が一番恐れているのは、Amazonが日本でも薬の流通に入り込んでくることだろう。もちろん既得権益と規制の壁は相当に高く、容易には入り込めない。それでも今回のコロナ禍によって、世界から遅れに遅れた日本の医療システムに小さな風穴が開いたのは確かだ。

コロナ危機が日本医療システムに与えた数少ないプラスの貢献、と2020年を振り返る日が来ることを期待しよう。

※この記事は、『プレジデント』誌 2020年6月12日号を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。