業界ウォッチ 2020年6月15日

教員のちょっと気になる「サイバー保険市場」



執筆:谷口賢吾(BBT大学大学院 講師)

今週は「サイバー保険市場」を取り上げてご紹介いたします。

ウイルスといえば、人体に影響を与える新型コロナのようなウイルスだけでなく、コンピュータ機器に影響を与えるウイルスもあります。近年は、サイバー攻撃などが多様化しており、こうしたコンピュータウイルス等に対するセキュリティ対策の重要性も高まっています。特に、最近でいえば在宅勤務・テレワークの増加によって、それを狙ったサイバー攻撃も増えているようです。

こうした中、サイバー攻撃リスクへの対応策の一環として、「サイバー保険」への関心も高まっているようです。

確かに、サイバー攻撃リスクへの対策として、セキュリティソフトなどの対策が一般的なイメージですが、サイバー被害・損害金額に対する備えとしての保険もビジネスとして成り立つことが考えられます。

それでは、サイバー保険の市場はどの位の規模感で、どの位の伸びが予想されているのでしょうか。サイバーセキュリティ対策と比べたらどのくらい違うのでしょうか。サイバー保険を提供する会社はどんな会社でどの位のサイバー保険を取り扱っているのでしょうか。実際に数字を見て確認したいと思います。

まず世界のサイバー保険の市場規模を見てみます。ドイツの再保険会社、Munich Reによると、2015年は約25億ドルでしたが、そこから増加トレンドで19年には約50億ドル、20年には80億ドルへと拡大することが予想されています。そこからさらに5年後の25年には約200億ドルと5年で2倍以上に拡大することが予想されています。

次に、サイバーセキュリティ対策と、サイバー保険の市場規模の比較をしてみます。サイバーセキュリティ対策は、15年は756億ドルでしたが、そこから増加トレンドで18年~19年にかけて急拡大し、20年には約1240億ドルとなっています。一方、サイバー保険市場は、100億ドル満たない規模で推移しており、20年で80億ドル規模なので、約15倍の差があることが分かります。

次に、サイバー保険(米国市場)の主な会社のサイバー保険取扱高を見ると、最も取扱高が大きいのはスイスChubbで3.2億ドル、次いで仏AXA US(2.5億ドル)、米AIG(2.3億ドル)、米トラベラーズ(1.3億ドル)と続きます。

これら主要企業の内、元受け保険料総額に占める、サイバー保険料の割合を見ると、最もサイバー保険料の割合が高いのは英Beazleyで32.9%、次いで米BCSの18.9%となっています。この他の保険会社は、サイバー保険の割合が概ね5%未満となっており、サイバー保険の取り扱いのウェイトが低いことが分かります。

こうしてみると、サイバー保険は、今後の成長が予想される市場ではあるものの、サイバーセキュリティ市場全体と比較すると、まだ小さい市場であることが分かります。また、大手(損害)保険会社も、まだそこまで本格的にサイバー保険取り扱っているとは言えない状況であることも分かります。

その一方で、米国等ではサイバー保険専門のスタートアップも登場しており、資金調達をするなど、注目を集めているようです。ニッチな市場といえるかもしれませんが、こうした世の中の変化を捉えたてスピーディに新規ビジネスを立ち上げる欧米企業・欧米スタートアップには見習うところが多くありそうです。

執筆:谷口賢吾(たにぐち けんご)

ビジネス・ブレークスルー大学、同大学院 専任講師
地域開発シンクタンクにて国の産業立地政策および地方都市の産業振興政策策定に携わる。
1998年より(株)大前・アンド・アソシエーツに参画。
2002年より(株)ビジネス・ブレークスルー、執行役員。
BBT総合研究所の責任者兼チーフ・アナリスト、「向研会」事務局長を兼ねる。
2006年よりビジネス・ブレークスルー大学院大学講師を兼任。
同秋に独立、新規事業立ち上げ支援コンサルティング、リサーチ業務に従事。

<著書>
「企業における『成功する新規事業開発』育成マニュアル」共著(日本能率協会総合研究所)
「図解「21世紀型ビジネス」のすべてがわかる本」(PHP研究所)