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BBTインサイト 2020/06/18

ビジネスプロセスマネジメント<第5回>ビジネスアナリストの育成には経営の意思が必要



講師: 山本政樹(株式会社エル・ティー・エス執行役員)
編集/構成:mbaSwitch編集部




ビジネスの成功のために、ビジネスのアイディア(ビジネスモデル)と、ビジネスを実行する力(ビジネスプロセス)の両方が不可欠です。ビジネスの実行力を高めるために、組織の目標に向かってビジネスプロセスの変革を実行していくアプローチがビジネスプロセスマネジメントです。

ビジネスプロセスマネジメントを推進していくために、どのような役割の部門、どのような専門家が必要なのでしょうか。また、既存組織とどうやって連携していくのが望ましいのでしょうか。

今回はビジネスプロセスマネジメントを推進する部門と専門家の育成について、具体的なポイントを見ていきましょう。

1.ビジネスプロセスマネジメントを推進する上での既存部門の課題

ビジネスプロセスマネジメントの推進には専門の部門が必要なのでしょうか-。

こういった質問をよく受けます。結論から言うと、あった方が良いと思います。ただ、実は専門部門がなくてもビジネスプロセスマネジメントを担う何らかの部門は既に存在していることが大半です。

その代表的な部門が、事業部門、経営企画部門、IT部門です。例えば、自社の製品やサービスを設計し、それを市場に提供するためのプロセスの設計、運営、改善などの役割を事業部門が担っています。これは、間違いなくビジネスプロセスマネジメントです。

一方、各組織の役割や権限の調整、目標設定と業績の管理等を行う経営企画部門は、ITを伴わないプロセス変革に密接に関わっています。また、IT部門は、色々な技術やソリューションを活用して、プロセスの自動化などのビジネスプロセスマネジメントに関わっています。

ただし、実体としては、それぞれの部門の役割は限定されており、ビジネスプロセスマネジメントの機能全体を十分に果たしきれていません。ビジネスプロセスマネジメントを進める上では、全社でプロセスマップを共有し、各部門からプロセスが同じ構造として見えていることが望ましいのですが、自部門の関心事を満たすためのツールとして、各部門が限定的にプロセスを理解しようとしてしまっているため、結果的に部門間で使っているプロセス区分が違ったり、プロセスの呼び方が違ったりと、さまざまな問題が発生していることが多いようです。

そうなると、組織内で一貫したプロセス構造を設計・管理するプロセスマネジメントの主管部門があった方が取り組みは進めやすいでしょう。部門が必要になります。ただし、ビジネスプロセスマネジメントは特定の部門の仕事ではなく、全ての部門が関係する仕事です。ですから、主管する部門だけがビジネスプロセスマネジメントをやるということではなくて、この部門は全社に広がっているビジネスプロセスマネジメントを推進して、色々な部門に働きかける部門だということは前提としてご理解いただければと思います。

2.ビジネスプロセスマネジメントを主管する部門の役割とは?

具体的にビジネスプロセスマネジメントを主管する部門の役割を下図にまとめています。

はじめに、「きちんとプロセスという観点から物事を考えていきましょう」ということを社内に啓蒙し、基盤の提供と管理を行います。そして、プロセス改善活動の進め方をきちんと定義し、改善活動で出てくるプロセスに関する色々な文書をどこに格納して管理するのかを決めます。また、文書作成のガイドラインを作成して標準を定めることも行います。標準がない状態で業務フローを作成しても、改善活動に役立たない、つながりがない業務フローになってしまいます。そうならないように文書作成の標準を策定して社内に提供することが大切です。

また、ビジネスプロセスマネジメントに関する人材教育を行い、さらに、社内の改善活動の中で、全体最適から外れたようなことをやっている部署がないか監視します。最終的には、全社にまたがるプロセス変革の推進の旗振りも担います。

