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BBTインサイト 2020/07/16

行動経済学が変えるマーケティング戦略〈 第2回 〉ヒット商品を行動経済学の視点から考察する



講師: 橋本之克(マーケティング&ブランディングディレクター)
編集/構成:mbaSwitch編集部




行動経済学をマーケティングに活用し、人間の無意識の行動や選択を知ることで、より効果的に無駄なくビジネスを行うことが可能となります。今回は、ソーシャルゲームなどのヒット商品を取り上げ、なぜそれが流行するのかを、行動経済学の視点から考察してみましょう!

1.ソーシャルゲームが流行する3つの鍵

なぜ人は、ソーシャルゲームに夢中になるのでしょうか。ソーシャルゲームには、①もったいないから、②続けてきたから、③皆がやっているからという、止められない3つの法則があります。

まず、①もったいないから止められないのは、「保有効果(自分が所有するものに高い価値を感じ、手放したくないと感じる心理)」が働くからです。ゲームを進めるにつれて次第に上達し、自信が出てくると、そのゲーム自体がまさに自分のためのゲームだと感じるようになり、ゲームが止められないという心理になるのです。この状況がさらに進むと、「損失先送り」という効果も生まれます。

これは、損失を確定したくないという理由で意思決定を先延ばしにするというものです。ゲームを止めると、自分が保有しているスキルやキャラクターが全て無駄(損失)になってしまいます。これを避けるために、続けるのか止めるのかの選択を先送りにし、結局は続けてしまうのです。

次に、②続けてきたから止められないのは、「サンクコスト効果」の影響によるものです。サンクコストとは、時間、お金、労力などといった過去に失って取り戻すことのできないコストです。ゲームに使ったお金、時間、労力がサンクコストとなり、それらにこだわってしまって止められない状況に陥ってしまうということです。

サンクコスト効果の影響がさらに進むと、「機会費用の軽視」という心理的な効果も生じます。これは、ゲームをしていた時間で勉強や仕事などをしていれば得られたかもしれないメリット(機会費用)のことは、全く考えないという効果です。

続いて、③皆がやっているから止められないのは、自分の意見や信念を曲げてでも多数派に従ってしまうという「同調効果」の心理が働くからです。ゲームをしていると、同じようにゲームをしている人が画面上に表示されます。そうすると、友人や世の中のゲームをやっている人々に同調し、止められなくなるのです。

2.ポケモンGOに見るヒットの構造

それでは具体的な事例として、大ヒットしたソーシャルゲーム「ポケモンGO」のヒットの構造を、行動経済学の視点から分析していきましょう。

このゲームは、世界中のあらゆるところにポケモンが生息しているという設定で、近所や名所・旧跡など歩きながらポケモンを探すゲームです。プレイヤーはポケモンを捕まえて自分の図鑑に登録し、育てたり、バトルしたり、他のプレイヤーと交換をしたりします。

ソーシャルゲームが止められない3つの法則は、ポケモンGOにも当てはまるのでしょうか?

まずは保有効果です。
捕まえたポケモンが図鑑に格納されると、自分だけの図鑑を保有しているという意識が生まれ、自分のポケモンに対して愛着が生まれます。この結果、図鑑やポケモン自体を失ってしまうことがもったいないという保有効果の心理が働き、止められなくなるのです。また捕まえられるポケモンの数には制限があるため、それ以上捕まえようとすると、過去のポケモンを捨てるか、あるいはポケモンを格納する枠を広げるために課金する設定になっています。このような儲かる仕組みができています。

次はサンクコスト効果です。
ポケモンGOには、なかなか登場しないレアポケモンがいて、これが欲しいという気持ちが生まれます。また、自分の図鑑を全て埋めて完成させたいという気持ちも生まれます。もっと歩いて探せば、レアポケモンやまだ捕まえていないポケモンが出てくるかもしれないと思うと、課金したお金、投入した労力や時間がサンクコストとなり、結果的に止められなくなるのです。

続いては同調効果です。
ポケモンGOは外で行うゲームです。こんな場所でポケモンを探している人がいる、ハイレベルのポケモンを持っている人がいるということを目にすると、プレイしている多くの人々に同調し、止められなくなるのです。

以上のように、ポケモンGOには止められない3つの法則の全てが当てはまります。またこれだけではなく、ポケモンGOならではの、以下のような仕組みもあるのです。

①損失回避

ポケモンGOは、自分の位置を知らせてゲームが進行する位置情報ゲームです。したがって、歩けば歩くほど、何らかのメリットがあります。ポケモンやアイテムが歩くだけで確実に増え、得をするということになると、歩かずにゲームをしないことは、心理的に損と判断されます。

このような損失回避(損をする悲しみは得をする喜びの2倍以上である)により、プレイヤーは止められないのです。

②ヒューリスティクス

ボールを投げてポケモンを捕まえる行為は、幼少期に虫取りをした記憶と重なります。昆虫採集の楽しい記憶がポケモンを捕まえる行為と重なることで、ヒューリスティクス(印象が強く、記憶に残りやすい事象を高確率であると判断してしまう)の効果が働き、ポケモンGOは楽しい経験であると連想するのです。

③認知的不協和の解消

一般的にゲームは家で引きこもって行うものが多いので、不健康なイメージがあります。しかしポケモンGOは屋外で行うので、むしろ健康なゲームであると考えられ、発売当初には肥満などが改善されたという報道もありました。そうすると、「認知的不協和の解消」という法則によって、ゲームに抵抗のあった未利用ユーザーも参加し始めたのです。

