マネジメントとビジネストレンドの知見を得るMBAメディア

タグから検索する

大前研一メソッド 2020/07/27

あなたの“値段”はいくらですか? 余人をもって代えがたいスキルの身につけ方



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

ハイクラスを対象にした転職サイト、「ビズリーチ」は、同サイトの会員を対象に、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う、働き方やキャリア観・転職活動への影響に関するアンケート調査を実施しました。その結果、56%のビジネスパーソンが新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、「キャリア観に変化があった」と回答しました。

また、そのうち92%以上が「企業に依存せずに、自律的なキャリア形成が必要」と回答しました。今後日本でも働き方が変化していくことが予想されるなかで、どこでも活躍できるように自身の強みを意識しながら、キャリアを築くことが重要だと考えるビジネスパーソンが多いことが分かったとビズリーチは分析します。

「会社に依存しない」主体的なキャリアを築く秘訣はあるのでしょうか。BBT大学院・大前研一学長に聞きました。

【資料】新型コロナウイルス感染症拡大をきっかけに、約6割がキャリア観に変化 うち9割以上が「企業に依存しないキャリア形成が必要」と回答(最終アクセス:2020年7月27日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000135.000034075.html



あなたに値札がつく人材マーケットの仕組み

日本のサラリーマンの多くは、「会社に依存した」キャリア形成を当たり前のようにやってきたが、そのうちの5人に1人でも「会社に依存しない」キャリア形成を模索するようになれば、日本の企業社会は変わると私は思っている。さらにそのうちの5人に1人、あるいは10人に1人でも成功するようになれば日本は大きく変わる。

「会社に依存しない」キャリア形成とは、政府の言葉で言い換えれば「ジョブ型雇用」ということになるであろう。「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」を示して、職務の内容や必要な能力を明確にしたうえで最適な人材に報酬を提示して、提示された側もその報酬でよければ契約して採用する――。これがジョブ型雇用である。欧米では一般的だが、日本人にとっては一番苦手な雇用形態だ。

例えば、米国では「こういう部門のこういうジョブを求めています」と企業が人材募集をかける。LinkedIn(リンクトイン)などのビジネス人材に特化したSNSを活用するケースも近頃は多い。

選考して候補者が絞られてくると、リファレンス・チェック(身元照会、経歴照会)が行われる。応募者はエントリーシートにこれまでのキャリアや自己アピールとともに、自分のことをよく知る人物(過去の仕事の上司や同業者など)の名前を最低3人書き出さなければならない。採用担当者はその3人に連絡を取って、「本人はこう言っているが、あなたと仕事をしているときはどうだった?」と逐一確認するのだ。

これは給与条件の設定にも関わってくる。例えば1社目の年俸が6万ドル、2社目が7万ドル、3社目が15万ドルだったとしよう。1社目、2社目の上司の評判は上々なのに、3社目の上司の評価は低かったりする。この場合、当人の能力が頭打ちになったと判断できるから、15万ドルではなく、11万ドルぐらいの仕事をジョブ・ディスクリプションに書き出してオファーするわけだ。

ジョブ型の人材マーケットでは、このようなプロセスを経て人材に値札をつける。しかし、私は今までジョブ・ディスクリプションを書き出せる日本企業のマネジャーを見たことがない。高収入の専門職を労働時間の規制対象から外す「高度プロフェッショナル制度」を導入した企業がこの1年でわずか10社、適用者が414人にとどまっているのも、ジョブ型と日本の企業社会の相性の悪さを物語っている。



あなたが会社を練習台に使ってスキルを身につける具体的な方法

「会社に依存しない」キャリア形成、すなわちジョブ型人材になるためには値札がつくだけのスキル、余人をもって代えがたいスキルというものを身に着ける必要がある。それも自己評価ではなく「あの人にこれをやらせたら大したもの」と複数の第三者に証明してもらえることが重要だ。有名大学院や有名大学卒業は、肩書にはなるが、値札にまで影響するかどうかは疑問符がつく。私が推奨するのは、会社の中で実績を積んでスキルを身に着けることである。

例えば、「今、こんなことをいろいろな会社がやっている。ウチでもやりましょうよ」と会社に提案してイニシアチブを握ってプロジェクトを推進する。今ならロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)など事業プロセスの自動化技術は、どこの企業も関心度が高い。

RPAを社内に導入するとなれば、今までとは違ったスキルを身につけなければならない。しかし、アシストしてくれるツールはいくらでもある。それを会社に埋め込んで、例えば今まで7人でやっていた業務を3人でできるようにする。一度実績をつくれば隣の部署にも提案しやすくなるし、もっと大きな部署への導入を任されるかもしれない。そうして会社にいる間に自分から仕掛けて客観的に測定できる実績を積み上げるのだ。

「RPAで3つのプロジェクトを成功させた」というのは完全な値札である。RPAで年収500万円の人員を10人削減できれば5000万円のコストダウンである。さらに、その10人の新しい仕事を見つければ、効果はその何倍にもなる。「年収1000万円+成果報酬ボーナス」でプロジェクトリーダーを迎えてもお釣りがくる計算である。

いまだ使い勝手の定まらないリモート会議を改善した――。簿記の延長のような経理を完全オンライン化して、在宅でも出張経費の計算ができるようにした――。そんな物語をつくることが、ジョブ型人材への近道なのだ。

「会社に依存しない」キャリア形成をしたいのであれば、逆説的なのだけれど、まずば会社にべったり依存することである。日本の会社は生意気な提案をしてもクビにはならないし、失敗しても致命的なダメージにはならない。会社を練習台に使わせてもらってスキルを身につけ、他人に示せる実績を積む。会社でそれが認められれば出世するだろうし、仮に認められなくてもそうした実績をお土産にして転職すれば、引く手あまたの値札がつくというわけである。どちらに転んでも損はない。

※この記事は、『プレジデント』誌 2020年8月14日pp.98-99を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。