ただ、これをいきなり全部行うのは大変です。図の上から下に行くほどより主体性が高く、難易度も高くなります。ここでは上の方にある役割ほど、あくまでもプロセスの変革活動は各部門が行い、主管部門はそれを支援するという位置づけです。まずは、上の方からやってみて各部門と信頼関係を作りつつ、時間をかけて自分達の主体性を発揮して存在感を上げていく、というのが良いかと思います。

ここまで読まれた方の中には、専門の部門を立ち上げる必要性を感じられた方もいらっしゃるかもしれません。ただ、部門があるかないかが重要ではなく、このような機能を会社の中のどこかの部門がしっかり担っていることが重要です。以下に、候補となる部門をまとめておきましたので、参考にしていただければと思います。



3.最終的には戦略機能の再定義が必要

ビジネスプロセスマネジメントを推進していくと、最終的には「戦略機能の再定義」が必要になります。この場合の戦略は、市場の動向を見て事業戦略を立てる「外を向いた戦略」ではなく、市場動向や外部環境から決まった組織目標に対して、全体最適の観点でどうやって企業全体が連携して実現していくかという目標達成の活動を推進する「中を向いた戦略」です。

ただし、「中を向いた戦略」は、色々な部門が関係するため連携が難しくなっています。ビジネスプロセスマネジメントは、この「中を向いた戦略」の中核となる役割を果たしますので、全体最適の観点で、社内全体にまたがる機能を自社の文化や風土も踏まえて、どうまとめていけばよいか考える「戦略機能の再定義」が必要になるのではないかと思います。



4.各部門のハブとなりプロセスの最適化の旗振りをするビジネスアナリスト

ここまで部門の話をしてきましたが、このような活動を推進しようとすると、ビジネスプロセスマネジメントを理解して社内で専門家として振る舞う人が必要になります。この専門人材をビジネスアナリストと呼びます。

ビジネスアナリストは、経営が立てた戦略をプロセスやソリューションに落とし込んで、しっかり現場のプロセスとして定着をさせる「業務の専門家」です。経営戦略自体は抽象的なので、それをしっかり理解してプロセスの構造や目標の体系に落とし込みます。そして、場合によっては、要求を出してソリューションの専門家に伝えてソリューションを導入します。ソリューション導入後は、現場とコミュニケーションを取りながら、現場でプロセスを実行してソリューションを定着させていきます。プロセスという観点で、色々な人のハブになってプロセスの最適化の活動の旗振りをするのがビジネスアナリストです。

ビジネスアナリストの中でも、全体の構造管理をしたり、取り組みの全体像を設計して各プロジェクトに渡していく役割の人をアーキテクトと呼びます。一方、個別のプロセスをしっかり分析して、ソリューションに対して要求を出したり、BPOやシェアードサービス(SS)の案件で業務分析をしたり、各部門に属してプロセスの改善活動をする役割の人をアナリストと呼びます。

ただ、アーキテクトとアナリストの境界は結構あいまいな部分が多く、人によってやっている役割の考え方が違っていることもあります。また、ビジネスアナリストの歴史も浅いので、細かい定義にこだわっても、まだ変わる可能性があります。そのため、あまり呼称にこだわりを持たずに、好きな呼び方をしていただいて構いません。ただ、ビジネスプロセスをしっかり理解して、その専門性を核にして企業の中で振る舞う人がいないと困るということは、しっかりと理解しておいてください。

5.ソフトスキルが重視されるビジネスアナリスト

ビジネスアナリストに求められるスキルは、具体的には下図のようなスキルになります。

当然、ビジネスの知識はすごく重要ですが、それ以上に思考力やコミュニケーションのスキルが重要です。なぜなら、ビジネスアナリストはコミュニケーションのハブになる事が多く、やっていることの大半がコミュニケーションだからです。

