実践ビジネス英語 2020年7月29日

仕事に効くビジネス英語講座〈第20回〉外国人社員から“評価されない”日本人 【後編】



執筆者:PEGL事務局清水



今回は意思決定のスピードについて解説します。実践ビジネス英語講座・リーダーシップ力トレーニングコースで講師を務める米国人のロッシェル・カップ氏は、マネジメント・コンサルティング歴が長く、日本企業を間近で見ています。

日本企業の海外支店で働いている外国人社員、および供給業者、顧客、パートナーとして日本企業と一緒に仕事をしている外国人ビジネスパーソンが一番不満に思っていることは、日本企業は意思決定に長い時間を必要とすることだとカップ氏は指摘します。

カップ氏の著書の『日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか』(インプレス)から、日本企業の意思決定のスピードの遅さについて解説します。

カップ氏がよく耳にする、日本企業で働く“米国人の愚痴”というのは、「ビジネスチャンスを逃してしまう」「市場の波に乗れない」「素早い対応ができないと、顧客を失ってしまう」というものが多いそうです。日本企業の意思決定に時間がかかることが、米国市場での成功に不利な条件となっていることを懸念しているわけです。

世界中で技術と社会環境の変化がスピードアップしていますが、中でもカップ氏が住んでいる米国サンフランシスコ近郊のシリコンバレーは、ビジネスのペースが非常に速いのだと言います。世界のどこよりもスピードが速いのは、他の文化と比較して、米国社会が常にスピードを重視してきたからです。

米国人は昔から「急ぐ」ことを好み、「とりあえず行動して、後から考える」という風潮があります。これは、厳しい環境で生き残るために素早い行動が必要とされた米国の入植者や開拓者に不可欠だった行動様式なのかもしれないとカップ氏は言います。

カウボーイ文化でもスピードが重視されていました。西部劇でガンマン同士の決闘シーンでは、背を向け合った決闘相手と同時に振り返りざま拳銃で撃ち合います。「quick on the draw 銃を抜くのが素早い」と言う表現は「機転か利く」という意味ですし、銃を抜くことすらせずに「shoot from the hip 銃を腰のベルトから外さずに、弾丸を発射する」(衝動的な行動をする)」と言った表現が生まれています。

米国人がしゃべるスピードが年々速くなっている、つまり早口になっているということを、私は米国人の英語の教師から聞いたことがあります。そして、米国東部よりも西部の人々のほうが早口なのだと聞いたことがあります。

米国経済の成長につれて、米国人は他人を追い越すことにより、競争の激しいビジネス環境でアメリカンドリームをつかもうとしています。西部開拓魂は早
撃ちの姿を変えて今も受け継がれているに違いありません。

それに比較して日本文化は安定の中で育ってきました。広大なアメリカ大陸をたったの200年間で東海岸から西海岸を目指して急いで我が土地を競って手に入れていった米国の無骨なフロンティア(開拓者)精神とは異なり、日本では千年以上の時間をかけてゆっくりと定住が定着しました。日本人の生活は1年間かけて1サイクルする稲作農業を繰り返すというリズムの中で展開します。

何事を行うにも急いだり先送りしたりせずに、田んぼの水張りや田植えや稲刈りの最適の時期を待つことが重視されました。日本人は期限に対する意識は高いのですが、大きな決断を下す際には必要以上に時間をかける傾向があります。「time is money 時は金なり」または「time is of the essence 時間は重要である(から急がなければならない)」といったような表現は、米国と比べて日本ではあまり使用されていないのだとカップ氏は言います。

日本式意思決定のプロセスに「調整」「根回し」「稟議」があります。いずれのプロセスも日本独特で、あまりにも特殊なため、英語ではそれに相当する言
葉が存在しません。

(1)「調整」とは、日本の組織が物事を進めるにあたって、様々な構成要素を体系化し組織化することです。
(2)「根回し」とは、調整のプロセスで行われる、個人的で非公式な交渉の要素です。
(3)「稟議」とは、提案書を関係者に回覧することです。意思決定が必要な内容はすべて、この提案書に要約され、それを主要な意思決定者(十人以上のこともある)に回覧します。各人が提案書を読んだうえで内容を検討し、承認印を押します。

米国では一般的に平社員レベルで決定するような提案書の内容で、正式な稟議書を必要としない場合でも、日本企業では経営上層部の承認が必要です。これは社員やマネジャーがエンパワーメントの不足を感じさせられるだけでなく、多数いる経営上層部全員から承認印を得ることに時間がかかります。

日本企業は急速に進化する今日の市場の変化に対応するため、意思決定のスピードアップを図り、そのプロセスに莫大な社内資源を費やすことをやめないと、国際競争に取り残されるおそれがあると、カップ氏は警鐘を鳴らします。日本企業は、自分たちにとって重要である意思決定プロセスの美点をあきらめることができないかもしれません。そうであっても、プロセスを早める方法を見つけ出す必要があります。それは日本企業が国際競争の中で生き残り、繁栄するためには不可欠です。

スピードアップを図るため、まず最初に、承認プロセスの合理化から始めるのが良いとカップ氏は言います。稟議を承認する人数を削減し、ある程度の内容に対しては経営上層部の承認を必要とせず、下層管理職に決定権を与えることをカップ氏は提案しています。

いかがでしたでしょうか。ちなみに「根回し」という言葉を語源を考えずに私は使っていました。同書によると園芸に関する言葉です。樹木を植えかえる時、一日で掘り出して新しい場所に移植しようとすると、樹木がショックで枯れてしまうことがあります。

そこで、樹木の根の各部分に特別な注意を払いながら、何日かにわたってゆっくりと土をほぐして馴染ませながら移植すると、枯れることなく、健康に成長します。転じて、意思決定に向けて道を整える意味に使われるようになりました。

※この記事は、ビジネス・ブレークスルー大学 オープンカレッジ講座「実践ビジネス英語講座-PEGL[ペグル]-」で毎週木曜配信中のメルマガ「グローバルリーダーへの道」において、2015年05月25日に配信された『今週のコラム』を編集したものです。


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ナビゲーター:清水 愛(しみず めぐみ)
PEGL[ペグル] 英語教育事務局 マーケティング/PEGL説明会、個別ガイダンス担当。2012年BBT入社。前職は海外留学カウンセラー。これまで6,000人を越えるビジネスパーソンと接し、日々ひとりひとりの英語学習に関する悩み解決に向き合いながら、世界で挑戦する人たちの人生に関わる。

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