業界ウォッチ 2020年7月6日

教員のちょっと気になる「宅配便の再配達率・置き配動向」



執筆:谷口賢吾(BBT大学大学院 講師)

今週は「宅配便の再配達率・置き配動向」を取り上げてご紹介いたします。

この数年、EC利用の拡大に伴い、宅配便利用が増加する一方、トラックドライバーの人材不足と相まって、物流危機が社会問題として取り上げられていました。そこに、新型コロナの影響が加わり、巣ごもりEC利用がさらに拡大したと言われています。

宅配便物流という観点からは、再配達が大きな問題と指摘され、その解決策として、宅配便事業者やEC事業者等各社が様々な取り組みがなされてきました。

社会問題として指摘されていた宅配便再配達率が、国土交通省の今年の4月の調査では、これまでの再配達率と比較して大場に低下したことが分かりました。また、別の民間調査では、新型コロナの影響で「置き配」の利用が増えたことも分かりました。

それでは、再配達率は実際にどのくらい低下したのでしょうか。都市部と地方で何か違いがあるのでしょうか。また置き配はどの位の割合で利用されているのでしょうか。コロナの影響でどの位利用が増えたのでしょうか。実際に数字で確認してみたいと思います。

まず、宅配便再配達率の推移を見てみます。「都市部」の再配達率を見ると、2017年10月(’17/10)時点では17.1%で、そこから概ね横這いで、’19/04に18%と最も高い数値を示した後、低下傾向に転じています。’20/04には8.2%と大きく低下しており、「都市部近郊」、「地方」と比較しても低い再配達率となっています。

「都市部近郊」は、「都市部」よりも再配達率は低いものの、概ね同様なトレンドを示しており、’20/04に8.5%と大幅に再配達率が低下していることが分かります。

「地方」は、’17/10は13.5%で、そこから概ね減少トレンドとなっており、’20/04は10.1%となっています。これまで「都市部」「都市部近郊」よりも低い再配達率で推移していましたが、’20/04は逆転された形になっています。

次に、再配達を減らす手段の一つとして考えられる「置き配」の認知・利用動向を見てみます。

「置き配」自体を知っている人は、約80%でした(「知っており、他の人にも説明できる」「知っているが、説明できるほどではない」の合計)。「置き配」を「知っている」人のうち、「置き配」を「利用したことがある」人は29.6%と約3割の人が利用していることが分かります。

「置き配」を「利用したことがある」人の内、新型コロナの流行により「置き配」利用が「増えた」人は29%、「やや増えた」人が32.1%で、合わせて61.1%の人が「置き配」利用が増えていることが分かります。年代別にみると、20代が77.1%と最も多く、次いで30代(66.6%)、10代(64.3%)と続きます。

こうしてみると、宅配便の再配達率は、「都市部」での低下幅が大きいことから、外出自粛要請などの要因で在宅時間が増えたことが大きな要因になっていると考えられそうです。

また、「置き配」については、知っている人が8割に達するものの、利用したことがある人は、そのうちの3割程度であることが分かります。とはいえ、コロナ禍で「置き配」利用が増えた人は、全体の6割になっています。

外出自粛要請が解除されて、宅配便利用者の在宅時間が減ると、また再配達率が上昇するかもしれませんが、「置き配」などをうまく活用して再配達を減らしたいものです。「置き配」には盗難などの不安要素が付きまとうため、宅配ボックスなど含めて、これらの不安を取り除く仕掛けに事業機会がありそうですね。

執筆:谷口賢吾(たにぐち けんご)

ビジネス・ブレークスルー大学、同大学院 専任講師
地域開発シンクタンクにて国の産業立地政策および地方都市の産業振興政策策定に携わる。
1998年より(株)大前・アンド・アソシエーツに参画。
2002年より(株)ビジネス・ブレークスルー、執行役員。
BBT総合研究所の責任者兼チーフ・アナリスト、「向研会」事務局長を兼ねる。
2006年よりビジネス・ブレークスルー大学院大学講師を兼任。
同秋に独立、新規事業立ち上げ支援コンサルティング、リサーチ業務に従事。

<著書>
「企業における『成功する新規事業開発』育成マニュアル」共著(日本能率協会総合研究所)
「図解「21世紀型ビジネス」のすべてがわかる本」(PHP研究所)