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BBTインサイト 2020/08/06

「ZOZO離れ」に「アパ直」、企業の脱プラットフォームが進むワケ



執筆:今枝昌宏(エミネンス合同会社代表パートナー/ビジネス・ブレークスルー大学大学院研究科長)

アマゾン、楽天、ZOZO……今日の社会を生きる上でプラットフォームを利用しない人を見つけることは難しい。われわれの便利な生活を支えるプラットフォームだが、近頃、プラットフォームに参加していた事業者が離脱するニュースが相次いでいる。なぜ彼らはプラットフォームを離れるのか。背景にはプラットフォームの経年変化と、事業者が見据える新たなビジネスの活路があった。


プラットフォームがいかに有効なビジネスモデルかについて語られるようになってから久しい。顧客の存在が他の顧客を引き付ける効果を生み、プラットフォームの顧客はプラットフォームから離れられなくなる……はずであった。しかし最近、プラットフォームに参加していた事業者がプラットフォームを離脱し、自社で顧客接点機能を立ち上げるケースが相次いでいる。

ZOZOから離れていったユナイテッドアローズ(昨年ZOZOグループに委託していた自社ECサイトの開発・運営を自社主導に切り替えると発表。後に方針転換して再委託)、楽天トラベルなどのOTA (Online Travel Agency)から距離を置くアパホテルだけではない。コンビニ各社が、コンビニATMプラットフォームであるイーネットからセブン銀行やローソン銀行を設立して離脱したり、銀行側もコンビニでのATM使用に課金したりして自行で設置するATMへのへの誘導を強めている。Tポイントからは、三越伊勢丹やアルペン、ドトールコーヒーまでが離脱し、最大のアイコンであったヤフーもPayPayへとその機能を移行して、もはや見る影すら薄くなりつつある。

海外に目を移すと、さらに大胆な例が続出している。ヒルトンは、“Stop Clicking Around”というテレビCMキャンペーンを長期間わたって続けている。クリックするのをやめよう――つまり、プラットフォームではなくヒルトンのサイトで直接予約することを促すキャンペーンである。OTAを回避して直接予約した顧客を優遇しているのは、もはや古典的な例だ。ディズニーは、Netflixと決別して自社でディズニープラスを立ち上げた。昨年末にナイキがアマゾンでの販売を終了し自社オンラインサイトを通じた販売への切り替えを発表したのは、衝撃的ですらある。

1.なぜプラットフォームから大手企業が続々離脱しているのか

離脱する各社には、それぞれの事情があるだろう。しかし共通する大きな理由の1つは、言うまでもなく単純にプラットフォームによる課金負担が大きく、プラットフォームに参加している事業者はこれから逃れたいからだ。プラットフォームはデジタルな仕掛けだけを持ち、リアルな資産や人を抱えないだけでなく、在庫リスクや設備稼働のリスクなども一切抱えない。

一方で、リスクを全て事業者に担わせる財務構造であるのに、平然と厚いマージンを要求してくる。コストダウンに血筋を上げるリアルなビジネスを行う事業者から見れば、10%程度のマージンであっても暴利と映るだろう。価格感応度が極めて高いネット上では、その10%をディスカウントに回せば、大きな集客力を持つことができる。

プラットフォームが従来自社がリーチできなかった顧客へのリーチを拡大し続け、機能的にもユーザーや参加事業者にとって便利な機能を次々追加している状況では、そのプラットフォームと付き合い続けることのメリットが大きい。もし事業者が自社サイトを構築しても、結局、顧客接点管理機能で規模や投資余力に勝るプラットフォームへの敗北を招いてしまう危険がある。しかし、プラットフォームによる集客速度や機能追加の速度に陰りが見え始めると、状況は変わる。

プラットフォームが使用しているテクノロジー自体は汎用的なものなので、明確な機能ビジョンさえあれば、顧客接点機能は自社でも十分構築可能で、離脱しても自社でやっていけると踏んでもおかしくない。事業者側から見れば、プラットフォームによる売り上げの増加や機能進化が止まっているのに、従来と同じマージンを払い続けなければならないというのはやるせないだろう。

要するにネットワーク効果が絶大にみえたのは、成長という雪だるま式の好循環が強く働く局面を見ていたから。成長が一段落すると多くの人が考えていたほどのネットワーク効果は働かないということなのだ。

