業界ウォッチ 2020年6月8日

教員のちょっと気になる「ビデオ会議アプリ市場」



執筆:谷口賢吾(BBT大学大学院 講師)

今週は「ビデオ会議アプリ市場」を取り上げてご紹介いたします。

先日ビデオ会議アプリのZoomの2021年第1四半期(2020年2月~4月期)の売上が発表されました。売上高3.28億ドルと前年同期比約2.7倍に急拡大しています。

新型コロナの影響で、在宅勤務・テレワークが広まったこともあり、すっかりビデオ会議アプリの利用が定着した感があります。場合よっては、毎日ビデオ会議ツールを使っているという人もいるのではないでしょうか。

特に、ビデオ会議ツールの中では、Zoomの人気が高いようです。4月上旬頃セキュリティ問題が指摘されたものの、その後すぐにセキュリティ強化策を打ち出すなどしたこともあり、大きくユーザーを失うことなく、業績を伸ばしています。

このほかに、企業向けではマイクロソフトのTeamsや、シスコシステムズのWebExなど利用が伸びているようです。グーグルも従来のサービスだけでなく個人向けにビデオ会議ツールを強化しており、Facebookもビデオ会議機能を公表するなど、競争の激しい市場となってきています。

確かに、ビデオ会議ツールが広まっているのは分かりますが、実際にどのくらいの伸びを示しているのでしょうか。チャットツールなどのビジネスアプリと比較するとどの位の違いがあるのでしょうか。Zoomの売り上げの伸びは、こうした市場の伸びと比べるとどの位なのでしょうか。実際に数字を見て確認したいと思います。

まずZoomの売上高推移を見てみます。四半期推移でみると2018年4月期が6000万ドルでしたが、そこから増加トレンドで20年1月期には1.88億ドルにまで拡大しています。その後、新型コロナの影響もあり、急激な伸びを見せ20年4月期に3.28億ドルとなっています。

次に、世界のビデオ会議アプリの週間ダウンロード数の推移を見てみます。19年の10月上旬は週480万回程度で、以降ほぼ横ばいで推移していましたが、20年2月に入り700万回台へと拡大し、3月以降は急拡大し4月には5000万回を超える水準に拡大しています。

その次に、ビデオ会議アプリと同様、テレワーク等で用いられるチャットツールなどのビジネスアプリの週間ダウンロード数を見てみます。こちらは、19年10月ごろから概ね3000万回台で横ばいで推移していましたが、20年2月から4000万回台へと伸び、3月以降は急拡大し4月以降は8000万回前後で推移しています。

こうしてみると、ビデオ会議アプリダウンロード数の伸びは、ビジネスアプリの伸びよりも急速であることが分かります。ビジネスアプリが20年2月から4月にかけて2倍近くに拡大しているのに対し、ビデオ会議アプリ2月は7倍強の伸びとなっています。

その意味では、Zoomの売上が、20年1月期から、20年4月期で1.7倍の伸びにとどまっているとみることができます。Zoomの無料ユーザー数の伸びが大きく、有料ユーザーがそこまで伸びていないとも言えそうです。Zoomのマネタイズ、ビジネスモデルを見直すと、もっと収益を拡大させることができるのかもしれません。

ユーザー拡大、市場の拡大をいかに収益につなげていくのか、マネタイズ、ビジネスモデルの知恵の見せ所とも言えそうです。

執筆:谷口賢吾(たにぐち けんご)

ビジネス・ブレークスルー大学、同大学院 専任講師
地域開発シンクタンクにて国の産業立地政策および地方都市の産業振興政策策定に携わる。
1998年より(株)大前・アンド・アソシエーツに参画。
2002年より(株)ビジネス・ブレークスルー、執行役員。
BBT総合研究所の責任者兼チーフ・アナリスト、「向研会」事務局長を兼ねる。
2006年よりビジネス・ブレークスルー大学院大学講師を兼任。
同秋に独立、新規事業立ち上げ支援コンサルティング、リサーチ業務に従事。

<著書>
「企業における『成功する新規事業開発』育成マニュアル」共著(日本能率協会総合研究所)
「図解「21世紀型ビジネス」のすべてがわかる本」(PHP研究所)