ビジネスアナリストは、通訳者(トランスレーター)、仲介者(メディエーター)、伝達者(コミュニケーター)という3つの側面があります。

まず、経営の戦略をプロセスに通訳して、そこから生まれてくる要求について、ソリューションを構築する人が分かるような言葉に通訳します。目指しているものは、経営から最後のツールを作るところまでは同じですが、粒度がどんどん細かくなって、よりツールに合わせた専門的な言葉に変わっていきます。これを指して通訳者と呼ばれます。

当然、通訳するだけではなく、エンジニアと現場の間に立って、お互いの主張を理解して、きちんと着地点を探す仲介者の役割も担います。また、現場で起きている問題をきちんとヒアリングして、KPIを踏まえて起きている問題をしっかりと理解して、部門長や経営に伝える伝達者の役割も担います。このようにやっていることの大半がコミュニケーションに関することであり、それが、ソフトスキルが重視される理由でもあります。

6.ビジネスアナリストの育成には経営の意思が必要

では、ビジネスアナリストを育てていくにはどうすればよいのでしょうか。業務フローの書き方などの知識であるハードスキルをしっかり身につけていくことは当然必要です。その上で、実践の場があって、その実践の場でしっかり振る舞い方を教えてくれる先輩から、フィードバックをもらいながら学んでいくことが大切です。

ただ、ビジネスアナリストという役割が仕事として確立していない場合が多く、教師役の先輩がいない場合もあります。その際は、一時的にコンサルティング会社を利用したり、外からそういう人を採用するということを考えてみるのもいいかもしれません。

また、もうひとつ、組織の中でビジネスアナリストの居場所や評価される場がきちんとあるかというのも重要な観点です。ビジネスアナリストのような働き方をする人に対して、しっかり評価するモデルを持っている会社はほとんどありません。

昔は、部門長が部門のマネジメントをしながら他部門とも連携を取って組織運営はそれなりにできていたと思います。ただ、最近は、専門性がものすごく細分化されていて、その専門性を取りまとめて、誰かがハブになってコミュニケーションをする必要が出てきています。ビジネスアナリストは、これまでにない専門家たちのハブになる「専門家をまとめる専門家」の役割を担います。

このようにビジネスアナリストの役割が従来の管理職の役割と異なるため、評価の体系も根本的に異なる部分があります。
以下は、企業が成長するために必要な二種類の人材です。

ビジネスアナリストは、右側のトランスフォーマーにあたり、業績を出すための基盤を作ることが仕事になります。ただ、その仕事が本当に業績につながったかどうかはすぐには結果が出ないことがほとんどです。従来の定量的な評価では難しいビジネスアナリストの仕事に対する適切な評価体系を多くの会社は持ち合わせていません。

そこで、必要なのが経営の意思です。失敗したら評価しないというモデルなら人は育ちませんし、長期的な取り組みに向けて定量的に評価しにくい仕事をどう評価していくのか、経営の意思がすごく大切です。ビジネスアナリストを育てるには、単に部門や教育体系を作るということだけではなく、どう処遇するかということも含めて、経営やマネジメントに関わる方にはぜひ考えていただければと思います。

※この記事は、ビジネス・ブレークスルーのコンテンツライブラリ「AirSearch」において、2018年04月20日(金)に配信された『ビジネスプロセスマネジメント 05』を編集したものです


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山本政樹(やまもと まさき)
株式会社エル・ティー・エス執行役員
立命館大学政策科学部卒業後、アクセンチュアにてビジネスプロセスコンサルティングに従事、フリーコンサルタントを経てLTSに入社。
情報システム開発におけるプロセス設計や現場展開、ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)の導入など、ビジネスプロセス変革案件を中心に手掛け、現在はビジネスプロセスマネジメント及びビジネスアナリシスの手法や人材育成に関する啓蒙を中心に活動。

  • <著書>
  • 『サービスサイエンスによる顧客共創型ITビジネス』(共著・翔泳社)
  • 『ビジネスプロセスの教科書』(東洋経済新聞社)など