人間は、無意識のうちに合理的に一貫性のある行動をしようとする生物で、矛盾が起きると無意識にそれを解消しようとします。ゲームに抵抗のあった未利用ユーザーも、健康なゲームであるということでポケモンGOへの抵抗感が減り、ゲームを始めたということです。

以上のようにポケモンGOは、従来型のソーシャルゲームの枠を超えた仕組みを持っていると言えるでしょう。自然な形で損失回避ができ、健康的な遊びをモチーフにしていること、そしてソーシャルゲームのネガティブな印象を払拭していることが、ヒットにつながっているのです。

3.行動経済学によるヒット商品分析〜サブスクリプション

続いては、日経MJ2018年のヒット商品番付で西の大関となったサブスクリプションについて、分析していきしょう。

サブスクリプションとは、料金を払い利用権を得て、一定期間使い続けることができるという新しいビジネスモデルで、音楽を聴き放題のSpotifyや雑誌が読み放題のdマガジンなどが主な商品です。サブスクリプションのヒットには、以下の2つの要素が組み合わさっているのではないかと考えられます。

一つ目は、未知なものや未体験のものを受け入れずに現状のままでいたいと思う「現状維持バイアス」です。何かをやめて新しいものを得る選択をしても、そこで生まれる喜びが損である悲しみの2倍以上でない限り、変化を受け入れるメリットはないという心理です。

そして二つ目は、「メンタル・アカウンティング(心の中でお金を、出所や使途で無意識に分け、使い方も変えること)」の心理です。サブスクリプションの支払いは公共料金と同様、クレジットカードなどから毎月自動的に引き落とされる形であるので、抵抗感なく支払い続けることができるのです。

4.既存のマーケティングモデルを行動経済学で捉え直す

最後に、マーケティングにおける既存のセオリーを、行動経済学の視点で捉え直してみましょう。

購買決定プロセスのモデルは、AIDMAモデル(注意を引き関心を持たせ、欲しいと思わせて記憶させて、買いに行かせるというもの)を筆頭に様々なモデルがありますが、どのモデルにも含まれているAttention、Interest、Actionの3つに注目して考えてみたいと思います。

まずAttentionは、「商品を知っている状態にする」ということですが、行動経済学で捉え直すと、「知っている気にさせる」、「よい物事として知らしめる」、「行動に繋がる情報を与える」とも言えるのではないかと考えられます。例えばポケモンGOは、健康に良いものだと知らせることで、従来の不健康な商品とは違うものとして認知させることができました。

続いてのInterestは、「関心を引いて深く知りたい状態にする」ということですが、行動経済学で捉えれば、「強烈な印象を与える」、「失いたくないとまで思わせる」、「興味を失うことができない状態にする」などの方法があるかと思います。ソーシャルゲームを例に挙げれば、保有効果を活用し、失いたくないと思わせて止められない状態にするということです。

最後のActionは、「購買を決断させて行動を起こさせる」ということですが、行動経済学では「迷わずに選択できるようにする」、「支払いやすいお金と思わせる」、「買い続けるように習慣づける」などと捉えることができるでしょう。例えばサブスクリプションは、現状維持バイアスやメンタル・アカウンティングを活用し、買い続けることを習慣づけている典型的な例と言えるでしょう。

以上のように行動経済学の視点から購買決定プロセスを捉え直していくにあたり、前回ご紹介した「二重プロセス理論」という思考システムを理解しておくことが非常に重要です。

人間の脳内には、労力をかけずにスピーディーに答えを出す認知プロセス(システム1)と、きちんと考えて答えを出す認知プロセス(システム2)が存在し、それぞれ違った働きをしています。

この2つのシステムが購買時にも働いているということを意識しながら購買プロセスをデザインすることが、今後のマーケティングへの大きなヒントとなるでしょう。

※この記事は、ビジネス・ブレークスルーのコンテンツライブラリ「AirSearch」において、2019年1月17日に配信された『行動経済学が変えるマーケティング戦略02』を編集したものです


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橋本 之克(はしもと ゆきかつ)
マーケティング&ブランディングディレクター
東京工業大学社会工学科卒業後、大手広告代理店で消費財のマーケティングを担当。
1995年日本総合研究所入所。環境エネルギー分野を中心に、官民共同による研究事業組織「コンソーシアム」の組成運営や、自治体向けのコンサルティング業務を行った。1998年アサツーディ・ケイ(ADK)入社後、業界別にマーケティング手法を構築、提案する「業界特化型戦略」を推進。金融、不動産、環境エネルギーの3業界でチームを立ち上げた。金融においては年間売上を500億円以上に倍増させるなど(ADK全体で3800億円)成果をあげる一方、業界で注目されていた「行動経済学」に着目。理論をマーケティングやビジネスに応用する取組みを行っている。2018年8月にADK退社後は、フリーとして活動。通算のマーケティング&ブランディング戦略プランナー歴は30年以上。マーケティングと行動経済学に関する出版、講師、寄稿やTVコメンテーター出演多数。

  • <著書>
  • 『9割の人間は行動経済学のカモである』(経済界)
  • 『9割の損は行動経済学でサケられる』(経済界)
  • 『モノは感情に売れ!』(PHP研究所)
  • 『ヤバい行動経済学』(日本文芸社)
  • 『スゴい!行動経済学』(総合法令出版)
  • 『「おトク」に弱いあなたが損をする理由』(KADOKAWA)