プラットフォームを通じた販売には、コーポレートブランディングとしても問題がある。
顧客は、プラットフォームとの取引しか意識せず、結局は事業者にとって直接の顧客とはならない。顧客側の意識としても、事業者のブランド認知の前に、プラットフォームへの帰属意識が先に出てきてしまう可能性がある。多くの競合と一緒に並べられ、無残な比較コメントにさらされる形での販売を快しとする事業者はいないだろう。

プラットフォームからの離脱が進むもう1つの理由は、プラットフォーム間を比較したり、単純に情報を収集したりする比較サイトやまとめサイトなど、「プラットフォームのプラットフォーム」が出現してしまっているからでもある。トリバゴや価格ドットコム、Skyscanner、スマートニュース、Google Mapのような情報集約と比較のみを行うプラットフォーマーたちだ。

これらのプラットフォームは、既存プラットフォームとの二重課金を割けるため通常は広告のみに依存して無料であり、決済機能などは実装していない。そのため機能的に薄く軽いが、顧客との間に割って入ってしまうので、「従来のプラットフォーマー」としては疎ましい存在である。

しかし、プラットフォームのプラットフォームが出現したことで、事業者としては既存のプラットフォームをスキップして自社サイトへ顧客を流入させる道筋が生まれた。事業者にとっては、これらのサイトの存在は顧客との関係維持を邪魔するものではあるが、既存プラットフォームを超えて顧客獲得のチャンスを広げてくれ、なにより既存プラットフォームから解放してくれる存在である。

2.プラットフォームから事業者が離脱する最も本質的な理由とは?

しかし、これらにも増してプラットフォームから参加事業者が離脱していく最も本質的な理由がある。プラットフォームを介した取引では、顧客自身のプロファイルや行動、顧客による自社の製品・サービスの使用状況、使用にあたっての感想などについてのデータを収集することはできず、それらに基づいて顧客に個別プロモーションを行うことができなくなってしまっているということだ。

顧客自身の情報のみならず、プラットフォームに参加する事業者が提供する製品やサービスの使用に関するデータや顧客からのフィードバックは、プラットフォーマーに独占されてしまうのである。

また、事業者が自身での顧客接点管理を行うことを重視し始めた背景として、デバイスがPCからスマホに置き換わり、顧客データ収集の可能性が増大していることがある。顧客のスマホにアプリとして入れてもらえば、常に顧客に密着していることが可能で、プッシュして情報を配信することも可能になる。顧客がどこを訪れているか、どこに住んでいるかなどを把握できるGPSや、誰と友達なのかがわかる友達リストや電話帳などのデータベース、顧客の活動状況を把握できる加速度センサ、さらにカメラやマイクまでもが顧客の許しさえあればすぐに手を出せるところにあるのだ。

顧客と直接のコンタクトを確立することにより、顧客ごとのプライシング(価格設定)が可能になるだけでなく、イベントに選択的に招待するといった個別プロモーションが可能になる。さらには顧客の置かれた場面を切り取ったようなプロモーションもスマホにより可能になる。このように増大した顧客コンタクトの機会をプラットフォーマーに独占させるわけにはいかないのである。

実際のサービス提供において直接顧客と接する機会がある事業は事業者側が顧客の属性や嗜好(しこう)、行動の情報を収集する機会は大きい。しかし、Netflixのように顧客の消費行動がプラットフォーム上で行われると、全ての顧客による使用データはプラットフォームに蓄積してしまう。

Netflixは、どの顧客がどのような種類の映画を見る傾向にあるのかを知っているだけでなく、どのような場面にくぎ付けになり、どのような場面で視聴を停止して離脱しやすいのかという情報をつぶさに把握している。さらに、Netflixはその情報を基にして、自身でも映画の制作に乗り出して、アカデミー賞までもさらっていってしまっているのである。これは、フィルムスタジオ側からは、特に許せない存在に映るだろう。アパレルであっても、顧客からの使用感のフィードバックや、どの顧客がどのようなプロモーションに反応するのかという情報があるのとないのでは、今後の製品づくりや売り方に大きな差が出るのは間違いない。

