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大前研一メソッド 2020/06/22

ジャッキー・チェンら香港の芸能人は「国家安全法案」に賛成



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

香港で反中国活動を禁じる「国家安全法案」が、2020年6月中に成立する可能性が高まって来ました。

〈香港国家安全法案の骨子〉
○国家分裂、政権転覆、テロ活動、外国勢力と結託して国家安全に危害を加える行為を処罰
○香港政府が「国家安全維持委員会」を設立し、関連事務に責任
○中国政府は指導・監督のため香港に「国家安全維持公署」を設置
○中国政府は特定の情勢下でごく少数の犯罪案件に管轄権を行使
○国家安全法が香港の他の法律と矛盾する場合、国家安全法を優先

【資料】日本経済新聞(最終アクセス:2020年6月22日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60607520Q0A620C2MM8000/

法案の成立に対して香港住民が反対デモで抗議しているイメージが日本ではありますが、意外なことに、香港の芸能人を含む富裕層は、「国家安全法案」に賛成する中国本土寄りの立場をとります。中国は「1国2制度」の約束をねじ曲げ、さまざまなことを形骸化させて「1国1制度」に持っていこうとしているわけですが、香港住民はどのようなことを考えているのか、BBT大学院・大前研一学長に聞きました。

香港の芸能人など富裕層が「国家安全法案」に賛成するわけ

人気俳優のジャッキー・チェンを筆頭に、香港の芸能関係者や関連団体は6月1日までに、「国家安全法案」に賛成する意向を表明した。2000人を超える人たちが連名で支持を表明している。新たな法制により、言論の自由が圧迫される可能性が高いと指摘されるが、声明では「国家の安全を守る重要性は十分に理解できる」としている。

なぜ、芸能人が賛成するのか。香港の芸能人にとって、中国本土は重要な市場である。このことが影響している。民主派団体「デモシスト」のメンバー、周庭(アグネス・チョウ)氏はTwitterで「中国に反対すると中国の仕事が全部なくなるので、ほとんどの香港の芸能人は中国寄りの姿勢を表明しないといけない」と指摘している。

それに加え、ジャッキーら香港のお金持ちは、基本的に「世界の金融市場の1つを形成する香港に、世界の一流企業がやってくる。それで自分たちも繁栄を享受できる」と考えている。

香港の不動産を多数所有する人にとっては、若者の大規模なデモ行為は「香港の価値を低めるのでやめてほしい」とひそかに願っている。小売店主も「中国から買い物客がこなくなるので、迷惑だ」と考えている。

【資料】ジャッキー・チェンさん「国家安全法」に賛成表明。「反対すれば仕事なくなる」指摘も(最終アクセス:2020年6月22日)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5ed44a19c5b650e1ebc4c24c

旧統治国の英国は、約300万人の移民受け入れを表明

一方、世界の多くの人は、香港の民主化要求を支持し、1997年に香港の主権が英国から中国に返還された際に導入された「1国2制度」は、返還から50年、つまり2047年まで維持される措置のはずなので、「あと27年は約束を破らずに続けてほしい」と願っている。

中英共同宣言で香港は特別行政区と定められ、資本主義や言論や集会の自由を含めた民主社会制度の維持が認められた。しかし、中国はその「1国2制度」の約束をねじ曲げ、さまざまなことを形骸化させて「1国1制度」に持っていこうとしている。

最後の香港総督を務めたクリストファー・パッテンは、「香港の今後は大丈夫です」と言って英国に帰った。これについて、英国は責任を感じる必要があるといわれている。

そういうこともあってか、英国のボリス・ジョンソン首相は中国政府が「国家安全法案」を撤回しない場合、香港住民の最大285万人を対象に、英国での市民権取得に道を開く考えを表明した。

返還前に発行していた英国海外市民(BNO)旅券を持つ人を、最長で1年間、英国滞在できるようにして、英国での就学や就職の機会を増やす。「永住権も可能性としてある」と言っている。これは画期的なことである。

英国はずっと中国にこびるようなことをしてきた。例えば、2015年に習近平国家主席が訪英したときは、総額約7兆円の大型商談で骨抜きにされ、国賓として、バッキンガム宮殿のエリザベス女王主催の公式晩餐(ばんさん)会に招待するなど最大級のもてなしをした。

当時のジョージ・オズボーン財務大臣が訪中した際は、新疆ウイグル自治区にも足を運んで、「イスラム教徒のウイグル民族は虐待されていない」とアピールさせた。中国にこびる英国の姿勢をジョンソン首相は変えようとしている。

台湾の蔡英文政権は香港からの移住受け入れ窓口を2020年7月1日に設置するが、台湾にはそれほど移住しないと思う。多くの香港市民は「台湾はいずれ香港のようになる」と考えている。台湾に逃れたのは、中国本土の禁書を扱って拘束された書店の店長などが目立つ程度である。意外に少ない。

台湾のパスポートも世界を旅行する上では不便である。中国と国交を開く代わりに台湾と国交を断絶させられる国が多いからである。そういう点で、今後、香港から台湾に移住するという人は少ないと思う。移住するのであれば、カナダ、米国、豪州、英国…といった語学の負担の少ない旧英連邦諸国だろう。

※この記事は、『大前研一のニュース時評』 2020年6月13日、『大前研一ライブ』 6月21日放映を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。