3.業界リーダーのプラットフォーム離脱は「リアルの世界」でも起こっていた

少なくとも今のところは、プラットフォームを離脱しているのは、プラットフォーム企業と比較して遜色ないような大企業、大ブランドに限定されている。もちろん今後、プラットフォームからの事業者の離脱が相次げば、プラットフォームの力が低下して、さらなる離脱が加速するという負のスパイラルに陥る可能性はある。しかし、小さな事業者にとっては、自身で集客したり、プラットフォームが担っていた機能を構築したりすることの負担は相当に大きい。プラットフォームに依存し続けざるを得ないのは今後も変わらないだろう。そうだとすると、プラットフォームは、少なくとも小さな事業者の集まりとして今後も存在し続ける。

今後は、大手事業者においてはプラットフォームからの離脱と垂直統合によりプラットフォームに支払っていたマージンがなくなる分、アパのようになくなったマージン分を原資とした最低額保証を行うことにより商品の価格が低下する状況が続いていく。そうなるとプラットフォーム側は大量仕入れや稼働保証などによる低価格の追求を余儀なくされる。加えて、アマゾンによるプライベート・ブランドの増加やNetflixによる映画制作のようなファクトリー活動への進出が続き、結局プラットフォーム側も垂直統合に向かっていく。

実は、このような産業構造の進化は、ネットの世界に限ったものではない。花王や大正製薬のような業界リーダーが卸機能を自社で持つように、市場シェアが高いほど垂直統合性を上げている現象や、パナソニックやLIXILなどのメーカー自身によるショールーム展開に対抗して、伝統的なショールームオペレーターであるサンゲツが小規模メーカー買収策に出ているように、時間とともに産業が少数の垂直的な関係に整理されてしまう現象は今までのリアル世界でも生じていることなのだ。

結局、ネットワーク効果といわれていたものは、産業バリューチェーンにオンライン顧客接点管理という新しい機能が立ち上がる初期に見ることができた幻影であり、全てはインターネット登場以前からある産業構造進化のダイナミズムで説明できてしまうものかもしれない。

4.プラットフォームVS事業者の戦いIoTや自動運転などの制御がカギになるか

Amazonは、EC機能だけでは最終的な優位を確立できないことを最初から予想していたと思わせるフシがある。倉庫オペレーションを重視し、配送にまで進出するなど、一貫して入荷から配送まで全てのプロセスを補うフルフィルメント機能への投資を継続してきたからだ。ウェブのオペレーションは初期的には重要であるものの、結局は規模の経済が強烈に効く「リアルの機能」を握った者が勝てると考えていたのだろう。

しかし、ここには収穫逓減が働いてしまう。つまり、競合相手がそこそこの規模に達すれば、規模による優位性には限界が生じてしまう。味の素やヤマザキが自社物流に任せて市場支配を試みても、キユーソーやコンビニ物流のような代替手段が現れて思うように市場を独占できないように、結局は配送機能をもってしても決定的な支配に持ち込めない悩みに陥っていくのではないだろうか。そこでは、勝負はつかない。ナイキの離脱は、それを象徴している。

今後の戦いは、単純なネットワーク効果の発現を超えて、Netflixが行っているような顧客行動の分析やそれを使った製品・サービスの改良など、プラットフォーム機能を使った産業バリューチェーン全体の改良に移行していく。5Gをきっかけとしてメーカーや設備オペレーターは、製品やサービスとIoTで接続し、自動運転など製品・サービスの制御に関与できるためこの戦いを有利に進められるようにみえる。しかし、製品・サービスを超えた情報統合や顧客軸での情報統合には反対に弱い面があり、誰が支配的な顧客接点を構築し、それを競争優位に結び付けていくのかは、予断を許さない。

少なくとも言えることは、冷静な状況把握を常に行って、デジタルの顧客接点管理を的確に進化させなければ、産業バリューチェーンから退場を迫られるか、そうでなくても顧客接点に君臨する企業に従属し、成長できないプレーヤーに堕してしまいかねないということである。

※この記事は、DIAMOND onlineにおいて、2020年7月18日に配信された記事を基に編集したものです。

今枝昌宏(いまえだまさひろ)
京都大学大学院、米国Emory University(MBA)を修了。PwCコンサルティング、日本アイ・ビー・エム、RHJインターナショナル(旧リップルウッドホールディングス)を経て、エミネンスLLC代表パートナー。ビジネス・ブレークスルー大学院では、教授として「現代版企業参謀」を担当。著書に『ビジネスモデルの教科書』『サービスの経営学』、共著に『実践シナリオ・プランニング』、訳書に『戦略立案ハンドブック』(すべて東洋経済新報社)などがある。